第120話 秘湯の美少女 ついに温泉回!
「さ、入ろっか」
洞窟の中の秘湯温泉を前に、蘭鳳院はじっとオレを見つめる。
ゆらゆら揺れる蝋燭の灯。蘭鳳院の白い頬が、暗く、そしてオレンジ色に。
ドキュッ!
なんだこれは。逃げ場のない狭い洞窟のなかで。
入る?
温泉に?
オレと蘭鳳院が二人で?
それって、それって、それって……
つまりそういうこと?
じめっとした湯気が立ち上り、さらさら湧き出る熱水温泉。そんなに広くない。二人で体を寄せ合って……温泉に浸かるの? もちろん裸で……
大昔の安覧寿覧みたいに?
でも。オレはガタガタとしながら、必死に考える。落ち着くんだ。
安覧寿覧は公式にそういう関係だったみたいだけど、オレと蘭鳳院、おまえとでは、まだ別に、何もないよね?
おまえはいつも、オレをおちょくったり、突き放したり、たまに優しくしてくれたり、振り回したり、そんなのばっかで。なんなんだ。オレとちゃんとした関係になりたいの? それならその態度じゃだめだよ。2人で一緒に……それって凄く大事なことなんだから……
それに、それに、オレはヒーローの宿命に生きる最後の硬派男子。その、その、一線を超える事は、なにがあろうと、絶対に絶対に……
「私からでいい?」
蘭鳳院が言った。
「うん……いいよ」
「じゃあ、私が入っている間、勇希は曲がり角の向こうで待っていてくれる?終わったら呼ぶから」
「わかった。ゆっくり入ってね。この洞窟、オレも結構気に入ってきたから」
なんだ。1人ずつ入るのか。いや、そりゃそうだろうけど。蘭鳳院、最初からそのつもりだったんだ。オレをドギマギさせやがって。毎度毎度のことだけどさ。
オレは……ちょっとほっとした。このところずっと頭を悩ませているけど、蘭鳳院に本気で迫られたり誘われたりしたら、オレ、どうなっちゃうんだろう?
ヒーローの宿命……呪い……そういうのもどうなっちゃうんだろう?
大昔の2人の女子、安覧寿覧は仲良く温泉に浸かって、それで悟りを開いたって言うけど。まったく、風呂で悟りが開けるなら、苦労しないぜ!
◇
オレは、素直に、温泉スペースの、曲がり角の先まで戻る。そして、洞窟によっこいしょと座る。1人になる。洞窟の壁、燭台の蝋燭の炎がユラユラと。
なんだかすごいとこにきたな。隠し寺の秘湯。門外不出らしい寺の由来についても聞いた。本当のことなのかな。悟りだ。成仏往生だ、そんなに簡単にできるのかな。簡単じゃなかったのかもしれないけど。
女武者僧安覧は、荒っぽいやつだったらしい。さんざん暴れて、自分を慕う女子と仲睦まじくなって、温泉に浸かって、最後は悟りを開いて成仏大往生とは。
なんだそりゃ。いい気な人生だな。
オレも本物のヒーローになったら。
どうなるんだろう。
悟り?
ふと、蘭鳳院のことが頭を過ぎる。
今頃、湯に浸かっているのかな。
服を全部脱いで。
蘭鳳院の白い裸身が、ぼんやりとした蝋燭の灯とゆらゆらとした湯気に囲まれて。
ドキュッ!
オレの心臓が。
ダメだ、これは考えちゃいけない。もう考えるのよそう。
それにしても、蘭鳳院のやつ。何にも心配しないのかな。すぐ近くに、男子がいるのに。裸で温泉。いつもオレに全く無警戒だ。オレは絶対何もできない男だと、高を括っているのかな。これって信用されてるの?それともナメられているの?
いかんな。オレは頭を振った。
女子の裸なんて想像して、ドギマギしている。この調子だから、振り回されるんだ。平常心でいよう。ヒーローたるもの、いつも平常心だ。最後の硬派は女子などに目もくれぬ。
気分を落ち着けるために、周りを見る。暗い洞窟。
おや? 来た時、気づかなかったけど、壁にくぼんでいるところがある。なんだろう。そこだけ燭台もないから、気づかなかった。
オレは懐中電灯で照らす。
洞窟の岩壁を、四角に彫ってある。結構奥まで。オレは、覗き込む。奥に何か見える。懐中電灯を。よく見てみるーー
うわっ
オレは息をのんだ。いや、呼吸が止まった。心臓もーー
壁に掘った。四角い穴の奥に見えたもの。それは、
髑髏。髑髏が二つ。
間違いない。懐中電灯の光に、四つのぽっかり開いた眼窩が。
「きゃあああっ!」
オレは悲鳴をあげた。洞窟中に、オレの悲鳴がこだまする。
そして、一心に、秘湯の方に、駆けて行った。
「蘭鳳院! 蘭鳳院!」
もう夢中で。
温泉のスペース。秘湯の中央に蘭鳳院の白い裸身。立ち上がっている。オレの悲鳴に何事かと、驚いているようだ。蝋燭の灯りに包まれ、湯気がゆらゆら。よくは見えない。
蘭鳳院、こっちを凝視し、
「きゃっ!」
といって胸を抑え、湯のなかに体を沈める。女子としては普通の反応。
オレは、それどころでなく、
「蘭鳳院!」
と、叫んで、
その時、
ぐわんぐわん、
空間が歪む。
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