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第6話『それが……神刀』

どうしてこんな事になったのか。


自問自答しても答えは出ず、お出かけを喜ぶ少女、楓ちゃんと手を繋ぎながらフソウという街を離れ、霊刀山という場所へと向かっていた。


「ふんふんふーん」


「楽しそうっスねぇ。楓様」


「当然じゃ! 息苦しい城を抜け出して、自由な外へ飛び出したんじゃぞ!? 楽しくないワケがない!」


「それは良かったですよっと」


欠伸をしながら私達の少し後ろを歩く男の人は、本当に護衛として大丈夫なのか不安になる様な人だった。


武器らしい武器は持っていないし、胡乱な瞳は周囲を警戒している様には見えない。


「っ!!? まずい!」


「ど、どうしたんですか!? 雷蔵さん!」


「少しそこで待っていて下さい! 楓様! ミラちゃん!!」


雷蔵さんは突如として目を見開くと、道の近くにあった草むらへ飛び込んで行った。


何か魔物でも現れたのだろうか。


もしくは、何かの敵とか!?


いつまでも戻ってこない雷蔵さんに、私は風の魔術を準備しながら周囲を警戒する。


だが、どれだけ警戒しても敵の姿は見えず、空には鳥が呑気な鳴き声を出しながら飛んでいるくらいだった。


「……っ!」


そんな中、再び草むらが揺れ、中から雷蔵さんが飛び出してくる。


「いやー。ヤバかった。ヤバかった」


「敵ですか!? 雷蔵さん!?」


「いや? ただ腹を下していたから飛び込んだだけだが?」


「は……?」


「お主。バカじゃのう。飲み会だからとガバガバ飲んどるからそうなるんじゃ」


「いやー、滅相も無い。ハハハ。次から気を付けますよ」


「その言葉、つい先月も聞いたがの」


「そうでしたか? ワハハハ」


駄目だ。


この人は、駄目だ……!


護衛としてまるで信用できない。


いざという時には私が楓ちゃんを守らないと……!


「っ! 頑張りましょう」


「なんじゃ? 随分と緊張しておるな。ミラ。それほど心配せんでも、雷蔵は強いぞ」


「ま、それほどでもありま……すけどね。わっはっはっは! そう。この雷蔵はヤマトで最強ですから。わっはっはっは!」


大きく笑いながら言ったその言葉に、私は少し引っかかって、ちょっと意地悪な事を聞いてしまった。


そう。だって私は知っているのだ。


このヤマトで二番目に強い人と、一番強い人を。


「では、雷蔵さんは瞬さんよりも強いんですか?」


「瞬~?」


「そう。天霧瞬さんです!」


「ふっ、相手にもならないと言っておきましょう。ま、瞬の奴も弱くは無いですけどね。俺には勝てないだけで。わっはっはっは!」


……。


ふぅん。


うん。分かった。この人は信用できない。


間違いない。


楓ちゃんは私が守る。お姉ちゃんとして!!




そんなこんなで気合を入れた私は、その道中を緊張しながら歩いていたのだが、特に魔物に襲われる様な事はなく、楓ちゃんと雷蔵さんが呑気に笑っていられる程に平穏な時間が流れているのだった。


