第124話 光の刃
オレは独角独眼鬼と向き合った。
5メートルはある青銅色の巨軀。ゴツゴツした太い腕で持つ、でかく、ずっしりとした刀。
だが、恐れはない。
オレにあったのは、怒り。
こいつは蘭鳳院を喰い殺そうとした。オレの見てる前で。オレの蘭鳳院を。
許せん。
お前はヒーローを完全に怒らせたのだ。
正面から対峙する。黄金色の枯れ野が風にサラサラと。
独角独眼鬼の眼。生気はなし。魔物みんなそうなんだ。不気味だ。何を見ているんだ?
オレもまっすぐに見返してやる。
間合い。ちょうどいいだろう。こっちから行ってやる。魔物ごとき、ヒーローの剣で真っ二つだ。
オレはビュッと踏み込む。長ランの裾が翻る。
正面上段から、天破活剣を振り下ろす。青白い光の刃が伸びる。
グオッ、
独角独眼鬼、今度は刀で受けない。右に跳ぶ。巨軀が宙に。跳んで天破活剣の光の刃を躱した。
ズシン、と巨軀が大地に。このでかさで、身軽な動き。こんなの見たことないぜ。オレはちょっとびっくり。
やはり敏捷な動きができるんだ。最初、鈍重な動きをしていたのは、罠だったのか? 魔物も知恵を使うのか?これは面白い。
だが、こっちもーー
驚かせてやるぞ!
オレは振り下ろした天破活剣を間髪入れず、そのまま水平横薙ぎに振る。独角独眼鬼の脇腹をめがけ。
ガーン!
独角独眼鬼、今度は刀で受け止める。躱せない。跳び回るのも限度があるのか? 重量ある青鬼の刀が天破活剣の青白い刃と、火花を散らす。相変わらず、でかい刀を片手だけで持っている。オレの打撃にびくともしない。巌のようだ。
強いな。だが、
「まだまだだ」
オレは独角独眼鬼にニヤリとする。多少手ごたえがあった方が、戦いは楽しいぜ。
「刃よ戻れ!」
オレは叫ぶ。
オレの天破活剣。木刀の刀身の先に伸びていた青白い光が、オレの手元にヒュッと戻る。いいぞ。光の刃。やはり思い通りに操れるんだ。
すかさずオレは踏み込み、まっすぐに突く。
「奴の心臓をぶちぬけ!」
天破活剣。木刀の先から青白い光がまっすぐに伸び、独角独眼鬼の胸を貫いた。
グオ、グオ、グオーン!!
独角独眼鬼の長い咆哮。胸から青い煙が噴き出す。仁王立ちとなった青鬼。そのままゆっくりと、立ったまま、ぐずぐずと崩れていく。そして、黄金色の枯れ野に消えていった。
◇
オレは、ふうっと息を吐く。
独角独眼鬼が朽ち崩れ消えたあたりに行ってみる。
でっかい刀。
青鬼の刀が転がっている。それ以外、何もない。あれだけの巨軀が跡形もなく。
「やっぱり、オレたちの世界の生き物とは違うんだな」
つぶやいたオレは、独角独眼鬼の刀を手に取ってみる。
う、
重い。持ち上げられない。今度は両手で柄をしっかりと握る。
そして、
「いでよ、ヒーローパワー!」
オレの全力。独角独眼鬼の刀。やっと持ち上がる。
でも、
ドシン、
オレは刀を放りだした。重すぎてずっと持ってることができない。
こんな刀を振り回してたんだ。すげーな、あの魔物。やっぱり一撃くらったら、ひき肉になっちゃうな。
でも、オレはあいつを倒した。オレの剣、自在に操れる光の剣だ。とっさに、刃を戻したり出したりしてみたけど、うまくできた。あのでかい、ごつい体を、やすやすと貫いた。独角独眼鬼、オレの動きを読めず、見えていなかった。
やつは、でかい刀だけ置いて、消えてしまった。
せっかくの戦利品。魔物のドロップアイテムと言うやつか。どうも重すぎる。これじゃ持って帰れないな?
帰る?
そうだ。
どうやって元の世界、現世に戻るんだっけ?確かこれまでは、オレを異世界幽世に引っ張り込んだ魔物を倒すと、自動で元に戻れた。
独角独眼鬼は倒した。なんで戻れないんだろう。
オレをこっちに引っ張り込んだのはあいつじゃないのか?
蘭鳳院は?
蘭鳳院はどうなったんだ? 急に心配になった。
確か、校長が巻き込まれて、異世界空間に引き込まれたときは、魔物を倒すと、一緒に元の世界に戻れたはず。
オレは戻れていない。
て、ことは、蘭鳳院もまだ、こっちの世界にいるのか?
「おーい! 蘭鳳院!」
オレは叫んだ。
「どこだー、どこにいるんだー、聞こえてるかー、返事してくれー」
だが、何も返ってこない。
辺り一面、黄金色の枯れ野がざわざわと風にそよいでいる。




