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第8話『どうやら霊刀山で異変が起きているらしい』(瞬視点)

(瞬視点)




あまり時間を掛けたくなかった為、急いで霊刀山へ向かった俺とオーロであったが、どうやら考えていた以上に厄介な事になっている様だった。


「……これが霊刀山か? 随分と嫌な気配のする場所だな」


「いや……どうやら何か大きな異変が起きているらしい。誰か」


俺はオーロに言葉を返しながら、付いてきているであろう忍衆を呼び、フソウにいる時道へ情報を届ける様に言う。


そして、まだ残っているであろう忍衆には、危なくなったら自分の判断で逃げる様に告げてからオーロに向き直った。


「オーロ」


「なんだ?」


「どうやら霊刀山で異変が起きているらしい」


「なるほどな」


「だから、もしもの時は……」


ここから逃げてくれと言おうとしたが、そんな俺の言葉を遮る様にオーロが言葉を発する。


「瞬。残念だが、俺はそんな臆病者じゃないんだ」


「……オーロ」


「それに、ミラが居る可能性がある以上、逃げるワケにもいかないだろう?」


「まぁ、そうだな」


軽く笑うオーロに、確かになと納得しながら俺は腰に差した『島風』と『如月』に触れる。


相棒は今日も変わらず、調子はいいようで、ズシリとした重さを俺に返してくれた。


「なら、行くか」


「おぅ」


そして、俺とオーロは短く言葉を交わしてからいつも以上に濃い霧が出ている霊刀山の中へと突撃するのだった。




山道を歩きながら、俺は周囲を警戒しながら歩いていたのだが、中は霧が濃い事以外には異常が無い様に思える。


「瞬」


「……なんだ?」


「一応聞いておきたいんだがな。この場所はどういう場所なんだ」


「一言で言うなら、神刀の墓場だ」


「墓場?」


「そうだ。担い手が見つからず、戦場で戦う事が出来ない神刀たちがかつての担い手を想い、眠る場所」


「ほう」


「そして、ここは俺達ヤマトの侍にとって、修行場の様な場所でもある」


俺はオーロに説明しながら『如月』を抜き、霧の向こうから現れた過去の侍が握る神刀を受け止める。


そして、オーロもまた同じ様に奇襲を防いでいるのだった。


「と、まぁ。こんな具合に侍の記憶を持った神刀が襲ってくるからな。これと戦っていると修行になるというワケだ」


「ほぅ」


「とは言っても、正直な所、ここに出てくる記憶は神刀が持っている記憶だからな。実力はそれほど高くはない。だからある程度強くなったら、外で修行する方が良い……っていうのが常識だったんだがな」


『行くぞ! 夕立!!』


『力を見せろ! 敷波!!』


ただの記憶であったはずの過去の侍を写した影は、まるで人の意思の様な物を見せながら、神刀の力を示し俺とオーロにそれぞれ襲い掛かってきた。


どうやっても勝てない。というほど強いワケでも無いが、容易く勝つことも難しい。


何とも絶妙な強さだ。


いや、この力は夕立と敷波の前の持ち主の力か。


「オーロ! 油断するな。こいつ等は侍並だ」


「なるほど。それは厄介だな!!」


俺は夕立の攻撃をかわしながら、オーロに声を掛けるが、どうやらオーロも承知済みらしく、敷波の攻撃を受け流しながら反撃をしているようだった。


しかし、俺は影に向かって如月を振るいながら一つの違和感を覚える。


「コイツ……?」


「瞬。どうやらこいつ等、実体がないぞ」


「そうらしいな」


隙を見つけて影の体を斬っても、少しだけ動きが鈍くはなるものの、完全には止まらず、少ししてから再び動き出してしまう。


このままでは負けないまでも、勝つ事も難しいだろう。


ならば、どうするか。


「瞬。このままだと面倒な事になるぞ」


「……ぐ」


撤退するにしても、どの道対処する必要は出てくる。


ならばひとまず巫女様とミラだけでもお助けするべきか?


