第109 話 プレゼントの意味は
昼飯を終えた、オレたち。
これから、校外実習が始まる。
実習課題は、鎌倉の名所旧跡神社仏閣、何でもいいから、選んで、調べて、レポートをかけ、というのである。
鎌倉だからな。
名所旧跡なんて、いっぱいある。たいした課題じゃない。
で、問題は……
校外実習は、ペアで行う。恒例のペアワークである。
うーん、とにかく、ペアワークが好きな学校だな。
エリート校ってのはこういうものなのか?
オレが中学の時は、そんなにペアワークなんてやらなかったけどな。
でも、学校の方針にオレがとやかく言っても仕方がない。オレはこの学校の生徒だ。だから、実習課題はちゃんとやらねばならない。
ペアワーク。2人で行う。
オレの相手はーー
「さ、行こうか」
オレの隣にいるのは、もちろん、お澄まし顔の蘭鳳院。
いったい何なんだ。席が隣だからって、なんでもかんでも一緒にさせるっていう、この方針は。
隣同士で、くっつけて、カップルにしようって考えなのか?
実際、さっそく、四月早々、席が隣同士の女子と男子のカップルがあちこちでできている。
逆に、席が隣同士で仲が悪いと、このシステム、地獄なんだな。仲がうまくいかず、気まずくペアワークをやってる子たちもいる。
オレは……
まぁ、何とかなってるかな。
フッ、
オレは男の修行を積んでいる。
蘭鳳院が何を仕掛けてこようが、なんでもねーぜ!
残念だったな、お澄まし顔のお嬢様。
「ねぇ、勇希」
並んで歩きながら、蘭鳳院が言う。
「私、いろいろ調べて予習してきたから。安心してね。もちろん、勇希は予習下調べとか、してこなかったでしょ?」
うぐぐ……
そりゃ、そうだけどな。なんていうか。
露骨に上から目線で、言わなくてもいいんじゃないかな。席が隣なんだし。もうちょっとオレの顔を立てるよ……
「ありがとう、いつも助かるな」
オレは頑張って笑顔。オレはヒーローなのだ。つまらんことで女子と争わね。度量を示すのだ。
まぁ、相手は、優等生のお嬢様だ。勉強課題の事は、任せておけば、それでよかろう。
◇
5月の陽差しの中、少し暑い。
並んで歩くオレたち。
蘭鳳院の黒い艶やかな髪、風にさらさらと。
ブラウスの胸のフリルもユラユラ。
スカートも、ヒラヒラ、白い脛がチラチラする。
まぶしい。
蘭鳳院と2人でのんびり鎌倉を歩いている。
なんだか一緒に旅行に来たカップルみたいだ。
え?
カップル?
うぐ……
オレ何考えている? オ、オレは……べ、別に……蘭鳳院のことなんか、意識してないぞ。
ただ本当に、席が隣ってだけなんだ。この子とは。
蘭鳳院は、実習のルートを決めていた。オレも素直に従う。実習っていっても、単に観光地を回るだけだ。
間違いなく観光旅行。
でっかい、鳥居のある神社に来た。
「へー、神社もあるんだ。鎌倉ってお寺ばっかりだと思ってた」
オレだってそのくらいの知識はあるんだ。
「ここ、有名よ」
蘭鳳院、やや、あきれたように。
「鎌倉はお寺が多いのは当然だけど、有名な神社もあるよ。昔は神社とお寺が一緒にやってたり、また別れたりしてたしね」
うーむ。
優等生にはかなわん。余計なこと言うのやめておこう。
オレたちは、中に入って、ぶらぶら見学。
「あ、お守りがある」
蘭鳳院が見つけた。
「お守り買うの?」
「うん。せっかく来たから。お土産にちょうどいいじゃない」
蘭鳳院は、熱心に、お守りを選んでいる。
本当にたくさんあるな。
「勇希は、お守りとか買わないの?」
「うん、別にいいや」
「大学合格のお守りとかは? あったら欲しい?」
「大学?あんまり考えてなかったな」
「ふーん、毎日必死に勉強してるのにね」
うぎゅ、
勉強ってのは、運動部の勧誘を躱す口実なわけで。もちろん、ちゃんと勉強しなきゃ、学校でもヤバイらしいけど。
蘭鳳院、熱心にお守りを見ている。
オレはぶらつく。
絵馬だ破魔矢だ、神社関連のグッズ、ストラップ、人形、なんでもいっぱいある。
大学合格のお守りか。それは別に、神頼みしないけど。
女子バレしないお守り。
そんなのがあったら……欲しいかもな……
そんなお守り身に付けてたら、ビクビクヒヤヒヤしなくて済むのかな。
でも、売ってるわけないよなぁ。
「はい、これ、どうぞ」
目の前に蘭鳳院。
手に、お守りを一つぶら下げている。
「もう、お守り選んだの?」
「うん。これは、勇希に買った分」
「オレに?」
「そう。勇希の応援するって言ったじゃない。お守りくらい、プレゼントしないとね」
プレゼント。
ドキュッ!
な、なに。
お土産のお守り、1つくれるだけだ。別にどうってことじゃない。
「ありがとう」
オレは、蘭鳳院から、お守りを受け取る。
「これってなんのお守りなの?」
「ふふ、何だと思う?」
蘭鳳院は、悪戯っぽく笑う。
なんだろ。
女子バレしないお守り?
いや、まさか。そんなのであるはずがない。
やっぱり、勉強必勝のお守りかな?
オレのもらったお守り。
見ると、
うぎゃっ!!
なんだこりゃ!!
オレは飛び上がった。
蘭鳳院のプレゼント。
安産お守り。
なんで!なんで!
なんでオレに安産お守り!
蘭鳳院、おまえ、何考えてるんだ!
ま、まさか、オレが、女子だと……?




