表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/274

第100話 ヒーロー少女の覚悟



 

 学園。授業。


 蘭鳳院(らんほういん)とは、朝、挨拶したきり。授業中も、昼休みも特に話さない。なんだかんだ、特に用事がない限り、話はしない。雑談をする関係でもない。蘭鳳院は、ずっとお澄まし顔。オレには目もくれない。


 オレは妙に気が昂っていた。


 ダメだ。


 いつも、オレがきりきり舞いさせられるのって、なんだか不公平だな。オレは思った。いや、でも、ひょっとしたら、蘭鳳院も。お澄まし顔の下で……そうなのか?


ああ、もう、余計なことを気にするのはやめよう。


 授業が終わる。蘭鳳院との待ち合わせは、夜7時。時間がとにかくある。蘭鳳院は部活終わってから来るからな。


 日課のメニューをこなす。校庭での自主トレと図書室での自習。


 すっきり汗を流す。


 体を動かしてる分には問題ない。でも、自習とか、勉強なんてとても無理だ。オレは、図書室でぼーっとして時間を過ごす。

 

 いよいよだ。


これからどうなっちゃうのか、オレには全くわからない。いや何があっても、その……最後の誘惑は断らなきゃいけない。快楽とか、まだだめ。絶対に。その線は、越えてはならない。できる……のかな。


 抵抗できるか? 抵抗……できなかったら!?


蘭鳳院との約束。本当は、行かないほうがいいような気がするんだけど。オレは、ヒーロー。ヒーローが女子相手にひるんで逃げた……なんてできるか!



 時間が迫ってくる。

 

 図書室を出る。校門を出る。ショッピングモールへ。なんだか吸い寄せられるように。もう周りは全く見えていない。


 これから何が待っているんだろう。


 そういえば。校庭での自主トレの後、シャワーを浴びたけど、香水か何かつけたほうがよかったのか? オレはまだ男物の香水は、研究してなくて、使ってない。


 いや、オレ、なに考えてるんだ。オレは最後の硬派だぞ!



 ショッピングモールに着いた。運命だ。オレは、1階にあった花屋へ。


 チューベローズ。普通に売ってた。


 初めてみた。


こういう花なんだ。白い花。どことなく妖しい花だな。危険な快楽だからな。妖しいとかいう以上に。


 オレは1束買う。


 これで準備は終わった。


 後は蘭鳳院の出方次第。何も起きないかもしれない。このまま2人でペアーワークを仕上げて帰る。それだけかも。全てはオレの勘違い取り越し苦労だったかも。その方が良いのだろうか。いや、いいに決まってる。まだ今は心の準備とか全然できてない。だから、オレ、硬派を通す。男として立つ。


 もう絶対に!



 「勇希(ユウキ)、来てたんだ」


 振り向くと、蘭鳳院がいた。セーラー服。


 

 ◇



 うぐ。


 うぐぐ。


 ついにだ!


 オレの運命が、決せられる。


 オレの純潔とか……宿命とか……その……全てが……


 なんだか体が、ガクガクする。負けないぞ!


 オレはヒーローだ。修行の成果を見せるんだ。自分がどれだけのことをしてきたか、思い出せ!


 「顔、青いよ。大丈夫」


蘭鳳院が、やや心配そうにオレを見つめている。


 「あ、蘭鳳院、こんばんは。別になんでもないよ。ちょっと……走り込みしすぎちゃって。あはは」


 「ふーん、そうなんだ。あ、ちゃんと花買ってきてくれたんだね?」


 「あ、うん。もちろん、忘れないよ」


 オレはぞわっとする。


 チューベローズ。花言葉。花のメッセージ。


 快楽。危険な快楽。


 目の前の蘭鳳院が、オレの危険な……


 このヒーローの坂道を、横切るんじゃなくて、もう行き止まりにしちゃう……

だって……女子とそんなことになったら、オレ、もうヒーローどころじゃなくなって……それ以前に女子だとバラしたら、呪いとかが。そうだよね。だから君が何をしようがどう仕掛けてこようが、断固、跳ね返してみせる。そうしなくちゃいけない。び、びくともしないぞ。絶対に、ぜ、絶対にな。



 「きれいな花ね」


 蘭鳳院、チューベローズに見入る。


 「いかにも、夜の花って感じ」


 ぞわっ、


 危険な雰囲気。


 呪いで破滅。それを考えたら、最初から女子と……なんて、考える余地もないはずなんだけど、それでも……吸い込まれそうで。


 目の前の蘭鳳院。別世界感漂う美少女。この子がオレを求めているのなら……ああ、ダメ! ダメ! ダメ! ダメ! ダメ!


オレはつとめて、明るい声で、


 「えーと、蘭鳳院、今日はこれから、どうするの?」


 「うん、ついてきて」


 蘭鳳院は、歩き出す。オレもついていく。


 いよいよだ。


 オレは何があろうとヒーローだぞ、と自分に言い聞かせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