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第19話『まだ私が居ます! それに楓ちゃんには未来を視る力がある』

遠くの地で始まった争いをフソウの城から見ていた私は、心を落ち着かせる様に呼吸を繰り返してから後ろに振り返った。


「始まった様です」


「そうか、分かった。では、わらわ達も……」


楓ちゃんが私の言葉に反応して動き出そうとした瞬間、城が大きな衝撃で揺れる。


私は何が起きたのかと急いでベランダから外を見ると、下の方で何か巨大なモノが動いていた。


「あれは……? まさかレッドドラゴン!?」


「レッド……? なんじゃそれは」


「お前らの国で火吹き竜って奴だ」


「まさか!? 火吹き竜じゃと!?」


オーロさんが楓ちゃんの問いに答えながら、ベランダまで歩いてきて、下を見下ろし笑う。


「じゃあミラ。後は頼んだぞ」


「え? は、はい……って、えぇぇえ!? オーロさん!?」


「野蛮な人間め。では私も行くか。ミラ。後は頼んだ。楓を守ってやってくれ」


「はい!」


オーロさんが勢いよくベランダから外に飛び出して、眼下に居るレッドドラゴンに向かって落ちていくと、続いてレーニさんもベランダから外に飛び出して、空を飛びながら下へ向かって飛んで行く。


おそらく、二人なら大丈夫だろうけど、私は下を見ながらドキドキと高鳴る胸の前で両手を握りしめるのだった。


しかし、どうやら祈っている暇は無いらしく……あの人たちが私たちの居る部屋に現れた。


「上手く陽動は出来た様だな」


「しかし、あまり時間は無い。なるべく早く終わらせるとしよう」


「あなた達は……! 天霧宗謙! アダラード・グイ・ジルスター!」


姿を消す魔道具を使っていたのだろう。暗闇から現れた二人は、以前ヴェルクモント王国で戦った時とそれほど変わらない。


そして、あの戦いで瞬さんに切り落とされた左腕も天霧宗謙は失ったままであった。


「楓ちゃん! こちらへ!」


「う、うむ!」


私は楓ちゃんを背中に庇いながら、二人の敵を睨みつける。


「ふ、気丈な事だ。しかし、主だった侍たちは天霧瞬を含め、皆フソウの外。オーロ、レーニ・トゥーゼも階下のレッドドラゴンと戦っている。お前だけで何が出来る。ミラ・ジェリン・メイラー」


天霧宗謙が私の名を言った瞬間、奥のふすまと呼ばれる扉がガタッと動いた。


その音に、天霧宗謙とアダラードは警戒を強め、ふすまを睨みつけて叫ぶ。


「何者だ! 姿を現せ!」


「……申し訳ございません。ミラさん。少々動揺して音を立ててしまいました」


「いえ。特に問題はありませんよ。セシル様」


「お前は、聖女セシル!」


「えぇ。その通り。懐かしいですね。宗謙くん」


予定より少しばかり早いが、セシル様が奥の部屋から現れた事で、天霧宗謙は武器を構えながら叫んだ。


しかし、アダラードにも天霧宗謙にもセシル様は負けず、ジッと二人を静かな瞳で見据えているのだった。


「武器を捨てて投降してくださいませんか? あまり戦うのは好きじゃないんです。誰かが傷つくのを見るのは悲しいですからね」


「その様な戯言! 弱者の吼える事ではないわ! 守られてばかりの聖女に何が出来る!」


「まぁ、そうですね。実際その通りですし。反論はありませんが……仕方ないですね。颯君。宗一郎君。お願いします」


「「承知いたしました!!」」


セシル様が合図をした瞬間、颯君と宗一郎君が作戦通り、オーロさんから借りた魔力と姿を消すコートを脱ぎ捨てて部屋の端から天霧宗謙とアダラードに襲い掛かった。


「なに!?」


「バカな!? 隠れていただと!? 我々の襲撃を予知していたのか!? あり得ぬ!」


「さぁ、出番だぜ! 『夕立』」


「俺たちの力を見せつけよう! 『敷浪』」


颯君と宗一郎君は、霊刀山で担い手となったばかりの神刀を握り、地を駆け天井を蹴りながら斬りかかり、天霧宗謙とアダラードは不意打ちという事もあり、防戦一方となっていた。


