第1話 いきなりヒーローになれだって!? 15歳高校1年生少女の宿命
ヒーロー。
私にとってそれは兄だった。
兄の悠人。
誰よりもイケメン。
誰よりもかっこよかった。
勉強もスポーツも万能。
みんなに大人気。
そしてそして、誰よりも妹の私に優しかった。
5歳年上のキラキラ眩しい兄。
私はいつも見上げていた。私のヒーローを。
その兄が死んだ。
交通事故だった。本当にあっけなかった。
私が病院に駆けつけた時、兄はまだ、息があった。
「勇希、お前がヒーローを継ぐんだ。ヒーローはお前だ。いいか……頼んだぞ……」
それが兄の最後の言葉だった。
ヒーロー。
それは兄以外あり得なかった。
私がヒーローを継ぐ?
どういうことなんだろう?
そんなこともちろんありえない。
だが、兄の死でショックを受けていた私に、もっとすごいショックが来た。
もうありえない、超弩級のショック。
兄の葬儀が終わって早々、ママとパパ、私の前で、厳しい顔。
ママが言った。
「悠人は、本当にがんばりました。今度は、勇希、あなたが悠人に代わって、ヒーローを継ぐのよ。あなたが “ヒーロー跡目” となるのよ」
は?
なんのこっちゃ。
“ヒーロー跡目” ?
ねぇ、変な冗談やめてよ。兄の死で、こっちはすっかり悲しみで心が塞がれてるってのに。
「我が一文字一族の宿命なんだ」
パパが言う。
「ずっと昔、もう何千年も前から、うちの一族は、この宿命を継いできた。この世界を救い、守り、戦うと言う宿命だ。この宿命を果たす者は、時代によっていろいろな呼び方をされてきたが、今は、『ヒーロー』と、呼んでいる」
私は黙っていた。
まともな話ではない。要するに、ママとパパは、愛する息子、私の兄の死のせいでちょっとどうかしちゃったんだ。
我が家。
一文字一族。
確かにすごくすごく古い名門旧家だと聞いている。実際、年に何回か一族で集まる時は、でっかいお屋敷に大勢詰めかけて、それは盛大なもんだ。
でも、私は、一文字一族の一文字勇希ではあるけれど、うちは一族の分家の分家の分家、傍系の傍系の傍系で、本家からずっと遠縁の隅っこなんだ。これまで名門旧家らしい暮らしなんてしていない。ごく普通の庶民の暮らしをしてきた。
いきなり一族の宿命を背負うとか。跡目だとか。
バカバカしい。
「ねぇ、ママ、パパ、その話おかしいよ」
私は言ってみた。どこがおかしいっていうか、全部バカバカしすぎるんだけど。
「その……ヒーロー跡目っていうのが、何のことかよくわからないけど、一族の問題なら、血筋の隅っこの私とかじゃなくて、もっとふさわしい人が大勢いるんじゃないの?」
「それがいないのよ」
ママが言う。
「今の世代の一族には、ちょうど適切な候補者がいないのね。若い人が不幸にあったり、子供ができなかったり。あと、跡目になろうとしても、うまくいかなかったり。
それで血筋の順番から言ったら、1番最後になる我が家に跡目の話が回ってきたの」
「……それで……兄さんは、その、跡目の話を引き受けてたってこと?」
「そう、悠人は、本当に責任感が強いからね。私の誇り、一族の誇りだったわ」
「で、今度は私に継げと?」
「そういうこと。勇希ちゃん、しっかりね。あなたが一族の希望なのよ」
「お断りしますっ!」
私は叫んだ。当たり前だ。
「そういうトンチンカンで無茶苦茶な話、やめてくれない。悠人兄さんが亡くなったばっかなのよ。私の気持ち考えてよ。
一族の宿命だとか、なんちゃら跡目だとか、そんなの私に関係ない。絶対やらないから!」
きっぱりと言ってやった。
でも、ママとパパの決然たる表情は変わらなかった。
なんだ?
この話、真剣に真面目なの? もしかして?
