第122話 鬼に「鬼さんこちら」って通用するの?
独角独眼鬼。
オレの天破活剣を余裕で受けやがった。
やってくれるようだな。青鬼さん。
敵は強くなっている?
そうか。オレがヒーローとしてレベルアップしてるから、出てくる魔物もレベルアップしてる。そういうことだな。校長の話じゃ、オレの帯びる宿命の力が弱いうちは、小物しかオレを嗅ぎつけてこない。オレが強くなれば、だんだん強い奴がオレを嗅ぎつけて襲ってくる。そうだったな。
上等だ。どのみち、こっちのレベルに合わせた敵しか出てこないんだ。問題ない。
でも、どうやって戦おう。正面から剣を振り回すだけじゃダメみたいだ。
あちこち走り回りながら、隙を伺おうか。
相手はでかい。あの筋肉。かなりの怪力だろう。バカ力で、でっかい刀を振り回す。分厚くて重そうな刀。危ないな。一撃食らったらそれでおしまいだ。
宿命のヒーロー。1人、宿命の道に斃れたら、また次の誰かが指名される。
フッ、
オレはそんなに簡単にくたばらないぞ。くたばるわけにはいかない。くたばるつもりはない。
青鬼。うかつに近づけない。やっぱり距離をとって、相手の動きをよく見て、攻め筋を見つけよう。
オレはこちらにズシ、ズシ、と進み出てくる独角独眼鬼をしっかり見据えながら、後ずさりする。
そして、周囲の野原に目を。
あっ、
オレは、一瞬、凍りつく。そして、体がかーっと熱くなった。
見た。見つけた。
枯れ野に横たわる白いーー
あれは、あれは、
蘭鳳院!
間違いない。枯れ野の中に、蘭鳳院が横たわっている。しかも、裸だ。
どうしたんだ?意識を失っているのか?
裸ってことは、温泉に浸かってるところ、こっちの世界に。
校長が言ってたな。巻き込まれて一緒に転移とか。
蘭鳳院、オレが引っ張りこまれたのに巻き込まれて、異空間異世界に来ちゃったの? 黄泉の国、幽世に?
大変だ。
オレは血の気が引いた。確か巻き込まれて引っ張りこまれた人間も、こっちで怪我したり死んだりしたらそれで終わり。そういう話だった。だからこの前、校長は戦いになったら一目散に逃げたんだ。
蘭鳳院が危ない。
目の前の青鬼から、蘭鳳院を守って戦わなきゃいけない。
グオ、
独角独眼鬼の不気味な唸り声。
◇
えーっと、どうしようか。とにかく、蘭鳳院を戦いに巻き込んだらいけない。蘭鳳院は、意識を失っているようで、野原に倒れたままピクリとも動かない。自分で逃げられない。
とにかく蘭鳳院から離れるんだ。離れたところに独角独眼鬼をおびき出し、そして倒す。それしかない。蘭鳳院が近くにいちゃ、危なくて、思いっきり戦えない。
オレは蘭鳳院と反対側に、走っていく。
「おーい、鬼さん、こちら!」
さあ、独角独眼鬼、来るがよい。こっちで、オレと一対一の勝負だ。
しかし独角独眼鬼は、オレを見ていない。
ん?
どこに頭を向けている?どこを見ている?あいつが見ている方向、それは。
蘭鳳院!
あいつも蘭鳳院に気づいた?
ダメだよ。
オレは焦った。
野原に落ちている石を拾う。そして、思いっきり、独角独眼鬼に投げる。
カキーン!
いい音がする。元野球部のオレが投げた石。狙い誤まらず独角独眼鬼の後頭部を直撃。
でも。
独角独眼鬼は全然反応なし。あいつの頭、石でできているのか?こっちを見ようともしない。ズシ、ズシ、と倒れている蘭鳳院の方へ。
なんだあいつは。女の子の方がいいのか? 青鬼の分際で。オレも女の子だけど。あいつに女子バレしてないんだ。いや、今はそんなことどうでもいい!
「お前の相手は、オレだぞ!」
思いっきり叫んだ。そして、天破活剣を振りかざし、オレを見てもいない独角独眼鬼へと突撃する。
でも。独角独眼鬼が動いた。速い。
えええっ!
さっきまでの鈍重な足運びと全然違う素早さで、独角独眼鬼が駆け出した。蘭鳳院の方へ。
うわっ、なんだよ。
いきなり反則だよ!
蘭鳳院!
黄金色のススキの間に横たわる、白い裸身。