いや、それだけじゃない。


二人の力が凄いのだ。


まだまだ子供だというのに、あちらこちらへ飛び跳ね、駆けて、鋭く刃を二人に向けている。


その勢いに天霧宗謙とアダラードが押されていた。


「チッ! このガキ共、神刀の力を引き出しているのか!」


「宗謙!」


「分かっている!」


焦った様な天霧宗謙の声に私は二人の勝利を確信した。


だが……次の瞬間、天霧宗謙と戦っていた颯君の背中から刃が生える。


「っ!?」


「颯!!」


いや、こちらからは颯君の背中しか見えていなかったが、天霧宗謙が颯君を蹴り飛ばし、私たちに姿を見せる事で何が起きたのかを理解した。


そう。天霧宗謙の失われたはずの左腕がそこにあったのだ。


そして、左手に颯君の血で濡れた刀を握りながら笑う。


「……どうして」


「侍が失われた腕をそのままにしておくと思うか? 無論代わりは用意するに決まっている」


天霧宗謙が話すたびに、ドクンと震えるその腕は……霊刀山で会った例のモンスターと同じ物に見えた。


あの水の塊を、腕の様に変えて操っている。


「そして!」


「うっ!?」


天霧宗謙は刃を振りかざし、アダラードと戦っていた宗一郎君に向かって走り、その背中を斬りつけた。


「宗一郎!!」


楓ちゃんの悲鳴が部屋の中に響き、宗一郎君もまた血の海に沈んでしまうのだった。


「私達を甘く見たな。聖女セシル」


「……」


「まさかこの様な小僧に我らが敗北すると思われていたとはな。所詮、戦場に立てぬ者の策略よ」


「……そうですね」


セシル様は淡々と、天霧宗謙の言葉に答えながら魔術を展開しようとして……天霧宗謙が右手に持っていた神刀で肩を貫かれた。


そして、そのまま左手の神刀をセシル様の左肩にも突き刺して、動けなくしてしまう。


私は咄嗟に楓ちゃんが怖い物を見ない様に抱きしめながら、天霧宗謙とアダラードを睨みつけた。


「さて、何だったか? 武器を捨てて投降しろ。だったか?」


「っ!」


「やはり全てが無駄に終わったな。まぁ分かり切っていた事ではあるが」


「まだ私が居ます! それに楓ちゃんには未来を視る力がある」


「フン。戯言を。私達が本気で小娘一人に負けると思っているのか?」


「やってみなければ、分かりません」


「分かるさ。それに、一つ良い事を教えてやろう」


「良い事……?」


私はちょっとずつベランダの方に移動しながら天霧宗謙と話をする。


「そう。お前が頼りにしている未来を視る力だがな、それほど万能ではない。という話だ」


「……?」


「巫女姫の力はな。望んだ未来を視る力では無いのだ。これから起きる未来を偶発的に視る力でしかない」


その嘲りの感情を込めた天霧宗謙の言葉に楓ちゃんが僅かに震えた。


「過去を視る事も未来を視ることも遠き地で起こった事を視る力も、制御できなければ意味が無い。まぁ、バカ共を従えるには良い宣伝になるだろうがな」


「だから、なんだと言うんです!」


「物分かりの悪い小娘だ。つまり……お前ではどう足掻いても私達には勝てないという事だ」


ジリジリとベランダに移動していた私は、そのまま一気に走ってベランダから外へ飛び出そうとした。


空を飛べば逃げられると。


しかし、そんな私たちの前に、短距離転移魔術を使ったアダラードが立ちふさがる。


「逃がす訳にはいかないな。大人しくして貰おう。既に勝敗は決しているのだから……」


「あぁ、そうだな」


「っ!?」


余裕の笑みで私を見下ろしていたアダラードは背後から現れたオーロさんに殴られ、部屋の中に転がって行く。


「なっ!?」


そして部屋の中に居た天霧宗謙もまた傷一つない颯君と宗一郎君によって斬られ、追い詰められていたのだった。


「何が起きている!? お前たちは私が殺したハズ!」


「私が魔術を使いました。悪意ある者が人を傷つける際に幻覚を見せる魔術を」


傷一つ無い姿で微笑むセシル様によって状況を理解した二人は、舌打ちと共に部屋の中に火の魔術を使い、私たちが消火している間にどこかへ消えてしまうのだった。


「……逃がしましたか」


自分たちが不利だと判断した瞬間に、一瞬で撤退するのは前にも見たが、敵だというのに関心する程の速さだ。


やりづらい。


折角計画を立てて捕まえようとしたのに。


私は悔しさを噛み締めながら二人が消えた空間を睨みつけるのだった。

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