第106話 美少女を背負って駆けっこレース
「勇希はどう?」
満月がオレの顔を覗き込む。
「もちろん問題ないよ」
オレは言った。女子が苦手だ、女子を怖がっているなんて思われたら困る。
「いいの? 一文字君」
坂井がオレを見て、大きく笑う。
「これ、僕、絶対有利だけどな」
うぐ……
なんだと?
なるほど。
女子を背負って走るとなると……確かに体格パワーが影響してくるな。
だからなんだ!
技とか関係ない、純粋なフィジカル勝負だ。技術は関係ない。
軟派だとうが硬派だろうが、どんな勝負でも、オレの力見せてやる。ヒーローパワー全開でやってやるぞ! チートだなんだ関係ねぇ! ヒーローがオレの実力だ!
女子を背負って走る?
フッ、
男らしさを見せつけてやるチャンスと言えるな。女子どもを、“わからせ“てやらねばならぬ。ヒーローの証。
満月が、女子に声をかける。
「 優希、麗奈、やろうよ」
剣華と蘭鳳院の2人もやってくる。
満月が、砂浜の木の枝を拾って、砂に、あみだくじを書く。
オレたち、くじを選び、ペアが決まった。
「委員長、絶対、絶対、絶対、何があっても、勝ちます! 買ってみせます!」
委員長剣華とペアになった坂井。真っ赤になっている。巨体がぶるぶる震えている。大丈夫か? 坂井を、奥菜が、なんだか羨ましそうに見ている。奥菜も委員長を担ぎたかったのか? いや、それはさすがに奥菜の心臓がもたないだろう。
満月とペアになったのは、柔道柘植。
「絶対勝つからねえっ! がっちりしがみついてるから思いっきり全力疾走してね!」
満月はやる気満々。柘植は少し赤くなっている。この男、意外と純情なのか。
奥菜がペアになったのは、剣道矢駆。
奥菜は小柄だし、ボクシングで減量してスレンダーだ。体重が軽い。そして、矢駆は、長身筋肉質。このペアは、意外と手ごわそうだ。
オレは……蘭鳳院とペア。
クジで、オレとペアが決まっても、蘭鳳院は、表情を変えない。いつものお澄まし顔。オレも……何でもない風を装っている。
満月がいう。
「あんたたちって、本当に相性がいいのね」
うぐぐ…
オレたちはスタートラインにつく。
他のクラスの連中も、みんな見物している。
オレは、蘭鳳院を背負う。
蘭鳳院の腕が、オレの首に巻きつかれ、黒髪が、オレの顔にさらさらとかかったり。
そして、蘭鳳院の、体の重みを感じる。体を削っているけど、長身だから、すごく軽いと言うわけではない。体重がどうこうと言う問題じゃなくて、こういう風にくっついているの……胸とか足とか触れるし……さすがに……
ドキュッ!
ドギマギするな。
落ち着け。女子を担いだからって、だからどうなんだ。
横をみる。
坂井と柘植、赤くなって動揺しているように見える。大事な委員長と、クラスのビジュアルリーダーを担いてるんだから、やっぱり平常心ではいられないんだな。あの猛者どもであっても。
もっとも、あいつらからしたら、オレも美人の蘭鳳院を担いで、動揺してるように見えちゃうのかしらん。
奥菜を担いでいる矢駆は、余裕に見える。女子に免疫あるタイプだ。
猛者ども。いいライバルだ。負けないぞ。これはオレと、委員長の子犬四天王との戦いだ。
ここできっちり、オレの実力を見せつけなきゃならぬ。女子などにびびらず、きっちり走り抜いてやるからな。ヒーローパワー全開でいかせてもらうぞ。
上の女子たちは、みんなニコニコしている。
「蘭鳳院、よろしく」
「がんばろうね」
蘭鳳院が、オレの髪を軽く引っ張る。やめなさい。動揺するじゃないか。
「組むの、勇希でよかった」
「え?」
「何度も抱きつかれたり、触られたりしてるんじゃない? 初めての男子とくっつくより、心の準備できてるから」
蘭鳳院、ちょっと悪戯っぽく。
ん?
なんだ、その言い方。オレがなんだか蘭鳳院にちょっかい出してるみたいで。抱きついたとか触ったとか、それは全部……やむを得ず起きたことであって、ヒーローであるオレが、そんなこと……やろうとしてやったわけじゃないんだよ。
蘭鳳院が妙なことを言うから、なんだか意識しちゃうな。意識しないわけにはいかない……うぐ……
これも試練だ。やってやるぞ。男の坂道。女子なんかに、絶対絶対動揺しないぞ。男を見せるのだ。
勝負だ。
目の前に広がる、白い砂浜。青い空と海。




