表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/274

第127話 蘭鳳院の舞



 安覧(あんらん)寿覧(じゅらん)の二人。


 笑顔でオレを見つめている。


 2人とも若い。幼くさえ見える。仏門に入る前の姿なのか、髪はもちろん普通に伸ばしている。


 オレは何を言ったらいいかわからなかった。


 

 口を開いたのは、凛々しい男装青服の安覧(あんらん)


 「魔物(モンスター)討伐、お見事でした」


 「頼もしかったですよ」


 赤服の美しい寿覧(じゅらん)もいう。透き通った綺麗な声。


 見てたの?


 もうちょっといろいろアドバイスとか欲しかったな。こっちは異世界初心者なんだし。


 「蘭鳳院(らんほういん)……あ、その女の子を助けていただいて、ありがとうございます」


 オレは一礼する。何はともあれ、蘭鳳院を助けてもらったんだ。


 「この方が、我々を呼んだのです」


 安覧寿覧は、臥している蘭鳳院に目をやる。


 蘭鳳院が二人を呼んだ? ずっと意識を失って眠っているように見えるけど。ここは異世界異空間なんだ。いろいろ不思議なことが起きるようだ。


 凛々しい男装の安覧、オレをキラキラした瞳で見つめて、


 「本当にお強いですね。私たちは最初から安心していました」


 「いやあ」


 オレは照れる。凛々しい武者姿の女子に言われると。そういえば、本当の合戦で活躍した武士なんだっけ。仁覧(じんらん)和尚の話じゃすごい暴れん坊だったって言うけど、今は、ずいぶん穏やかな性格に見える。


 安覧が、興味津々といった様子で、


 「ところで、最前から気になっていました。背中に刻まれた文字は一体何なのでしょう。魔除けの呪文でしょうか?」


 「へ?」


 背中の文字? 不吉な予感がした。オレは着ていた長ランを脱ぐ。そして背中を。


 「ああっ!」


 オレは真っ赤になった。長ランの背中には、


 “ オレは男だ。女子はみんなオレの前に這いつくばれ ” の刺繍がしっかりと。


 特注の長ラン!


 背中の刺繍文字!


 そうか、オレはこの長ランを、天下御免の戦闘服として作ったんだ。だから、ヒーローの戦闘服も当然これになるよね。家でこっそり着ようと思ってたんだけど。


 オレは、真っ赤になって、


「あの……これは……オレの世界での、元気が出る掛け声で…… 特に意味は……」


しどろもどろだ。


 寿覧が着物の裾で口を押さえ、ククッと笑う。


 なんだかこの2人、全部お見通しなんじゃないか。オレは冷や汗。脱いだ長ランを、背中が見えないように丸める。



 「あの、どうやったら元の世界に戻れるんですか? 現世(うつしよ)に? これまでは、魔物(モンスター)を倒したら、自動で戻れたんですが」


 やっと本題。とにかく、肝心なことを聞かなきゃ。こっちにずっといるわけにいかない。蘭鳳院も、ずっと眠り姫してるわけにも。


 安覧寿覧の二人、顔を見合わせる。


 「すぐに元の世界に戻れます。あなたのおっしゃる通り、本来はもっと早く現世(うつしよ)に戻れるはずでした。でも、このお方が、私たち二人ともっと話をしたいと、おっしゃったので」


 と、安覧。


 このお方?…… 蘭鳳院(らんほういん)のこと!?


 え? 蘭鳳院、ずっと眠ってたんだよね? それで安覧寿覧と話を? どういう仕組みになってるんだ?


 「では、元の世界にお届けします。またお会いしたいですね。最後に、この方が、こちらの幽世(かくりょ)の我々に、舞を披露したいと言っております」


 と、寿覧。


 床の蘭鳳院、眠っている。でも、意識は安覧寿覧とつながっている?そうなの? 舞を披露する? どういうこと? オレは成り行きを見守るしかなくて。


 村人が、楽器を持ってきた。安覧には小鼓。寿覧には琵琶。


 楽器を手にした2人。


 「では、参ります」


 と、安覧。寿覧もうなずく。


 ポン、と安覧が小鼓を叩く。寿覧が琵琶の弦を撥で弾く。演奏が始まった。どこか物悲しい音色だ。村長を始めとする村人たち、みんな感じいったように聞きいっている。


 その音色に。


 床の蘭鳳院がゆっくりと起き上がった。あれ、やっぱり目が覚めたの? いや、違う。蘭鳳院、うっすら目を開けているが、意識があるように見えない。眠ったまま、安覧寿覧の奏でる音色に合わせ、体を動かしている。


 蘭鳳院、みなの中央に優雅な足取りで進み出る。そして、ゆっくりと踊りだした。


 バレエの動きかな。新体操ほどアクロバットな演技ではない。優雅にターンし、軽くジャンプし、バランスを決める。よどみなく、柔らかな踊りが続く。ブラウスの胸のフリルが揺れ、プリーツスカートが翻る。


 物悲しい音色の中、踊り続ける蘭鳳院。青白い光を帯びているようだ。異世界黄泉の国幽世(かくりょ)でも、別世界感。新体操の究められた演技とはまた違った、軽やかで、鮮やかで、そこに彩りを灯す、重々しくも見える舞。


 蘭鳳院、こんなのもできるんだ。


 オレは感じ入っていた。蘭鳳院から、一瞬も目が離せない。



 あ、



 オレは気づいた。



 青い星だ!



 間違いない。蘭鳳院の右の頬。青い星。青い光が見える。


 体育館での新体操演技で見たのと同じだ。


 はっきりと見える。やっぱり見間違いじゃなかったんだ。


 安覧寿覧、村人たちの見守る中、青い星の美少女の踊りが続く。オレはずっと目を奪われていて。



 やがてーー



 急に周囲が、白くなった。蘭鳳院も安覧寿覧も村人たちも、見えなくなってーー


 空間が歪む。



 帰るんだ。帰れるんだ。


 現世(うつしよ)に。


 オレたちの世界に。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