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第7話『二人同時にかかってこい』(瞬視点)

(瞬視点)




会議も終わり、霊刀山へ行く準備をしていた俺達であったが、その前に別の厄介ごとが生まれた。


「姉上! 俺も一緒に行きます! 桐生家の次期当主として!」


「オレも行く! 俺だって戦えるんだ!」


「駄目です。ここで待ってなさい」


「何故ですか! 姉上!」


「お前たちが神刀の担い手ではないからだ。もし仮に霊刀山に居る奴が神刀使いだった場合、お前たちは死ぬ」


「っ! そんなもの!!」


「し、死ぬことなんて怖くない!!」


子供二人の叫びに、俺は大きなため息を吐きながら和葉を見た。


そして、和葉もまた、どうしたものかと頭を抱えた後、二人を見据えた。


宗一郎(そういちろう) 君。(はやて)君。死んでも良いなんて悲しい事、言わないで。そんな無理をしても良い事なんて何も無いよ」


「……」


「それに。二人はこれから大人になるんだから。大人になって、神刀を手に入れてから戦えば良いじゃない」


「そんなの! 瞬兄ちゃんは子供の時に島風を手に入れたんだろ! 瞬兄ちゃんばっかりズルい!」


和葉の説得を聞いていた俺は、不意に流れ弾が飛んできた事で、視線を颯に向けた。


颯は俺と視線がぶつかるだけで一歩後ずさり、緊張からか大きく息を吐きながら俺へと視線を戻す。


「颯」


「な、なんだよ」


「ことは単純だ。お前が神刀の担い手として相応しいだけの実力を示す事が出来るのであれば、誰も文句は言わん」


「……」


「だから、示せ。自分の手で」


俺は颯と宗一郎を連れ、摸擬戦場に向かった。


そして、二人と同じ摸擬戦用の方を持ちながら、相対する。


「二人同時にかかってこい。それで俺に傷一つでも付けられたら、霊刀山に連れて行ってやる」


「ちょっと!? 瞬君!」


「今更待ったは無しですよ! 姉上!!」


「そうだよ! これは瞬兄ちゃんが言った事なんだから! 今更やっぱり無しとか駄目だよ!」


「っ!」


「問題ない。さぁ、時間もないからな。さっさと始めるぞ。どこからでもかかってこい」


俺が摸擬戦用の刀を腰に差しながらそう言うと、颯と宗一郎はそれぞれ別々の方向から攻めるつもりなのか、まず二手に別れる。


宗一郎は刀を抜き、真っすぐに走りながら飛び込んできて、俺に向かって刀を振り下ろした。


「正直だな」


「桐生家は、いつだって正面突破です!!」


「なるほど」


確かに和葉も基本的に正面から戦う女だったなと思いながら、俺は宗一郎の一撃をギリギリでかわし、服を掴んでこちらに引っ張り、体勢を崩させる。


宗一郎は刀を地面に向かって振り下ろしながら固まってしまった為、左から大きく回ってこちらに走ってきていた颯に向かって掴んだ宗一郎を投げた。


「っ!?」


「なっ! 宗一郎!?」


二人はそのままぶつかってしまい、地面を転がりながら俺から離れていった。


今の所、昔からそれほど成長している様には見えない。


修行をサボっていたという訳では無いんだろうが、どう成長すれば良いのか自分でも分かっていない様な感じだろうか。


「もう終わりか?」


「っ! こんな事で!!」


颯は勢いよく飛び跳ねながら起きると、先ほどよりも早く地面を走って滑る様にこちらへ向かってきた。


「疾風!」


「遅いな」


「わ!?」


俺は地面に体が付くのではないかと思う程に体勢を低くしながら走ってくる颯に向かって地面の砂を蹴り上げて、視界を潰すと、動きが鈍った颯に向かって歩く。


そして、俺を近づけまいと刀を振り回す颯から刀の当たらない適度な距離を取りつつ、一瞬の隙に懐へ入り込んで刀を奪い、納刀させてから宗一郎と同じ場所へと投げた。


「こんなものか」


二人は完全に気絶してしまったため、摸擬戦場に居る救護担当に二人を託すと、そのまま戦いが終わるのを待っていた和葉とオーロの元へ向かうのだった。




和葉とオーロの元へ戻ると、何故か時道も待っていて、摸擬戦用の刀を握っていた。