「そうはいかないんだよ、勇希。厳しいことだとはわかっている。これは避けられない宿命なんだ」
パパが言った。
「ヒーロー跡目を継ぐべき立場の者が、継ぐのを拒否したり、跡目になるのに失敗した場合、大きな呪いがかけられるんだ」
「呪い?」
ママが言う。
「悠人の前の跡目候補の人は、跡目の宿命から逃げようとして、人面犬に噛まれて、三日三晩熱病にうなされて、亡くなったわ」
パパが続ける。
「その前の跡目候補は、跡目になろうとしたけど、うまくなれなくて、突然、空から舞い降りた鬼面鳥にさらわれて、三日間姿が見えなくなったかと思うと、再び現れたときには、すっかり白髪の老人の姿になっていた。
厳しいことなのは確かだけど、これは古来から続いている、逃れられない宿命なんだ。
悠人にはできた。ヒーロー跡目になれたんだ。だから、勇希、お前にだって、きっとできるはずだ」
呪い? 人面犬? 鬼面鳥?
なんだそりゃ。
私はぶるっと震えた。
なんでそんなのに襲われなきゃならないの?
「あの……跡目とかいうの、断ったら、要するに、破滅するってこと? これ、完全に脅迫じゃない。選択肢の問題じゃなくて、跡目を引き受けるって言うしかないのね?」
ママとパパ、うなずく。すごく真剣だ。
私は頭がクラクラした。
こんなバカバカしい話、完全に信じたわけじゃないけど、ここで断りますって言ったら……
人面犬? 鬼面鳥?
そんなのが襲ってくる?
まさか、と思うけど、
とりあえずここは、
「やります……やるから」
ママとパパ、ほっとした表情を見せた。
まぁ、この話がデタラメだったらそれでいいし。もちろんデタラメに違いないけど。
一応、万一……本当の話ってこともあり得るから……
「ヒーロー跡目候補って、何をすればいいの?」
世界を守るだ救うだのために戦うって。
戦闘訓練とかするの?
ママが言う。
「勇希ちゃん、あなた今、15歳よね。正式にヒーロー跡目認定されるのは、18歳なの。その時までに、ヒーロー跡目としてふさわしい人間になっていれば、それでいいってこと」
「……ヒーロー跡目……として、ふさわしい人間? それ、どうすればいいのの?」
「そうね、ここが重要なんだけど、これは古くからのしきたりだから、跡目は、男子じゃなきゃいけないの。ちょっと時代錯誤だと思うだろうけど。とにかく、そういうしきたりなのよ」
「跡目は男子限定? なんだ、じゃあ、女子の私が継ぐなんて無理じゃない。私、パスしていいよね? こういう時代錯誤ルールなら、大歓迎だよ」
「それがそうじゃないのよ。女子でも跡目を継げるの。ただそのためには、条件があってね。誰もが男子と認める女子になってることが必要なの」
また、訳が分かんなくなってきた。
私は混乱する。
「誰もが男子と認める女子? それってどういうこと?」
ママが言う。
「勇希ちゃん、あなたはこれから、男子、男子高校生として、生活するの。そしてみんなに女子だとバレずに、男子と認められ、男子として18歳まで通すことができたら、それで合格。
一族の長老会が、あなたを正式のヒーロー跡目に認定してくれる。ヒーロー跡目になる第一歩、まず、男子になることね」
は?
なに? なに? いったいなに?
なんだそりゃーっ!!
女子の私が、男子に? 男子高校生に?
女子だとバレずに18歳まで男子を通せ?
もう意味不明だけど、
「あの……それ断ったりできなかったりしたら……やっぱり、その、呪いっていうやつ? 人面犬とか鬼面鳥とか……そういうことになるの?」
ママとパパ、厳かにうなずく。
うわああああっ!!
おかしいよっ!!
私が男子高校生に? いきなり?
でも、やるしかないの?
呪いとか嫌だから。
これまでの、平穏で呑気な私の人生。それが、後ろでバタンとドアが閉じた。
◇
なにはともあれ。
私は、転校することになった。
私は15歳。高校1年生。女子高生。普通の公立高に通っていた。
まだ、4月の半ば。
この前、高校入学したばかりだ。
いきなりのヒーロー跡目。
まずは “男になる” だって!?
男子高校生として、新しい高校に転校し、そこで男子として学園生活を始める。
そういうことになった。
転校する高校は。
天輦学園高校。
兄が通っていた高校。
超名門エリート校だ。限られた人しか入学を許されない。
私も、ヒーロー跡目候補と言うことで、名門旧家一族の力で、入学できるわけだ。
ヒーロー跡目候補は、ここに通うのが決まりなんだと。
この高校で、男子として認められ、兄の後を継いで、ヒーロー跡目となる。
それが私の宿命。
もし失敗したら……人面犬とか、鬼面鳥とか……呪い……そんなの、絶対嫌だからっ!
◇
そこで私は出会うんだ。
蘭鳳院麗奈。
私の運命と。
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