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第126話 最終兵器の2人



 「ようこそ。この村の(おさ)です」


 異世界幽世(かくりょ)で見つけた村に入ったオレ。


 1番大きな家から出てきた男が、出迎える。昔の着物に、頭は丁髷。時代劇のまんまだ。


 「……一文字勇希(いちもんじ ユウキ)です」


 とりあえず、これでいいのかな。


 「どうぞ、こちらに」


 村長がオレを家に案内する。オレも従う。


 家の中。日本の家屋だ。


 入り口から入って、土間で靴を脱いで、板の間に上る。土間には草鞋が何足も。


 「お座り下さい」


 板の間の上。縄を丸く重ねたような敷物を勧められる。全部昔の日本の様式なのかな。オレは時代劇とかちゃんと見てないから、どうもよくわからない。元の世界に戻ったら、ちゃんと勉強しよう。


 とにかく座る。


 村長が、オレの正面に。あと何人も村人が出てきて、オレを囲んで、みんな縄の敷物の上に座る。


 板の間の奥にも部屋があるらしい。襖が閉じている。


 何が始まるんだろう。



 ◇



 「お待ちしていました。あなた様が来る事は、伺っていました」


 うん? オレが来るのを知っていた?だったら、もっとちゃんと出迎えとか案内(ガイド)とかしてくれればよかったのに。人気のない野原をあてもなく歩くのってすごく心細かったんだ。


 「あの、オレが来るって誰から聞いたんですか?」


 村長が、1つうなずく。


 村の若者が2人。奥の襖を開ける。


 「あっ!」


 オレは叫んだ。


 奥の部屋。こっちと同じ板の間。そこに、独角独眼鬼(トールオーガ)と戦った時現れた、女子2人。前と同じ青服と赤服のままで、縄の敷物の上に座っている。2人ともにっこりしている。


 その2人の奥にいるのはーー


 「蘭鳳院(らんほういん)!」


 オレは駆け寄る。もう無我夢中で。悠人(ゆうと)は大丈夫だって言ってたけど、いきなり消えたから、すごく心配してたぞ。


 蘭鳳院、板の間に敷かれた布団の上に、横たわっている。


 ちゃんと服は着ている。白いフリルブラウスにピンクのプリーツスカート。鎌倉校外実習で着てきた服だ。こっちに転移したときは裸のはずだったけど、服も転移してきたのか? オレは気づかなかったけど。


 オレは蘭鳳院(らんほういん)の顔を覗き込む。


 蘭鳳院、目を閉じている。息はしている。眠っているのか?


 「心配されましたか?」


 赤服の女子がいった。優しい声だ。


 「眠っているだけです。元の世界に戻れば、目を覚まします。ご安心ください」


 「あの、蘭鳳院を助けてくれてありがとうございます」


 オレは言った。


 赤服女子と、男装の青服、笑顔でうなずく。青服の弓と箙、奥の壁にかけてある。


 スヤスヤ眠る蘭鳳院の美しい寝顔。無邪気だな。オレの方はほんとに大変で、心配したのに。でも、


 ほっとした。うれしかった。



 ◇



 「ここは結界で守られた隠れ里なのです」


 村長が言う。


 奥に眠っている蘭鳳院を寝かしたまま、オレたちは元の板の間で。


 赤服青服女子も、オレを囲んで座る。村人はみんな地味な格好しているが、赤服青服女子は、目立って豪華な衣装。


 「一文字勇希(いちもんじ ユウキ)殿、あなたもご存知でしょう。ここは、幽世(かくりょ)、あなたの世界現世(うつしよ)で、黄泉の国と呼ばれているところなのです」


 オレは頷く。


 「私たちの先祖は、ずっと昔、あなたの世界で暮らしていました。ところがある時、幽世(かくりょ)と世界が重なり、村ごと、幽世(かくりょ)に呑み込まれてしまったのです」


 村ごと転移か。そんなこともあるんだ。怖いね。


 「私たちの先祖は、魔物(モンスター)に囲まれました。途方に暮れている時、助けて下さった方がいたのです。『最終兵器』様です」


 『最終兵器』? ヒーローのことを、大昔は最終兵器って呼んでたと校長が言ってたけど、本当だったんだ。


 「『最終兵器』様は、魔物(モンスター)を打ち払い、結界を張り、私たちが安心して住めるようにしてくださいました。もとの世界に戻ることもできたのですが、私たちの先祖はここで住むことを選びました」


 「どうしてです?」


 「私たちの先祖のいた世界は、戦乱の世でした。ここで結界に守られて、ひっそりと安心して暮らせるなら、そのほうがいい。先祖たちは、そのように考え、みなで残ることに決めたのです」


 「そうなんですか」


 オレはふと、気づいた。

 

 みんな、赤服青服女子をみている。


 「その『最終兵器』様っていうのは、この方達なんですね?」


 赤服青服女子。またまた、にっこりとする。


 2人の名前。オレは知っていた。


 二人の名はーー


 「安覧(あんらん)です」


 男装の青服女子が言った。


 「寿覧(じゅらん)です」


 優美な赤服女子がいった。


 一緒に仏門の修行をして、仲睦まじく2人で女人往生成仏を遂げたという安覧(あんらん)寿覧(じゅらん)、この2人が、大昔の宿命のヒーロー、最終兵器だったんだ。



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