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前哨戦

 ニオが封印されている場所へは、ユウの案内があれば数時間で辿り付ける。


 ただ、ユウはその道中に多くの魔物の気配を感じ取っていた。ニオの封印を守るように、上位種の魔族も複数いるという。


 だが知った事ではない。ここまで来て、これだけ心強い味方がいるのだ。

 身体への負荷が強いアステリオンを使った”とっておき”もある。


 ならば正面突破だ。下手に隠れてもユウの魔力は感知されてしまうだろうし、魔王だって血眼になって探しているだろう。


 隠れながら進んで防備を固められる前に、俺たちを探して魔物たちが散り散りになっている間に突撃してニオを助け出し、そのまま魔王を倒したら迷宮の外へ逃げる。


 エンシェントエルフのユウと、同じく当時を知るニオ。それと剣聖の俺が魔王の首を手にして人々に真実を告げれば、ジークや国王たちは民が裁いてくれる。


 だからもう、しばらく難しいことはなしだ。考えるべきことは、ニオを助けるために最大の障害となるだろう魔王とジークがどこにいるかだ。


 魔王はグリモワール大迷宮の主としてここに残っているだろうが、ジークはどうか分からない。

 俺への執着は、あくまでアステリオンを手にしたいがためだったので、少し馬鹿にされたくらいで、ここに残っているとは考えづらい。


 だが、魔王と共に待ち構えている可能性だってある。ということで、ユウと共にグリモワール大迷宮の中を魔物たちと戦いながら進む道中、人型の魔物に剣を突き立て、睨みつけながら問いかけた。


「テメェ喋れるな。一応聞いておく、魔王と勇者はどこにいるか知っているか」


 足の健を斬り、立つこともできない魔物の首元にアステリオンを突きつけながらの問いに、上位種の魔物は狼狽えながら「し、知らねぇよ!」と必死の形相で答える。


「魔王様はお姿を隠されてしまったんだ! それに勇者だって!? そんなの俺たちが知るわけ……」

「そうか」


 最後まで聞く必要がないと分かり、とっとと斬り倒す。そうして返り血に濡れた姿に魔物たちが恐怖からか動けなくなってるが、知った事ではない。


 アステリオンを向け、睨みながら言ってやる。


「どうした、死にたい奴からかかってこい。俺は急いでんだ……”色々とな”」


 二年間探したニオの救出、俺を裏切ったジークへの復讐、元凶たる魔王との戦い。


 全てを終わらせるため、俺は今こそ、俺の中にある荒っぽさを存分にさらけ出す。


「来る気がねぇなら、こっちから行くぞ!」


 悲鳴を上げる連中に突っ込むと、ひたすらにアステリオンを振るった。上級種だろうが低級の魔物の群れだろうが、十年間基礎を学び、二年間死に物狂いで腕を磨いた俺に勝てる奴はいなく、攻撃を当てられることもなかった。


 アステリオンによる身体能力の強化を普段以上に引き出し、即座に適したエンチャントにより戦う。ユウもまた、剣で届かない相手を魔術により倒してくれている。


 「あの女、最上級魔術を詠唱なしで連発してやがる!」「属性も全部違う! こんなの防げるか!」「あんな化け物共に勝てるわけねぇ! どうしろってんだ!」と魔物たちが悲鳴とも命乞いとも呼べるような断末魔と共に散っていき、やがて殲滅した。


 顔を振るうと、血が飛び散る。魔物の血のようで、突っ込んでアステリオンを振り回していた俺は、すっかり返り血で真っ赤に染まっていた。


 そんな俺を見て、流石のユウも顔を引きつらせながら、水の魔術で血を洗い流してくれた。


「つ、強いですね……というより、容赦がないと言いますか……ちょっと怖いような、残酷すぎるような……」

「さっきも少し話したろ、甲冑野郎との戦いはお前を抱えながらだったが、自由に動けるなら何も問題ないってな」

「問題ないどころか、私の援護いりませんよね……ああでも、そういうお強いところも、魅力の一つです。なにもかもカイムになら委ねられそうで、昔はずっと戦ってばかりだった私からすると、本当に魅力的……」


 顔を引きつらせていたと思ったら、いつの間にかトリップしていた。

 まぁ、これだけ戦えるのなら魔王相手でもなんとかなるだろう。しかし、もしもジークや想定外の相手が待ち構えていたら対処しきれるか分からない。


 この二年、俺の無茶な戦いに付き合える奴がいなかったが、ユウとなら共に戦える。

 俺が前衛として前に出て、ユウが後衛として援護する今の形は維持するべきだ。


「確認するが、まだ魔力は残ってるか? 俺もまだとっておきを隠してるが、相手が相手だけに、お前の手の内も把握しておきたい」

「そうですね……これくらいなら、丸一日戦い続けても余裕です」

「俺は魔術に疎いが、そんなに使えるのか?」


 アステリオンのせいで最下級魔術も使えないことは教えてある。そういった事情も分かったうえで、ユウは余裕の笑みを見せた。


「先ほどから私の時代で言うところの上級魔術を数十発撃っていますが、魔物の反応からするにこの時代では魔術の体系が変わったのか、レベルが落ちたのか、最上級魔術扱いに変わったようです。その程度で手も足も出ず倒せていますから、あんな弱い方々の相手ならいくらでもお任せを。どんな強敵が現れても、なんでしたら神話級の魔術で対処して見せます」

「神話級? なんだそりゃ」

「流石にこの時代では廃れていますか……なんと言いますか、簡単に言い表すなら発動に対しる衝撃や影響が桁外れすぎて、神の怒りと恐れられた魔術の事です。私でも日に一、二発が精々ですし、発動に時間がかかりますが、当たって生きていられる生き物は存在しません」


 魔王もか? と聞けば、ユウは頷いた。しかし魔王相手では、放つ事はほぼ不可能であり、当てられることはありえないという。


「そんな大層な魔術があったとはな。俺の付け焼刃の知識じゃ、とても魔術の神髄になんて踏み込むことは無理そうだ」


 俺の反応に、ユウはいくらか考えるそぶりを見せてから首を傾げると、俺に疑問をぶつけた。


「あの、神話級の魔術もですが、無詠唱も異なる属性の魔術の連射も結構すごいと思うのですが、カイムは驚かないのですね」

「生憎と、アステリオンを手にする前から魔術とは縁がなくてな。使ったことがないし練習もしたことないからどれだけ凄いのか分からねぇ」


 今言った通り「付け焼刃」程度になら知識として知っている、と付けたしてから、先へと進む。まぁ難しいことは分からなくても、それだけの力が集まっているのなら、俺のとっておきも使わずに済むかもしれない。


「とっとと助けて、魔王倒して全部終わらせるぞ」

「はいっ!」


 ユウの返事を受けてから、俺たちはニオの待つ場所へと急いだのだった。

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