第118話 秘湯で悟る女子ニ人
「若いの、お二人とも、よく話を聴いてくれた」
仁覧和尚、ニヤリとする。
オレは思う。やっぱり生臭感があるな、この坊主。話も本当なのか作り話なのか、よくわからない。作り話にしては、妙に迫力があったけど。
大体、この話が本当に寺の由来だったら、こんな風に観光客相手にペラペラ喋っていいのか?
オレの疑問、和尚は見透かしたように、
「これは、滅多にするような話ではないんじゃが、たまにこうして話をしとかんとな。古い話を隠し続けていると、黴臭くなって、そのうち消えてしまうでの」
そんなもんかね。
「お茶は上がったかの」
「いただきました。ありがとうございました」
オレと蘭鳳院、一礼する。とにかく観光客お断りの隠し寺でお茶をご馳走になって、ありがたい話も聞けたんだ。ありがたい話? そうなのかな。よくわからないけれど。ま、女子でも男同様悟りを開けるっていうんだから、ありがたい話なんだろう。
和尚、フフっと笑い、
「せっかくじゃ。話を聞いてくれたお礼に、最後にプレゼントしよう」
「プレゼント?」
蘭鳳院、さすがに不審そう。
「観光じゃ。ここにもちょっとした観光名所がある。特別にそこに案内しよう。もちろん普段は外のものは入れぬのじゃぞ。おぬしらは、本当に運がいい」
「観光名所?」
なんだろう。古くからある隠し寺だって言うから、いろいろ由緒あるものはあるんだろうけど。
「温泉じゃ」
仁覧和尚は、得意そうに言う。
「この寺の裏の山に、ちょっとした洞窟があってな、その奥に開けた空間があって熱水が湧き出ておる。いい感じの温泉になっとるんじゃ。この寺の敷地からしか入れない。まさに、秘湯。これぞこの寺の名物じゃ」
温泉?秘湯?
話がなんだか急に。洞窟の中の温泉て。そりゃ、確かに珍しいけど。寺の名物? 部外者を入れない隠し寺の名物っていうのも変な話だな。
仁覧和尚は続ける。
「驚くなよ。この秘湯は、さっき話した2人の女子僧侶、安覧と寿覧もつかっていたのじゃ。もともとは安覧が修行のために山の岩を砕いていたところ、洞窟とその奥の温泉を見つけたのじゃ。この温泉のおかげで、安覧と寿覧も長命であったという」
修行で山の岩を砕く? 荒っぽいな。それ、仏の道じゃなくて、ただの武芸者の修行なんじゃないの? それに女子2人で仲睦まじく一緒に温泉とか、もうそれ以上悟りを開く必要なんてなかったんじゃないのかな。
「わしを見よ」
仁覧和尚、頭をつるりと撫でる。
「わしがここの管理を引き受けているのも、何を隠そう、この秘湯が目当てでの。この湯に時々浸かってるおかげで、この通り、若さを保ててるのじゃ」
なるほど。いかにも、和尚の頭、顔、肌。つるつるテカテカしている。笑うと、結構シワが深くなるから、案外高齢なのか?
それにしても、ありがたい話なのか、生臭い話なのかよくわからないな。
オレと蘭鳳院、顔を見合わせる。
仁覧和尚、満面の笑顔で、
「おぬしらも、浸かってくるがよい。ご利益があるぞ。心を澄ませば、安覧と寿覧の声が聞こえるぞ」
蘭鳳院、ひとつうなずいて、
「せっかくなので、ぜひ温泉へ案内してください」
おいおい。積極的だな。
妙に乗り気になっている。今日の話を熱心に聞いていた。安覧と寿覧、蘭鳳院の心をとらえたようだ。
好奇心旺盛なお嬢様だな。
二人の女子僧が悟りを開いたという秘湯へ。
オレたちも。