いや、しかし、敵がこいつ等だけかも分からない状況で無理に奥へ進めば最悪撤退する事も出来なくなる。


「ならば……!!」


俺は『如月』を手放し、即座に『島風』に手をかけた。


そして、神速で『島風』を抜き、『如月』を手放した事で油断している夕立の幻影ごと霧の空を切り裂く。


「天斬り!!」


狙い通り、放った一撃は周囲を覆っていた霧を吹き飛ばし、更に夕立と敷波を持っていた影も吹き飛ばした。


しかし、この一撃は、先ほどまでの脅威を遠ざける事には成功したが、代わりに別の脅威を呼ぶこととなってしまった。


『天斬りか。なるほどな。しかし随分と衰えたものだ』


「誰だ」


『名乗るほどの者では無いが、一応名乗ろうか。天霧家にその人ありと呼ばれた男、天霧蒼龍(そうりゅう) だ』


「なっ!」


「知り合いか?」


「いや、直接会ったのは初めてだ。だがその名前はよく知っている。天霧家の初代当主だ」


俺はオーロに情報を渡しながら、突如として現れたその男をジッと見据えた。


先ほどまでここに居た夕立が作り出した過去の侍の影たちと似たような薄い姿でありながら、どこか違う。


まるで生者の様にはっきりとした意識でここに立っているのだった。


『ふむ。どうやら少々面倒な事が起きている様だな』


「……?」


『おい。お前。そう。お前だ』


俺は天霧家初代当主の言葉に反応し、僅かに動いた。


そして次の瞬間、天霧家初代当主は俺の懐に入り込み、握っていた木の枝を振り上げる。


『覚えとけ。コイツが本物の天斬りだ』


天霧家初代当主が放った一撃は、『島風』で放った俺の天斬りよりも遥かに強力な力で俺の体を吹き飛ばした。


「瞬!!」


『あぁ。あの小僧に伝えておけ。妙な生き物が山に入り込んで、神刀共が暴走してるってな』


「っ、く」


『それとな、一応あの嬢ちゃん達は俺様が守ってやる。巫女は当然として、銀髪の小娘も面白い力を持ってるみたいだしな。俺様のモノにしてやるとしよう』


「銀髪って、ミラの事か!?」


『名は知らん。いや、巫女が確かその様な名を呼んでいたか? まぁ、良い。名なら後でいくらでも聞けるさ』


「待て!! おい!!」


遠くでオーロと天霧蒼龍が言い争いをする声を聞きながら、俺は意識が閉ざされてゆくのを感じていた。




それから、どれくらい時間が経ったのか俺は意識を取り戻した。


目を開くと同時に体を起こしたが、全身を襲う痛みで動けず深く息を吐く。


「……ここは」


「目が覚めたか」


「オーロ?」


「あぁ。それで、ここは霊刀山の近くにあった管理小屋だ」


周囲を見て、確かに見覚えのある場所だなと頷きながら、俺はオーロに言葉を返した。


「それで、あれから何がどうなったんだ」


「あぁ。天霧蒼龍という奴にお前が吹き飛ばされてから、アイツは山の頂上に向かっていった。どうやら狙いは巫女姫様とミラらしい」


「巫女様とミラが狙い……?」


「どういう目的か分からんがな。二人を自分の物にすると言っていた。あまり良くない状況だな」


「……そうか」


俺は深く息を吐いて、何とか体を立ち上がらせた。


が、すぐに膝をついてしまった。


「瞬。あまり無理をするな」


「……いや、しかし」


「どの道、今すぐ俺たちが霊刀山へ向かっても同じことになるだけだ。今は増援を待て」


「増援?」


「あぁ。お前が倒れてから、忍衆って奴らが現れてな。そいつらに状況を伝えて、誰か寄越す様に言った。悔しいだろうが、今は待て」


「……そうだな」


俺は腹の奥で何かが暴れる様な感覚を覚えながら、深く、深く息を吐いた。


苛立ちか。


無力感か。


この感情が何から生まれているのか、それは分からないが、こみ上げてくる思いに喜びはない。


今ここにあるのは、圧倒的な現実に打ちのめされ、自分の弱さを再び見せつけられた男の情けない姿だけだ。


「……どれだけ時が経とうとも変わらない。俺は、弱いままだ」


俺はあの時から何も変わらない。


ただ地の底で空を見上げるばかりだ。

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