「強くなったな。瞬」


「そうか?」


「あぁ。間違いなく強くなった」


「そうか」


「そして、俺も強くなった。ならばやる事は分かるな?」


「さっさと巫女様を救出するという事だろう?」


「それは、そうだが、その前に実力を確かめる必要があるんじゃないか?」


「……必要さを感じないな。お前は颯や宗一郎と違って、十分な実力があるだろう」


子供の時から変わらない笑顔で、そんな事を言ってきた時道にやや呆れながら俺は言葉を返し、無理矢理話を進める。


「とにかくだ。巫女様とミラが攫われている以上、いつまでも遊んでいる余裕はない。さっさと霊刀山へ行こう」


「そうだな」


「えぇ。そうね」


「ちょっと待ったァー!」


何かを言いたそうにしている時道をそのままに、俺達は霊刀山へ向かおうとしたのだが、また今度は別の奴が空から降りて来た。


ヤマトにおいて、空を飛ぶ者など一人しかいない為、その声の持ち主は自然と一人に絞られる。


「なんだ。宗介」


「和葉が霊刀山へ行くんなら、俺も行くぜ!」


「お前はフソウの守りだろ。何を寝ぼけた事言ってるんだ」


「フソウも守りながら、和葉も守る! それが俺の意思だ!!」


宗介は自信満々に出来るはずもない事を言い放ち、俺達が一瞬反論出来ずに止まった瞬間に、決まりだなと言い放った。


そして、改めて反論しようとした時には既に刀へ手をかけており、いざという時は実力行使だと行動で示していた。


面倒な……。


「……和葉」


「分かってるわ。……宗介君。申し訳ないけど」


「和葉! 俺はお前に傷一つ付けたくないんだ!」


「その気持ちは嬉しいけど……」


「和葉と一瞬も離れたくないという気持ちだってある」


「いや」


「それに! 元々は和葉はフソウの守りだったはずだ。その和葉がフソウを離れるというのであれば、フソウがフソウを離れたという事にもなるだろう! 和葉がフソウそのものなんだから!」


「……」


「という訳で俺も和葉ことフソウを守る為に霊刀山へ行く。問題無いな?」


いや、問題しか無いだろう。


普段はフソウに居る面々も各方面に散っていくワケだから、中央の戦力が減っているのだ。


その上で、宗介まで抜けた場合、フソウを守護するのは時道だけになってしまう。


時道の実力ならば負けるという事は無いだろうが、それでもフソウを守り抜けるかというと話は別だ。


フソウは広いからな。


そこまで考えて、どうしたものかと考えていた俺だったが、予想外の人物が口を開いた事で僅かだが光が差す。


「そこまで話を把握しているワケではないが、一度偵察という意味も込めて俺と瞬で、霊刀山とやらに行けば良いだろう。それならフソウから戦力が減る事もあるまい」


「それは、そうですが……貴方は大丈夫なのですか? オーロさん」


「問題はない。どの様な事態になろうと、情報は持ち帰る。それに、ここで言い争いをしている間にもミラがヤバいなら、さっさとしたいからな」


「……分かりました。時道君」


「影に潜ませた忍衆を何人か付ければ情報収集は問題無いだろう。特に反対はない。瞬が負けるはずも無いだろうからな」


「分かりました。じゃあお願いね? 瞬君。それにオーロさん」


「あぁ」


「任せておけ」




俺はオーロと共に頷き、今度は余計な邪魔が入らない様にとさっさとフソウを出て、霊刀山に向けて歩き始めた。


ヤマトの侍は実力がある奴ほど、自分の考えを押し通したがる所があり、こういう厄介ごとはよく起こるのだ。


「……はぁ」


「疲れているな、瞬」


「まぁ、な。久しぶりにヤマトへ帰ってくると、話の通じない連中が多いなと思い出す」


「それは、まぁ確かにな」


「しかし、ようやく静かになった。これでミラと巫女様の救出に集中できるというものだ」


「そうだな」


苦笑いをしているオーロに、俺も笑みを返しながら霊刀山へ向けて俺たちは足を速めた。

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