第131話 春雨に濡れて透ける隣の美少女の胸
突然の豪雨が去った後。
山の中。大きな木の下で。
ずぶ濡れのオレと蘭鳳院。
向き合っている。しっかりと見つめ合っている。
蘭鳳院、濡れた髪を、束ねている。今、束ねたんだ。それでも、白い首筋に黒い髪がまとわりついて。
蘭鳳院、お澄まし顔。その瞳。いつもながら吸い込まれそうな。オレをじっと。びしょ濡れ。いつも以上に冴え冴えしい美しさ。
オレは、びしょ濡れのシャツの上にデニムジャケットをとりあえず着て、すごく蒸れて、気持ち悪いけど、
それどころじゃない!
すぐ目の前。手の届く。ちょっと先の、
蘭鳳院の胸!!
透けている!しっかりと。もう、はっきりと。くっきりと。
びしょ濡れの白のフリルブラウス。肌にぴったりと。蘭鳳院の肌色が見える。
そして、白いブラジャーが。胸の形が……
オレの目の前に。
やばい。オレは濡れて透けた胸を見られて、女子バレするのを恐れたけど、それとは違ったやばさ、危険がここには。
女子のブラジャーが透けてるのを、男子であるオレがジロジロ見るのはいかにもまずいよね。とにかく目をそらさなきゃ。向こうを向かなきゃいけないんだ。当然だ。
でも。
オレは蘭鳳院から、冴え冴えしい美しさの少女から、濡れて透けるボリューム感たっぷりの胸から、目を離すことができない!
どうしたんだ!何やってるんだ。男の修行してきたはずだ。
思い出せ!オレは最後の硬派だぞ! 女子なんかに目もくれない……
ダメだ。頭がクラクラする。なんでだ?
中学時代、女子とは当然ながらみんなで一緒に着替えして、下着姿なんか散々見てきたし、風呂になって入っているのに。
真の男を目指してるから、かえって女子を意識しちゃうのかな?
いや、あれこれ考えている場合ではない。とにかく、女子の透ける胸を見ているのはまずい。あっちを向かなきゃ。
オレはやっとの思いで、濡れた蘭鳳院から、目をそらそうと、
その時、気づいた。
あれ、この状況、何なんだ?
オレは男。オレはヒーロー。オレのすべきこと。
目の前の蘭鳳院。びしょ濡れで、胸が透けて、もうとても隠しようがなくて。
蘭鳳院、ありえないくらい恥ずかしくて、途方に暮れている。そうだ。今の状況、間違いなくそうだ。
で、オレは。
デニムジャケットを着ている。これは、オレの透けた胸を隠すためだけど。普通なら、男子は胸を隠す必要がない。
蘭鳳院、オレを見つめている。
蘭鳳院が期待しているのは、いや、蘭鳳院が言わなくても、当然、オレがしなくちゃいけないのは。
オレがデニムジャケットを脱いで、蘭鳳院に着せてやる。そうだ。当然それだ。男として当然だ。目の前で胸が透けて恥ずかしい思いをしている少女がいるのに、自分はジャケットを着てそれを見てるだけなんて、絶対に絶対にありえない。
もしオレがジャケットを、蘭鳳院に着せてやらなかったら?
当然ながら、蘭鳳院は、呆れて、がっかりして、オレのことを軽蔑するだろう。このところ、だいぶオレに良い態度をとってくれることもあるようになったのに。
非道い男だと思うだろうな。当然だ。誰だってそう思うだろう。女の子に、自分のジャケット1つ着せてやれない男。目の前の女子が助けを求めているのに、知らんぷりする男。恥ずかしい思いをさせたまま。最低だ。言い訳できない。
でも。
このジャケットを脱ぐことはできない。これを蘭鳳院、お前に着せてやることはできないんだ。なぜなら、これは脱いだら、オレの透けた胸が露に。もう隠しようがなく。女子だとバレちまう。そうしたら、オレは破滅だ。オレは自分を守るために、このジャケットを脱ぐことだけはできない。ジャケットは1枚しかないんだ。お前の分はないんだ。どうしようもないんだ。
でも、いいのか。
本当にそれでいいのか。
オレは、男。
男の中の男。
真の男。
最後の硬派。
男の坂道を登るヒーロー。
目の前の女子を救うためなら、たとえそれが隣で机を並べるだけの子だったとしても。
救う。
何があろうとも救う。たとえ、どんな犠牲を払ってでも。
それがヒーロー。ヒーローになる。悠人と誓ったんだ。
オレは、ヒーロー。