そして、かなりの時間歩き、私たちは霊刀山と呼ばれる場所にたどり着く。


「……ここが霊刀山ですか」


「そう! 霊山じゃからな。本来は立ち入り禁止じゃが、ミラは特別じゃぞ!」


「ありがとうございます」


「ふふ。まぁ、感謝するが良い」


胸を張って嬉しそうにしている楓ちゃんによく御礼を言ってから、私は楓ちゃんと共に霊刀山へと足を踏み入れた。


しかし、一歩足を踏み入れた瞬間、酷い悪寒が体を襲い、私は思わず立ち止まって震えてしまった。


「ミラ?」


「ご、ごめんなさい。何か酷く嫌な予感がして……」


「ほー」


「流石は聖女という所じゃな」


私の反応に、雷蔵さんと楓ちゃんは関心した様な反応を示した。


二人は何も感じていないみたいだけど、これはどういう事なのだろう。


「ここは霊山。つまりはあの世とこの世の境じゃ」


「あの世?」


「死後の世界という奴よ。死した者が行く世界。生者が足を踏み入れてはならぬ領域」


「死後の、世界」


昔、お兄様に買って貰った本には、人はこの世界で命を落とした後、空の果てに行くと書かれていたが、楓ちゃんが言うにはこの場所に死後の世界があるという。


こんな簡単にたどり着ける場所に死があるのかと思うと、信じたくはないが、この場所の雰囲気は死の世界と言われれば納得の空気ではあった。


「ミラはヤマトについてそれなりに詳しい様じゃが、神刀についてはどの程度知っているんじゃ?」


「それは、魔力を斬る力があるとか、並の武器より強力であるとか、作りが美しく芸術品としての価値もある等でしょうか」


「なるほど。西の人間らしい見方じゃの」


「……」


「我らヤマトの民にとって、神刀とは神具なんじゃ」


「……」


「神に授けられた、神へ繋がる為の神具。そして、ヤマトの民が神の意思の下にある限り世界の理を切り裂く事の出来る至宝」


「それが……神刀」


「そうじゃ。それゆえに、我らは神刀を武器として扱わぬ。我らが神刀を選ぶのではなく、神刀が担い手を選ぶ」


楓ちゃんは一人で霊刀山の中へ入り、ゆっくりと歩きながら神刀の根源を語った。


神刀の在るべき姿を。


「神刀には全ての担い手の記憶が宿っておる。その魂が焼き付いておる。決して薄れる事のない侍の生き様がな」


楓ちゃんの言葉に霧に覆われた山肌で誰かが動いた様な気配がした。


いや、実際に何かが動いている。


黒い影が、霧の中を走り、こちらをジッと見ている様な気配があった。


私は急いで楓ちゃんの傍に駆け寄り、楓ちゃんを守る様に魔術を展開したが、一瞬で目の前に現れた人が私の手の中にあった魔術を神刀で消してしまう。


「っ!?」


「止めよ」


神刀を持った影の様な人は楓ちゃんの言葉にスッと姿が薄くなると霧に紛れて何処かに消えてしまう。


まるで初めから存在しなかった人の様に。


「この霊刀山には多くの神刀が眠っておる。現代に担い手が現れず、担い手を求めてさ迷う神刀がな」


「それは……どうなるんですか?」


「どうにもならんよ。担い手が現れればその者と戦うが、現れなければこの山でただ、待ち続けるだけだ。担い手をな」


「……」


楓ちゃんの言葉に私はゴクリと唾を飲み込んで、楓ちゃんの手を強く握った。


怖い。


この場所がただ、ひたすらに怖い。


その恐怖が死者から感じる死の気配に生者として感じている物なのか。


もしくは意思だけで存在している謎の物に怯えているのか。


自分でも分からないが、ただ言葉に出来ない恐怖がある事は確かだった。


「うむ。やはりミラを連れて来たのは正解だった様じゃの」


「……私に何が」


「実はの。お主に触れた時、視えたんじゃよ」


「……」


「これから起こる事態を解決する為には、お主とわらわがここに来る必要があるとな」


「これから起きる事態……?」


私は先ほどから胸の奥でドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、大きな不安と共に楓ちゃんに答えを求めて問うた。


聞きたくないと感じながらも。


しかし、楓ちゃんはそんな私の気持ちを無視する様にはっきりと告げた。


「明日の朝。霊刀山に眠る神刀の一部が暴走し、担い手を求めて暴れ始める」


「え!?」


「じゃが、それを防ぐ手はなくての。考えていたんじゃが、一番良い方法がミラをここへ連れてくる事じゃった」


「いや、それはどうして!」


「さて。わらわにも分からん。じゃが、この未来は確実じゃ。付き合ってもらうぞ」


私は楓ちゃんの言葉に反論しようと口を開いた。


しかし。


「なら」


「あぁ。言っておくが、事が起きる前に止めれば良いというのは無駄じゃ。神刀に宿る意思は人が干渉出来る物ではない」


「もしくは」


「それと、この事を他の者に告げた場合、事態はより悪化する事が分かっておる」


「っ!」


言いたい事を全て先に言われてしまい、私は発する言葉も無いまま黙ってしまった。


「まぁ、心配せずとも、以前より霊刀山で不審な人影を見たという噂を雷蔵に作らせたからな、そうしないで人は来るじゃろ。そこで解決させれば良い」


気軽に笑う楓ちゃんを見ながら、私は言葉もなく抱えた想いに心の中でジタバタとしてしまうのだった。

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