第13話 映え女子に掴まって
クラスで、いろいろひどい目にあった。
委員長に殴られて、午後の授業、ぽわーんとしていた。
やっと授業が終わる。
放課後。
オレはそのまま帰る気にもなれず、図書室に行き、少し勉強することにした。
頭を冷やそう。勉強もしなくちゃ。
急に男子の人生が始まって、やることがいっぱいできたけど、勉強もその一つ。
天輦学園高校。
超名門エリート校。偏差値レベルもやばい。
今から勉強して、みんなに追いつけるわけじゃないけど、全く何もしないと言うわけにもいかない。
あぁ、面倒だな。
クラスじゃ、今日も派手にヤラカシちまった。でも、女子バレしそうなのを、なんとか誤魔化せた。
うまくいってるんだ。勉強に集中して、切り替えるんだ。
勉強に集中……
でも、すぐに眠たくなっていて、うたた寝しちゃった。
気づいたとき。
もう、日は沈み、空は藍色に染まっている。
ここはさすがエリート校だけあって、結構遅くまで図書室がやっている。真剣に自習している生徒、まだまだいっぱいいる。
でも、オレはもういいや。だいぶ遅くなった。もう帰ろう。オレは鞄を引っ掴むと図書室を出る
校門を出る。宵の春の風。気持ちいいな。
おや? オレは、ふと気づいた。
誰か、いる。校門の脇の人影。誰だろう? 暗くてよくわからない。
あのシルエットは?
オレが考えるより先に、シルエットが、こっちに走り出してきた。
「勇希! 待ってたよ」
満月だ。
満月妃奈子。
満月が、うれしそうに、オレのもとに、駆け寄ってくる。
なんだ。いったいなんだ。
身構えるオレ。満月は、お構いなしにオレに飛びついてくる。
オレの左腕にしがみついてきた。満月は、両腕をオレの腕にをがっちりと巻き付ける。相変わらず、力強いな。
「あの、満月さん! いったい何!」
「うふふ」
満月、オレの腕をしっかりつかみながら、顔を寄せてくる。
「いったい、どうしたの?」
なにすんだよ。いきなり。
「えー、だって」
満月は、オレを、うっとりした目で見ている。何か企んでいる。そういう目。距離が近い。オレの目の前に、満月の顔がある。
「勇希、今日の香水弁償してくれるっていったじゃない?」
「え? うん? それはもちろん……あの……必ず同じの買ってきて返すから、それでいいよね? 約束するよ」
「今日じゃなきゃイヤ!!」
満月がいたずらっぽく笑う。
は?
「これから一緒に買いに行こうよ。だから待ってたの。駅前のショッピングモールで売ってるから、行こうね。いいでしょ? いやっていわせないからっ!」
えええ?……これから……一緒に?
えーと…オレは、女子だけど、今、男子してる。
男子生徒のオレ。
満月に香水を買うために、これから一緒にショッピングモールへ……?
なんかこれ……これってさあ……
「さあ、行こう!」
満月は、有無をいわせず、オレの手を引っ張っていく。
「あ、あの」
オレは、なにかいおうとしたが、ダメだ。とても無理だ。
まぁ、仕方がない。
もともと、オレが悪かったのは確か。今日の事は今日中に決着をつけよう。それもよかろう。とにかく、香水さえ買えば、それでいいんだ。
オレは、満月に引きずられていく。ちょっとお買い物するだけ。なんでもない。なんでもないさ。
◇
歩いて10分ぐらいで、駅に着く。
天輦学園高校は閑静な郊外にあるが、駅前には繁華街。大きなショッピングモールもあって、賑わっている。輝くイルミネーション。夜でも明るい。
オレたちは、ショッピングモールに、入る。人混みの中、満月はオレを引っ張っていく。
この状況て、なんだろう? オレは考えた。
女子が男子にまとわりつき、買い物に連れ出していく。
これは普通に考えると、もちろん、“恋愛感情”?
満月が、オレに恋をしている?
