第101話 チューベローズを贈る女子
蘭鳳院がオレを連れて行ったのは。
お馴染みのフードコート。いつものオープンカフェ。
オレと蘭鳳院が到着すると、
「あ、麗奈、一文字君、待ってたよ」
剣華が手を振る。
蘭鳳院が言う。
「私たち、遅かった?」
「麗奈たち、一番最後かな。でももうちょっと盛り上がってこうってとこだから。ゆっくりしてってね」
なんだ。これはいったいなんなんだ。
オープンカフェにいるの、うちのクラスの連中だ。だいたいみんな揃っている。賑やかに騒いで。みんな学ランとセーラー服の制服姿。
「麗奈ーっ!」
「よっ、一文字!」
「遅いぞーっ」
「二人でデートしてたのか?」
オレたちに気づいたみんな、口々に。
「あの」
オレは、蘭鳳院に訊いた。
「これって何なの? ペアワークは?」
「うん? 今日はペアワークじゃなくてクラスの親睦会よ。新学期始まって少し経ったから改めてみんなで学校の外で親睦会しようってことになったの」
「……そんな話、いつ決まったの?」
「教室でみんないる時にしてたよ。で、勇希はグースカ寝てたじゃない。だからきっと聞いてないだろうと思って。でも、聞いてなかったから、これなかったってなるとかわいそうだから、誘ったの。どうせならサプライズがいいかなと思って、ペアワークだって言ったの。ビックリした?」
したよ。
いや、びっくりとか……そういう言葉では表せられない。オレの心の……いや、心は完全にぶっ壊れたというか、もう。
こっちに来た剣華がいった。
「早くこっちきて座って。部活やってない子とか、部活早く終わった子たちはゲームコーナー行ったり、さんざん楽しんでいたのよ。後は、最後にお茶するだけだけど、麗奈と一文字君も、盛り上がってね」
オレは、もう何も言うこともなく、剣華の案内で、蘭鳳院の後について席へ向かう。その時気づいた。手にしたチューベローズ。
「蘭鳳院、これは?」
その時、横から元気溌剌な声が、
「あ、それ買ってきてくれたんだ。チューベローズだよねっ! 私のでしょ?」
満月だ。
もう目をランランとして。
このチューベローズ、満月の? いったいどういうこと?
「妃奈子が、この前、チューベローズの香水を買って、本物の花のほうも、見てみたいって言ってたから、買ってきてもらったの」
蘭鳳院。事もなげに言う。
はあ。なに言ってるんだ? なんでオレが、蘭鳳院と満月の間の買い物頼まれなきゃいけないの?
蘭鳳院は続けて、
「今日の親睦会、勇希には課題って言っちゃったから、何かしてもらわなきゃと思って。ちょうどいいや、買い物頼もうと思ったの。妃奈子も、勇希に買ってきてもらったほうが、嬉しいだろうし」
「ほんと、感激ーっ! ありがとう! 買ってきてくれて!」
満月がニヤリとして、チューベローズの花を持ったオレの手を握る。
呆然となるオレ。
おい、蘭鳳院、キサマ、いったい……
オレのことなんだと思ってるんだ!
このチューベローズのせいで、 一晩、オレは、頭も体も何度もひっくり返って、燃え上がって、もう燃え滓になるまで! おまえの顔……肌が……ずっとチラついていて……
しかし、なんにも言えない。
体の力が、ガタガタと、一気に抜け落ちて。モンスターと戦って後もこうはならなかったのにな。
ともかく。
満月に、不吉なチューベローズの花を。
「これ、蘭鳳院から買ってくるように頼まれたんで。満月のだったんだ」
「嬉しーいっ!」
満月、大げさに、白い花を、自分の胸に押し当てる。そして、オレを、覗き込むようにして、
「香水買った時から気になってたけど、生の花も、すっごくいい香りね」
ニヤリとして、
「ねぇねぇ、勇希、この花の、花言葉知ってる?」
妖しい目だ。
「知らない。そういうのに興味なくて」
オレは平静を装う努力をする。
「え、じゃあ、教えてあげる。買ってきたお礼もしなくちゃいけないし。たっぷりお礼するよ」
「あ、あの、オレ、蘭鳳院に頼まれただけだから、そんなにお礼とか気にしないで」
しどろもどろ。
オレは、案内された席に、力尽きるようにして座り込む。
蘭鳳院の隣。オレはずっと蘭鳳院の隣と言う運命らしい。
オレはグダっとなってたど、頭に残った最後の疑問。
「蘭鳳院」
「なに?」
「あの、昨日、紙飛行機飛ばさなかった?」
蘭鳳院、不思議そうにオレを見つめる。
オレをいつもゾクリとさせる、吸い込まれそうな瞳。




