第121話 青鬼、その名は
異世界異空間転移。
3度目か。慣れたぞ。オレは落ち着いている。
周りは真っ暗から、真っ白になり、やがてぼんやりと、次第にしっかりと輪郭が。
気がつくと、オレは野原にいた。
空は ーー 晴れている。太陽。空は、オレの現実世界現世と同じだ。太陽が西に傾き、午後もだいぶ遅いようだ。
足元 ーー 野原。ここじゃ、秋なのか? 枯れた草、ススキが風にしなっている。
少し離れて、木立。森が見える。
人気はないな。
ここ、黄泉の国、幽世ってとこだよね。
オレは異世界異空間に転移した。これって例によって魔物に引き込まれたってこと? じゃあ、どこかに、オレを引き込んだ奴がーー
オレは周りを見回す。黄金色の枯れススキの野原。枯れ野というやつ。
その時、風がビュオッと吹いて、空気が震えた。
グオッ!!
咆哮。そして獣の臭い。
早速お出ましか。
どこだ。オレはあたりを見回す。わりと近くから聞こえた。
おや?
10メートル位先の、ススキの山、盛り上がった。と思ったら、
ガバッと枯れ草の下から魔物が現れた。
◇
毎度ながら。
でかい。
今度は二本足で立っている。見た目は、鬼。そうだ。絵本とかでよく見る鬼とだいたい同じ。ごっつい筋肉質の巨軀。全身青銅色。青鬼か。太い腕に足、所々妙な盛り上がりがある。瘤というか。凸凹した巨軀。黄色い腰布を巻いている。頭。1つ目に、1本角。
背丈はオレの3倍以上はある?5メートル位か。
手には、巨大な刀……て言うのかな?長方形の、包丁や鉈をでっかくしたようなやつ。長さ3メートル位ありそう。むき出しの刃。ギラリと光っている。
青鬼、悠然と、枯れ草の中から起き上がる。
グオ、グオ、と不気味なうなり声。
相変わらず壮観だな。しかし、不思議と恐怖は無い。でっかいのに慣れたのか。ヒーローパワーで、心や感覚が強化されるのかしらん。何も知らないでこいつを見たら、腰を抜かすよなあ。
しかし今は。こいつはこの野原で何をしてたんだろう?昼寝でもしてたのか? それでオレの匂いをかぎつけて、オレをこっちに引っ張り込んだのか?そんなことを考える余裕もあった。
「そいつは独角独眼鬼だ」
兄の声だ! 悠人。姿は見えない。でも、本当に安心する。ちゃんと、サポートしてくれるんだ。悠人の案内。これがあれば、何も怖くは無い。
オレは、改めて目の前のやつを見すえる。
独角独眼鬼っていうのか。青鬼さんの方がしっくりくるけどな。出会って早々、悪いが狩らせてもらうぜ。ヒーローのステータスアップさせてもらうぞ。
「天破活剣!」
オレは叫ぶ。
右手に、青白い光を帯びた木刀が現れた。そして、オレがまとっているのは、風にたなびく長ラン。
ヒーローモードだ。
一撃で決めてやるぜ。
的はでっかい。外すわけがない。
オレは両手で天破活剣を握り、上段に構える。
でっかい独角独眼鬼、動かず、オレを見下ろしながら、グオ、グオ、と息を吐いている。
フッ、
ヒーローを前に怖じ気づいているようだな。
ならば、こちらから行く。
オレは枯れ草を踏みしめ、天破活剣を、
「えい!」
と、振り下ろす。刀身よりはるかに長い青白い光が、独角独眼鬼の頭上。
よし、真っ二つだ! ちょろいぜ。
ガキーン!
あれ。妙な金属音。
あっ。独角独眼鬼。長くて分厚い刀で、オレの天破活剣を受け止めている。天破活剣の光の刃では、刀は切れないようだ。
受けた。オレの剣を受けやがった。しかも独角独眼鬼、片手しか使っていない。片手で持った刀で、オレの天破活剣を余裕で受け止めている。
オレは一旦、剣を引いた。木刀の先の青白い光、すーっと縮む。
独角独眼鬼、グオ、グオ、と前に出てくる。ズシ、ズシ、歩くたび、太い足の下の枯れ草が、ざわざわと。
こいつは一筋縄ではいかないようだ。




