第113話 ヒーローに女人禁制ルールは
「ここは女人禁制じゃぞ」
もう、ズドーンと。
見透かされた。目の前の坊さんに。たった一目で。
女子バレ。バレた。呆気ないな。これがヒーローの最期か。だいぶいい調子だと思ってたんだけどな。魔物も倒したし。宿命の呪い。それが、オレに襲いかかってくるわけ?
オレは言葉も出ず。
「ごめんなさい、勝手に入って」
後ろから声がした。
振り向く。蘭鳳院がいた。待ってないで、ついてきたんだ。
「女人禁制だとは知りませんでした。すぐに出て行きます」
蘭鳳院が言った。
え? じゃぁ、坊さんが女人て言ったのは……
「お嬢さん、慌てなさるな」
坊さん、ニヤっとする。
うん? なんだ。女人て、オレの後ろにいた蘭鳳院のことか。
もう、びっくりさせるよなぁ。
校外実習の間でも、とにかく心臓がひっくり返ることが多い。これも試練なのか。
オレは言った。
「勝手に入ってすみません。すぐに行きますから」
しかし、坊さんはニヤっとして、
「なに、いかんでよい。ゆっくりしていきなさい」
「女人禁制は?」
オレと蘭鳳院、同時に言う。
「ふふ。戒律では、確かに女人禁制じゃが、まぁ建前だ。方々の寺でも本来女人禁制じゃが、受け入れてるじゃろ。気にせんでええ」
なんだ。ただオレたちをふざけてからかってただけか。
しょうもない坊さんだな。
「しかし、どうやっておぬしらこの寺に入ったのじゃ? 塀を乗り越えたのか? この寺の門は、いつもしっかりと閉じておる。観光客も受け入れてはおらん」
あ、そうだ。確かに、オレたち不審な侵入者だよな。
オレたちは、塀が崩れていたことを説明した。たまたま脇の山道を見つけた。上っていくと、塀があった。塀が崩れていたので、中に入ってみた。
「なんと。塀が崩れた?そのような話、とんと聞いたことがないのう」
驚いてる坊さんを、オレと蘭鳳院は、塀の崩れまで連れて行く。坊さんは仔細に検分する。
「確かに崩れておる。全く気づかなんだ。つい最近崩れたようじゃ」
坊さんは、オレと蘭鳳院に、じっと目を凝らす。
「この寺が、おぬしらを招き寄せたのかもな。ここは観光客お断りじゃが、これも仏縁。さ、上がっていきなさい」
ニヤっとする。
坊さん、オレと蘭鳳院を本堂へ案内する。オレたちは黙ってついて行く。なんとなく、断り切れない。勝手に入ったんだし。それでお招きとか。
「おっと、その前に」
本堂、正面の階段に足をかけたところで、坊さんは振り返る。
中庭。小さな七輪が置いてある。煙が上がっている。さっき見た煙だ。
七輪の上には、網が置いてあって、そこには。
坊さんは、網の上の焼けた目刺しをつまんで、パクっとうまそうに食べる。
「うーん」
坊さん、至福の表情。
「この山寺で焼く目刺しは格別じゃ。すまんのう。一尾しかないんじゃ。おぬしらに分けてやる分は無い」
坊さん、実にうまそう。別にオレたちは、目刺しを欲しいとか思ってないけど。
目刺しを食べた坊さんは、悠々と、
「さぁ、若いの、おあがりなさい。目刺しはもうないが、茶でも入れてさし上げよう。若者がここに来るのは、とんと久しぶりでのう」
今度こそ、オレたちを本堂に案内する。
怪しげな寺の、怪しげな坊さん。目刺し焼いて食べて喜んでいる生臭坊主。
一体何がどうなるんだろう。