いや。うーん。なにか違う。
恋愛とは……違うような……うん、絶対違う。
オレが実際には女子だから、そう思うのか? そうではなく……
満月。
オレのすぐ隣の満月。オレの手を掴んで、オレにぴったり体をくっつけて……
なんだか、すごく満足そう。目がキラキラしている。獲物をつかまえたハンターの目だ。
この子はーー
どういう子なんだろう。オレは考えた。
なんというか……そうだ、とにかくほしがりで、自分を飾りたがり、見せびらかしたがり、そういう子なんだ。
自分をとにかくアピールしたい。自分をもっと、見て欲しい。魅せたい。私を見て。
いまどき女子に、よくあること。いや、男子だって……
見せたい業界、映えたがり業界。見せたがり、映えたがり業界。
その一大業界で、満月には、天性の素質と才能がある。
もちろん努力もしてるんだろう。さっそく、クラスの陽キャ女子グループのリーダーに収まっている。女子に憧れられる女子。それを自覚して、もっと上を目指してるんだ。そして成功している。でも、満足できない。こんなんじゃ、まだまだ……
満月を満足させるなんて、無理。もっと欲しい。もっとやってやる。もっと飾って、もっとみせびらかす、見せつける。見てほしい。
オレを引っ張って行く、満月のうっとりとした表情。すごく輝いてみえる。
別に、オレに惚れてるから、うっとりしてるんじゃない。オレを連れ回している自分に、うっとりしてるんだ。オレを、みんなに、みせびらかすのが嬉しくて仕方がないんだ。
要するには、満月にとって、オレは高価なバッグかペットか、アクセサリーか、そういうポジションなんだな。
珍奇な、アイテム。
みんなが欲しがるけど、手に入れられないもの。
それは、絶対自分が欲しい。そういうことだ。
やれやれ。
まあ、確かにオレは、いろいろ注目されている。
キラキラした目でオレを見つめる女子は多い。他のクラス学年からもオレの見物に来る。満月にとって、オレは連れ回す価値、十分あるだろう。
他の女子ができないことを、やっている自分。その自分にうっとり。それが満月。
ううむ……
これってやばいのかな。
しかしまあ、満月だって、そんなに悪い奴ではない。クラスでの様子をみていれば、わかる。
陽キャリーダー、ビジュアルリーダーだけど、陰キャにも、丁寧に接している。
あの正義派の暴力委員長の親友なわけだしな。
今日のところは、満月を大得意にさせてやればいいだろう。
満月が、いくら、オレをものにしたいといっても、クラスじゃ、委員長の目が光ってるから。そんなに無茶なことはできない。買い物を済ませて、それで終わりだ。
それでよしとしよう。
でも。もし、普通の男子だったら……オレは思った。
クラスの陽キャ女子のリーダーに、買い物に連れ回されたら、すっかりメロメロになっちゃう……のかな?
男をメロメロにしたら、満月はどうするんだろう。飽きるまでオモチャにして、そしてポイ捨てしちゃうのか?
なかなか……これは。剣呑だ。並の男子だったら、危ないところだ。
だが、オレは違う。
フッ、
オレを甘く見るなよ、満月。オレは男の中の男を目指す女子。
男の修行を積んでいるんだ。おまえが、なにを仕掛けてきても、オレは余裕で受けきってやるぜ。
◇
ショッピングモールの中。
結構混んでいた。夜7時を回った頃だ。塾や部活帰りの女子高生、男子高校生、大学生、仕事の後のサラリーマン、買い物や食事に来た家族連れ、などなど。制服姿も多い。
オレたちは、とにかく化粧品売り場に急ぐ。セーラー服女子と学ラン男子。
どう見ても……これって……カップルにみられちゃう?
手繋ぎだし……
そのまま、カップル。
知るもんか。
今日で絶対カップル解消だからな。すぐ解消だ。次はないぞ。
オレは誰の子犬にも、オモチャにも、ならん。
オレのすぐ横の満月の、得意そうな顔。頬が少し紅潮している。
自分にうっとりとした、夢見るような瞳。




