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第4話『あれ……? ここは、どこでしょうか?』

ムサシという名の街を離れ、二日ほど旅をした私たちは無事フソウという名の街にたどり着いた。


フソウは、ムサシよりも落ち着いているが、落ち着いている中にも凄いものがいくつもあった。


例えば、巨大な左右対称の不思議な形の城であるとか。


その城から真っすぐに伸びた大通りと、等間隔に左右に走る小さな道であるとか。


全てが計算されて作られた様な美しさがここにはある。


「これは……凄いですね」


「そうだろう。フソウの城はな。かつてヤマトに降り立った神が理想を伝え、その理想通りに当時の職人たちが作り上げた最高の物なんだぞ」


「という事は神の世界ではこの様な形の城や街があるという事なのでしょうか?」


「かもしれないな」


「おぉー! つまり、ここは神の住まう世界に最も近い世界の可能性があると! もしかしたら世界の始まりを見る事が出来るのかもしれません!!」


宗介さんの言葉に、私は神様の世界に思いを馳せながら、いつまでもやや高い丘の上からフソウの街を見ていた。


しかし、そろそろ行くぞという瞬さんの言葉を受け、早くフソウの街へ行きたい気持ちを込めて、丘を駆け下りる。


「そんなに慌てると転ぶぞ」


「はい! 気を付けます!」


「……少しは落ち着け。別に街も城も逃げないだろう」


私はワクワクした気持ちが抑えきれずに、オーロさんに返事をしながら街に向かって駆けだしていた。


ここに来るまでヤマトという国がかなり落ち着いている事も分かっているので、一人で行動しても問題ないだろうと考えた為だった。


が、すぐ後悔する事になる。




「あれ? 皆さん?」


私は街の中に入り、通りを覗きながら、あちらこちらと歩き回っていたのだが、気が付いたら後ろに誰も居ない事に気づき、周囲もよく分からない状態になっていた。


今、私が立っているのは十字路の真ん中だが、少し歩いても、また十字路に移動してしまう。


「あれ……? ここは、どこでしょうか?」


うーん。


私は腕を組みながら周囲を見渡して困ってしまった。


完全に人通りが無いわけでは無いが、この状況を脱する事が出来るかどうかと言われると疑問である。


というよりも、瞬さん達と合流する方法を知っている人が居る訳が無い。


ならば、私が一人で何とかしなければいけないという事だ!


「なるほど! しかし、そこまで難しくは無いでしょう。何故なら目印は見えていますからね!」


少しだけ胸の奥に生まれた不安をかき消す様に声を上げながら私は自分の行動を再確認したのだが、そんな様子を見ていた周囲の人がクスクスと笑っている事に気づいてしまい、頬が熱くなる感覚に震えながら、足を早めて歩き始めた。


