第108 話 オレの公然彼女
海で散々はしゃいだ後、オレたちは、近くの食堂に入った。昼飯だ。
騒いで腹もすいた。いい頃合だ。
クラスの女子と男子でグループに分かれて席についた。
オレは、もちろん男子グループの方。
でも、なんだか……ついつい、女子グループのほうに目をやっちゃう。
「どうしたのじゃ、一文字」
柔道柘植が笑っている。
「女子に混じりたいんじゃろ。おぬしはほんと、女子と仲が良いからのお」
「ええっ!」
オレはビクッとなった。
オレ、そんな風に見られているの?女子お断りで、ぼっちを貫こうとしてたんだけど。確かになんだか、最近はグダグダだ。
なんだかんだ……ようするに……オレは、女子とワイワイキャッキャするのが好きで……
いや! そんなことない!
オレは最後の硬派!
男の坂道を上る孤高のヒーロー!
間違いない。
女子たちと仲良くしている?
それはその……そうだ、女子どもが、オレになんだかんだまとわりついてきて、じゃれついてきて、ちょっかい出してきて、その、だから……
オレのせいじゃない!
オレは悪くないぞ!
あれ? オレ、なんだかオドオドしている?
「一文字君は、クラス一、学年一のモテ男ですからねぇ。いや、学校一かもしれませんね」
剣道矢駆まで言う。
矢駆も結構モテるようだが。
「そんなことないよ。なんていうか、からかわれているだけで。あはは」
オレは、額に冷や汗。
「女子にまとわりつかれるのも、結構困るんで」
おおーっ、と男子一同。
「さすが、モテ男は言うことが違うねー」
「ああ、おれも、そんなふうに言ってみたいなー」
「恋愛大エース様にはかなわないぜ」
「一文字君、女子にまとわりつかれて、困ってるなら、いっそ、特定の公然彼女作っちゃえば? そうすれば落ち着く」
と、剣道矢駆。
むむ。
そういう考え方があるのか。実践的だ。
こいつの方が、恋愛のプロだな。
女子除けに、公然彼女?
いや、そんなの、どっちにしても無理。
さすがに、オレは男だと女子を騙して公然彼女にするとか。
なんだかみんな、期待しているような目で、オレを見ている。
オレの公然彼女、みんなで考えているのか?
余計なお世話だ!
オレのそんな気を知らず、男子たちは口々に、
「結理ちゃんはどうだろう」
「あ、一文字、結理と仲いいからのう」
「結理ちゃんは、委員長一筋だからだめじゃない?」
「そっか。じゃあ、妃奈子さんは?」
「お、いいね。そろそろ満月も、身を落ち着けるべきじゃないかな」
「うん。妃奈子さんに釣り合う男って、学校じゃ見つからないと思ってたけど、一文字君ならいけるんじゃないかな?」
「おい、どうだ、それで決めちゃわないか?」
「いや、待て、隣のクラスのーー」
「あの、ちょっと、みんな」
オレは言った。
「そういう話はやめてよ。先方にも迷惑かかるかもしれないから」
「おお、一文字、赤くなってるの」
「純情エースだ」
みんな、ニヤニヤしている。
なんだ。
女子だけでなく、男子にオモチャにされたら、もうとてもやっていけねぇぜ。
おまえらだって、女子とくっついたら、真っ赤になるくせに……
だいたい、オレの公然彼女に、満月妃奈子とか。ありえねぇ。
あんなの押し付けられたら、大変だ。妃奈子はオレのことを一息で吸い尽くして踏み潰して、また自分の道をぐんぐん進んでいく。そういう奴だ。危険だ。みんな、わかっててオレに押し付けようってのか?
やめろよ。
不吉だ。
男子グループで、オレと釣り合う公然彼女が妃奈子だなんて話してたなんて、あいつに伝わったら、早速また大喜びで、オレをしゃぶりにくるだろう。オレに喰いつく隙をいつも狙ってるんだ。純粋に映え女子リーダーの本能なんだろうけど。
オレはつい、女子グループのほうに目をやる。
うわっ、
満月と目があった。妃奈子、ニヤリとする。
いかんいかん。
みんなが余計なこと言うから、かえって妙なことになる。
学校は危険がいっぱい。
これも修行だ。何があろうが乗り切ってやるぞ。
これも男の坂道。
食堂の中。
注文していたメニューが届く。
オレは、ラーメンとカレーライス。ガツガツ食べる。
運動部軍団は、みんな大盛り山盛りでドカ食いしている。
オレも負けてられない。
ヒーローだからな。体を作って、鍛えて、トレーニングして、魔物と戦う。男を守る。これでいいのかどうか、まだよくわからないけど。
オレの道、
なにがなんでも!
男子軍団。
みんな豪快に食いながら、豪快にワイワイキャッキャ。
そういえば、クラスの男子グループで飯とか初めてだし、やっぱり、男子として男子と話をするのってまだ慣れてないな。
女子とは、なんだかんだできてきたけど。
これでいいのか?
ま、気にすることは無い。
オレは世界を救うために呼ばれた、救世主ヒーローだからな。
女子バレだけ、気をつけていれば、それでいい。真の男のヒーローを目指していれば、それでいいんだ。
背負っている宿命。
兄、悠人の道。




