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剣聖として勇者パーティーの一員へ

 完結済み。毎日投稿。

「冒険者カイム・イレーシオンを剣聖として勇者パーティーの一人とする!」


 国王様の声が王城内の聖堂に響いた時、俺は勇者パーティーの一人として正式に認められた。


 まだ十八の若輩者にして田舎の低級冒険者に過ぎなかった俺が剣聖の名を賜ったのは、偶然にも『聖剣アステリオン』を手にしたからだ。


 王都にて、国王様と同年代の勇者パーティーの面々に迎え入れられながら気を引き締める。剣聖の名と共に人間族のために戦う覚悟を世界の人々に誓ったことは決して忘れない。


 全ては人間族の敵たる魔族の長、魔王を倒すためだ。


 勇者であるジークと共に王都の人々に見送られながら、地下百層まであるという厳格な雰囲気のグリモワール大迷宮を前にした時こそは、ここで更に名を上げてやるとさえ思っていた。多少の無理は乗り越えてやると覚悟していた。


 とはいえ、だ。


「カイム、すまないがゴーレム本体は君が叩いてくれ。俺は周りの雑魚を引き付ける」

「えっ、ああ……は、はい!」

「ゴーレムは斬撃耐性が高い。気を付けるんだよ」


 そう言われ、魔物の中でも上級個体にして説明通り剣で戦うには厳しいゴーレムの相手を任された。


 剣聖と呼ばれてはいるが、実を言うと、剣に関する魔術以外は使えないのだ。

 ただ、アステリオンは所持者に圧倒的な身体能力向上のバフをかけるため、今も後方でジークと共に戦っている援護魔術師は必要ない。


 それに、


「エンチャント! 【鉄塊剣】!」


 詠唱すると、魔力を宿した鉄がアステリオンを覆う。やがて巨大な鉄の塊――破壊槌のような見た目になると、肩に担いでゴーレムへと突っ込んでいった。


「よっ、と!」


 ゴーレム相手なら下手に切るより【鉄塊剣】で打撃属性の攻撃を与える方が相性がいい。


 もちろんとてつもなく重たくなるので、動きも遅くなる。本当なら援護により気を逸らしてほしいのだが、生憎とゴーレムは俺一人で倒さなくてはならないので仕方ない。


 なんとか見上げるような巨躯のゴーレムに近づき、図体へ攻撃を叩きこみ、振り下ろされた岩の拳を避ける。


 そうやって隙が生まれれば、鉄の塊となったアステリオンを振り下ろし、腕の関節部を粉砕すると、そのまま駆けあがる。


 渾身の力で頭上に飛び上がり、落下の勢いも合わせてゴーレムの頭にアステリオンをぶち込めば、岩の合間から見えていた赤い瞳は光を失い、その場に崩れ落ちた。


 この程度なら問題ない。しかし、グリモワール大迷宮に挑んでからというもの、厄介な相手はいつも俺任せな気がする。


 それに戦いを終えても回復専門の治癒魔術師は、大した傷も追っていないジークの回復から始め、俺には「魔力の節約です」とか言って、最低限の体力回復くらいしかやってくれない。


 どうにも気に食わない。回復を終えてアステリオンを肩に背負いながら溜息を一つ吐くと、ジークが歩み寄ってきた。


「流石は剣聖だね。ゴーレムを剣一本で倒すなんて」

「あっ、いや別に、これは俺が凄いというより、アステリオンがある意味凄いというか……」


 俺は本来なら結構口が悪いと自負しているので、神託の儀を受けて勇者となったジークを相手にすると言葉選びに戸惑ってしまう。

 そんな事は知らずか、ジークは瑠璃色の瞳を細めると、アステリオンを凝視する。


 ――気のせいだろうか? その端正で優しげな顔に影が差した気がした。


「たしか聖剣だと聞いたが、俺でもアステリオンなんて名前は聞いたことがないんだ。いったいどこで手に入れたんだい?」

「それは……まぁ、その、”コイツ”とは色々ありまして」


 コイツと言いながら剣の腹を叩いてやった指先には、感謝半分と、決して誰かに渡せないという覚悟を込めたつもりだ。


 しかし使いこなせているのは偶然みたいなものだし、力にもなってくれているが、本当にアステリオンには苦労させられた。


 なにせ……と、アステリオンとの出会いを振り返っていれば、ジークが手を差し出してきた。


「どうかな、一度振らせてくれないかい? 王都に保存されている聖剣の類とどう違うか、この身をもって……」


 そんなことをジークが口にすると、言葉を遮るように心の底から声が出る。


「だ、駄目だ!!」


 『赤の他人にアステリオンを渡す』。そんな行為が脳裏をよぎった瞬間、思いのほか大声が出た。


 ジークも面喰っているのか、珍しく身を引いている。取り巻きの女魔術師たちも同様だ。


「あ……す、すまない。その、コイツは俺の相棒みたいなものだからな。ほら、これでも剣聖だから。自分の剣には愛着があって……」


 凍ってしまった空気を何とかしようとあれこれ口にするが、ジークはどうにも気に食わないといった様子だった。


 だが一つ溜息を吐いて、「ならその相棒で道を切り開いてくれ」と、凛然とした顔で勇気付けるように言ってくれた。


 怒らせてしまったかと思ったが、流石は勇者だ。背中を押されたようで、アステリオンの柄を強く握りしめる。


 だがコイツばかりは、例え勇者だろうと誰にも渡すわけにはいかないのだ。

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