今はとにかくお城に向かおうと。


しかし、遠くばかり見ながら歩いていたせいか、正面から勢いよく走ってきた子にぶつかってしまった。


「っ!?」


「あいたー!?」


私は派手に吹き飛ばされて、地面に勢いよく倒れてしまう。


痛みは無いが、大声を上げてかなり恥ずかしい。


周囲に人が居ない事を確認して、のそのそと起き上がり、走ってきた子に近づくのだった。


「あの、大丈夫ですか?」


「……あ、あぁ」


「良かった……って!」


「な、なんじゃ!」


「怪我してるじゃないですか。もう。危ないですよ。前も見ないで走っては」


私はおそらく私よりも年下と思われる子の手を取り、擦り傷になっていた場所を癒す。


そして、他にも怪我が無いか調べ、地面に倒れた時に打ち付けたであろう背中を癒すのだった。


「これで多分大丈夫ですかね? 痛いところは無いですか?」


「あぁ。問題ない」


「それは良かった」


「……お主」


「はい?」


「お主、聖女、なのか?」


「えぇ。まぁ。一応そういう事になってますね。でも内緒ですよ」


私は走ってきた子に黙ってて欲しいと頼んでから、別れを告げまた城を目指して進む事にした。


しかし女の子は私の服を掴んで引っ張り、行くなと言った。


「いや、私、あのお城に用があるんです」


「わらわには無い!」


「そうかもしれないですけど。私にはあるんですよ。だから、ごめんなさい」


「駄目じゃ!」


「駄目じゃって言われても困ってしまうんですけど……」


両手でギュッと服を掴まれてしまえば、動く事も難しいし、無理矢理引っ張って行くつもりもない。


どうしたものか。と考えていると女の子が今度はお城の反対側へ進み始めた。


私の服を引っ張りながら。


「さ。行くぞ!」


「え。いや……?」


「なんじゃ! わらわはこっちに行きたいと言っているんじゃぞ!」


「それはそうかもしれませんが」


困ったなぁと思いつつ、必死に引っ張る女の子に逆らう事も出来ず、私はそのまま女の子と共に街の外へ向けて歩いていった。


これからどうなってしまうんだろう。という不安を抱えたまま。




そして、女の子と共に街の外へといよいよ出てしまうという時に、私は流石にこれ以上はと女の子を止める事にした。


「もう、これ以上外に行くと危ないですよ」


「な、なにをするんじゃ! 離せ! わらわを誰だと思っている」


「知りませんよ。どこの誰さんなんですか?」


「わらわは! いや、別に、何でもない」


「んー」


私は服を強く掴んだまま離さない女の子を見て、ふむ、と考える。


多分だけど、この子は貴族の家の子なんじゃないだろうか。


そして、城に保護者さんが居て、この子はそこから逃げ出してきた。


みたいな話じゃないかと思うのだけれど、それで私が何をすれば良いのか、という話だ。


このまま二人で外へ行くというのはあり得ないし。


「えと、外に何か用があるんですか?」


「ある」


「それは、なんでしょうか?」


「わらわの事を守ると誓った者が、すぐそこまで来ておる」


「あら」


何となく状況を整理すると、女の子にとって多分一番信頼している護衛の人が居て。


その人が来るから、勢いのままに外へ飛び出そうとしていたという事だろうか?


逃げていたというよりは、迎えに来たという事なのかもしれない。


「でも、その人がいつ来るのか、それは分からないんですよね?」


「それは、そうじゃが」


「なら、もしその人が遅れていて、貴女が一人で出た結果怪我をしてしまったら、その人はとても悲しむんじゃないですか?」


「……うん」


「私は確かに怪我を癒す事は出来ますが、それだって本当に酷い怪我を治せるかどうかは分かりません。そうなったら、怪我のせいでもう二度と会えなくなってしまうかもしれないですよ」


「っ! は、はは、うえ……さくら」


酷く傷ついた顔でポロポロと涙を零す女の子に、私は申し訳なさを感じながらそっと抱きしめた。


不安な時や悲しい時にはぬくもりが大事だとお姉さまに教えてもらったから。


「ね。だから、貴女の大切な人が悲しい気持ちにならない様に。危ない事はしない様にしましょう?」


「……うん」


「それは良かったです」


キュッと私の体にしがみついて涙を流す女の子に微笑みながら、私は何とか落ち着かせることに成功したと小さく息を吐いた。


そして、城に戻る様に説得しようとしたのだけれど、泣き止んだ女の子は私の服を掴んだまま今度は別の方に引っ張り始めた。


「あの?」


「城は息苦しい。落ち着いて話す事が出来ぬ」


「なるほど?」


「じゃから、今から秘密の場所へと向かうとしよう」


「いや、危ないですよ。そんな場所へ行くのは」


「大丈夫じゃ。信頼できる者に護衛を頼む」


一度は説得に成功したのだけれど、今度は上手く行かず、女の子は晴れやかな笑顔のまま私を引っ張り、街の外側にある一つの家に入った。


「勝手に入って大丈夫ですか?」


「問題ない! いつでも入って良いと言っていたからな。おい! わらわが来たぞ! おーい!」


女の子は堂々とした態度で、家の中に声を掛けると、家の中から一人の男の人が現れた。


「ふぁああ。なんですか? こんな朝早くから」


「何が朝早くか! このバカ者! もうとっくに昼過ぎじゃぞ!」


「あいたたたた。あんまり叫ばんで下さい。昨日飲んだ酒が頭に響く」


「まったく。それでもヤマトが誇る忍か!」


「へいへい。こりゃ申し訳ございませんね。それで? 何か御用で?」


「今から霊刀山へ向かう。護衛せい」


「左様でございますか。承知いたしました。ではしばしお待ちください。準備して参りますので」


「あまり待たせるなよ」


フラフラとしながら欠伸をする男の人に命令した女の子は腰に手を当てながら笑うが……私としては非常に困ってしまう。


いや、だって瞬さん達と合流する為にお城へ行かないといけないのに!


「おぉ、そうじゃ。お主の名を聞いていなかったな」


「え? あぁ、私はミラです」


「そうかミラ、か。わらわは楓じゃ。よろしく頼むぞ」


「あ、こちらこそよろしくお願いします」


ではなくて!!


そうではなくて!!


「いえ、あの。私は」


「はい。準備出来ましたよ。お姫様方」


「遅い! がまぁ良いじゃろ。出発じゃ!」


「あの~!?」


結局私は何も言う事が出来ぬまま霊刀山という場所へ行く事になってしまうのだった。

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