第130話 魔剣少女は胸を守ります
寺からの帰り道。
オレたちは、真っ黒な雲に覆われた空の下、足元の道を確認しながら、背の高い草をかきわけ、進んでいく。むっ、とする草の匂いの中を、だいぶ進んだところで、
「すごい空。雨が来そうだね」
空を見上げる蘭鳳院。
と、
ポツ、ポツ、
雨が降ってきた。と思ったら、
ザー、
突然の豪雨、土砂降りに。まるでバケツひっくり返したみたい。こんなにいきなりの土砂降りは、本当に久しぶり。
頭から、水をぶっかけられたような。
ピカ、ゴロゴロ、
おまけに雷まで。
凄い土砂降りで真っ暗。視界も急に効かなくなる。
「うわー、大変だ。オレ、傘持ってない」
「私も」
「とにかく、どこか雨宿りできるとこに行かなくちゃ。走ろう!」
オレは蘭鳳院の手を握る。
「手を離さないで。オレについてきて」
こういう時は、断固として男、ヒーローであるオレが、蘭鳳院を守らなくちゃ。
フッ、
女子を守り、助け、導くのが男のヒーローってもんだぜ。さっき異世界幽世で蘭鳳院を助けるべく奮闘し、魔物を倒した。それが自信になっている。この子は絶対にオレが守るんだ。
激しい雨で、視界が利かない中、オレは蘭鳳院の手を引く。温かい。蘭鳳院の手のひらの温もりが豪雨の中、伝わってくる。
どうすればいいんだろう。雨宿りできる場所。とにかく大きな木の下に入るしかない。もうとっくにずぶ濡れだけど。
少し離れたところに、大きな黒い影が見える。大木だ。よし、あそこまで行けば。気が焦る。
「蘭鳳院、あそこまで行くよ。気をつけて」
そう言って、先を急ごうとしたところで、
「うわあああっ!」
雨でぬかるんだ土に足を取られ思いっきり滑った。前のめりに転ぶ。
「ぐは、痛て」
草と土の匂い。びしょ濡れで倒れた。
「大丈夫?」
後ろから蘭鳳院。オレの手を引っ張って、助け起こしてくれる。
うぐぐ、
オレは倒れる時、とっさに握っていた蘭鳳院の手を離した。だから。蘭鳳院は一緒に倒れずに済んだ。どんな時でも、ヒーローは女子を守るんだ。
でも、
「もう、勇希、そんなに慌てないで。とっくにびしょ濡れだから、ゆっくり行こうよ」
蘭鳳院、オレに顔を寄せて、にっこりする。
うーむ。またまた。やっちまったな。蘭鳳院の前で派手に転んじゃった。これじゃ、女子を守って魔物と戦うヒーローには見えないよな。
「勇希が私のことをすごく気にしてくれたの、本当によくわかったよ。ありがとう」
蘭鳳院、ふふっ、と笑う。
お嬢さん、オレがヒーローだって、だんだんわかってきてくれたのかな?それとも……なんとなくおちょくってる雰囲気が。どっちなんだろう。もう、わからない。土砂降りでびしょ濡れで。
オレたちは、やっとの思いで、草をかき分けて、大木の下にたどり着いた。そうしたら途端に、雨が止み、雲が切れて、やがてどんどん青空が広がり、元の五月晴れに戻った。
なんだ。一体何だったんだ? これは。とにかく、ひどいずぶ濡れ。
オレは、自分の体を確認、
あっ!!
その時気づいた。オレは白いスポーツブラに、ゆったりとした白いシャツを着てきた。雨でびっしょりと濡れて、シャツはすっかり体に貼りつき、スポーツブラはくっきりと浮き出ている。ブラで締め付けた、オレのCカップの胸も、膨らみ盛り上がはっきり出ちゃっている。
ヤバイ!!
オレは真っ青になった。
女子バレ!! バレたら終わり、なんだよね? まだそのルール生きてるんだよね? 女子バレ即アウトルール解除されたって話聞いてないし。
最近女子バレの危険が全くなかったので、油断してた。急な雨だし。
見られた? 蘭鳳院に?
いや、大丈夫だ。ずっと、暗くて視界の利かない中、背の高い草を掻き分けてきたし、今は、蘭鳳院と背を向けている。
まだ、何とかなる。オレは自分のバッグを開け、念のために持ってきたデニムのジャケットを取り出し、素早く着る。
助かった。ジャケットのボタンを閉めながら、オレはほっとする。
胸が透けたらやばいよな。女子の胸。もっと厳重に守らなきゃ。
でも、今回はうまく乗り切ったぞ。オレは蘭鳳院を振り返る。
ああっ!
オレは息を呑む。
オレに背を向けていた蘭鳳院、ちょうどこっちを振り向いたところ。
オレの目が釘付けになる。蘭鳳院の胸。白いフリルブラウスの胸。オレと同じくびしょ濡れで、肌にぴったり張り付いて。
透けている。
蘭鳳院のボリューム感のある胸の膨らみ。
白いブラジャーがくっきりと。
ゾクリ、
オレは震えた。
すっかり雨が上がって、五月晴れの陽が燦々と降り注ぐ中で。




