ユウの本当の願い
ユウは俺を見据え、闇を感じさせない純粋な感情をハッキリと口にした。
「カイムと一緒に生きたいんです……! 種族の壁を越えてでも、私はカイムと共に――!」
「ちょっと待て、まさかそれが一番の理由か?」
ユウは頬を染めながらコクリと頷く。
てっきり俺に対してそう言った感情を向けていたとしても、復讐心には劣ると思っていた。
だが違った。俺も予想外の返答に、言葉に詰まってしまう。
「……分かっていますよ。出会ったばかりだって。それに私はエルフで、カイムは人間です。生きる時間が違うことだって分かっています。それでも、カイムは……」
しばしの沈黙の後、ユウは噛みしめるように言った。
しかしなるほど、あの混沌とした瞳には、魔王への復讐心だけでなく、俺への拘りもあったようだ。
しかし離れたくない理由には、おそらく、
「俺と一緒に居たいだとかはあるだろうが、それとは別に魔王への復讐に俺が必要だから、俺と行くのか」
「ち、ちがっ! いえ、違うのでは……私はカイムに本当に感謝していて……でも、私一人じゃ……」
矛盾を口にしようとして、しっかり俺へ嘘をつきたくないという言葉を守った。
それでも、ユウ一人では魔王への復讐は叶わないのだろう。言葉の端からそれが漏れている。
となると、
「魔王と戦う時、俺の力が必要だから離れたくない。というより、魔王は俺の方を狙ってくるから離れたくないんじゃないか?」
「……私、は」
「無理に話さなくていい。そもそも、誰かと話すのも数百年ぶりだろうしな――だが、頭は回るな。「外では差別されていて発言権のないエルフ」と「まかりなりにも剣聖」なら、魔王が狙ってくるの俺だ。二手に分かれたら、まず俺から始末しに来るのは明白だろうな」
俺が死ねば、ユウの一番の願いも叶わなくなる。しかしそれを差し置いても、魔王への復讐は譲れないようだ。
もはやユウは何も喋らない。俺へ嘘をつきたくない気持ちと、魔王への復讐心で揺れているのだろう。
そんなの、地獄に叩き落とした張本人と地獄から救ってくれた恩人を天秤にかけるようなものだ。とても言葉なんて出ない。
俺だったら、考えるのも嫌になって開き直っている。そうせずに沈黙していられる知性と優しさは、ユウの美徳であり、かつて騙された甘さでもあるのだろう。
だが、魔王への復讐が目的なら丁度いい。ニオを連れ出すのも、魔王と戦うのも、ユウという心強い味方が出来る。
ニオに関しては俺の個人的な事情だったが、ユウがそこまで俺の事を想ってくれているのなら話は別だ。
かつて騙した連中と違って利用ではなく、協力という形でユウの力を借りられる。
もう試すような物言いも、利用するような考えも必要ないし捨てるべきだ。
そんなことをこれ以上しては、恩義を感じ、騙そうとしない、善なるユウへの冒涜になる。
フゥと息を吐き出すと、まずは頭をガシガシと掻いてから、手を差し出した。
「ならここで約束しよう。ニオのところへ案内して、魔王に復讐する。その目的を達成するまで、嘘のない関係だ。俺も希望に添えるよう全力で努力する。なにせ、俺だって魔王への復讐は大歓迎だからな」
「嘘のない関係……」
ニヤッと笑えば、上層で見た魔王を思い返す。クソッタレのジークもいるが、この馬鹿げたシナリオをぶち壊して利用した連中全員に復讐するには、魔王の首一つあればいい。
「この手を取ったら、俺だって約束する。全部終わってここを出たら、お前を見放さないってな」
「カイム……」
「乗り掛かった舟……というより、無理やり一緒に乗せちまった責任もある。だから、お前が今の世界に馴染めるまで……いや、なんならその先だって付き合ってやる。俺としても、強くて美人のエルフと一緒にいるのは悪くないからな」
言いながら、自分で恥ずかしくなってくる。ユウもまた照れながらも、目を閉じてゆっくり息を吸い込むと、開いた瞳は真剣なものだった。
差し出した手を、ユウは真夜中の猫のように見開いた瞳で見つめている。
様々な考えが頭の中を巡っているのだろう。そりゃ、ユウにだって言えない事の一つや二つはある。この手を取ることは、そういった部分もひっくるめて、俺と協力するかという、いわば封印を解いて時間が経ってからの再確認だ。
しばらくそのままだったユウだが、やがて差し出した手に白い手のひらを乗せ、今度は向こうから握ってきた。
「誓います。ニオの元へ案内して魔王へ復讐するまでは、嘘をつきません」
「……本当だな?」
「はい、私だって、カイムと共にここを出て、一緒に新しい世界を生きたいですから!」
どうやら、本当に嘘はないようだ。俺は緊張を解くが、ユウは「あ!」と思い出したように人差し指を立てた。
「ですが、一つだけ先に伝えておきます」
ユウは途端にトロンと溶けたような顔になると、蠱惑的な声音で言った。
「私が魔王を殺しても、文句は言わないでくださいね?」
よくまぁ、そんな顔で物騒な事を言えたものだ。我ながらこの闇とも言える感情を晴らすのにどれだけかかるのか、少々不安になってくる。
とはいえ、頷いて答えておく。
「……まぁ、そこは了解だ」
「でしたら、喜んでこの手を取ります! なんなら、一生繋いでいても構いません!」
ニッコリ笑った笑顔に、どこか恐怖を感じたのは、魔王がどうとかではなく、あれだろう。
女性がたまに持つという、怖い性質に男として悪寒が走ったのだろう。




