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第17話『重要な事……ですか?』

私は大きく息を吸い込んで、吐いて……気持ちを落ち着かせてから並ぶ人々を見た。


皆さん真剣な表情で私を見ている。


よぉーし。がんばるぞー!


「では、作戦についてお話をさせていただきたいと思います」


「「「……」」」


「ですが、私も知らない事は多いと思いますので、気になる事があれば何でも仰っていただければと思います」


私は頭をペコリと下げてから両手を握り、むん! と真剣な表情をした。


そんな私を見て楓ちゃんはクスリと笑った後、手を上げる。


「えと、はい! 楓ちゃん!」


「楓ちゃん……だと?」


「巫女姫様に対して不敬じゃないか?」


「斬るか?」


「あ、あわ、あわわ」


不用意に迂闊な事を口にしてしまった為、空気がピリッと弾けて、多くの視線が私に集まった。


こわい!


泣きそうだ。


「静かにせい!」


「「「……!」」」


「ミラは聖女。つまりわらわやセシル様と同じこの世に二人と居ない存在という事になる」


「……」


「しかしミラは『まだ』外国の人間。ここでお主等がミラを排除する様な事になればどうなるか。分からぬお主達ではあるまい?」


「……確かに」


「巫女姫様の仰る通りだ」


「聖女が二人となれば、我らに恐れる物は無い」


「フン。臆病者とは違い元より俺は恐れる物など何も無いがな」


「なんだと!? 火吹き竜の事を忘れたか! 聖女がお二人いれば、先代様も無事であっただろう!」


「それは確かに」


ざわざわと騒ぎ始めた侍さんたちを見つめながらどうしようかなと考えていた所、楓ちゃんが私を見てニコリと笑った。


その顔に私も笑顔を返しながら頷くと、楓ちゃんはまた皆さんを見ながら、口を開く。


「理解が得られて結構じゃ。では、話し合いを続けるが、ミラはこの通り気が弱い。力も弱い。貧弱と言っても良いじゃろう」


「え?」


「故に。何か意見がある時は手を上げよ。騒ぐと場が荒れるのでな」


何か楓ちゃんに酷い事を言われた様な気がするけど、まぁ良いか。


侍さんたちも静かに話を聞いてくれる様になったし。




私はコホンと合図をしてから改めて話を始めた。


「えー。では霊刀山より、天霧蒼龍さんと神刀さん達が攻めてくる件について、話し合いをしたいと思います」


地図をテーブルの上に広げながら、私は細長い棒を使って霊刀山を指した後、フソウとの道を棒で走らせた。


「楓ちゃんの予測では夜明け頃に霊刀山を出る予定であり、彼らの進行を止める為にはフソウと霊刀山の間の開けた場所で……」


「聖女ミラ様」


「え、あっ、何かありましたか? えと、神藤時道さん」


「えぇ。作戦について話す前に重要な事を決めねばならないと考えております」


「重要な事……ですか?」


「はい。最も重要な事……!」


神藤時道さんの物々しい雰囲気に私はゴクリと唾を飲んだ。


そして、神藤時道さんは真剣な眼差しで言葉を走らせた。


「作戦名を決めなくてはいけないでしょう」


「……え?」


「流石は時道だ。良いところに目を付ける」


「確かに作戦名は重要だな。どの様な名にする?」


「ふむ。夜明けとともに敵が来るのだから、暁という名は入れたいな」


作戦の話をする前の段階なのだけれど、既に皆さん盛り上がってらっしゃる。


しかし、しかしだ。


作戦名はそこまで大事ではないと思うので、先に作戦の話がしたい。


が! そんな事を言えるはずもなく、私は何とか先に作戦の話が出来ないかと考えて、とりあえず口を開いた。


「あのー。皆さん」


「なんでしょうか? 聖女殿」


「いえ、名前の件なのですが、作戦の内容を話し合ってからの方が……」


「何!? 後にしろと申すか!!?」


「ひぇ」


「まず作戦名を決めねばやる気が起きんだろう!」


「我らは!」


「落ち着け。皆の衆!」


「……っ! 天霧瞬! なんだ。意見でもあるのか。ならば挙手しろというのが巫女姫様のお達しだが」


「お前もやっていない癖によく言う」


「うるさいぞ」


ボソボソと言葉を交わし合う侍さんたちをよそに、瞬さんは椅子から立ち上がり小さくため息を吐くと周囲を見渡した。


「今は名を決めるよりも大事な事があるだろう」


「名を決める事よりも大事な事だと?」


「その様な物、あるはずがない!」


「死ぬかもしれないんだぞ」


「死が怖くて侍がやれるか!」


「なんだ。天霧瞬。貴様死が怖いのか! 臆病者め!」


「あぁ、俺は怖い」


「……」


私は寂しそうな瞬さんの目に、思わず息を呑んでしまった。


「俺は神刀を手にした日から……『島風』の担い手となった日から、死を恐れた事はない。ただの一度もだ。そして俺の命一つで国や巫女様を救えるのならば、後悔などしないだろう」


「……瞬」


「だが、俺は命を使う機会すらないまま多くの守らねばならない命を失った。先代様もその一人だ」


瞬さんの言葉に、侍さんたちの顔が沈んでゆく。


悲しみに彩られた世界に。


「天霧蒼龍は強い。俺は一度奴に敗れた。そして波戸辺雷蔵も奴を逃がしている。生半可な覚悟では……また失うだろう。巫女様か、ミラか……セシル様を」


「瞬さん……」


「だからな。名を定めたい気持ちを今は抑え、フソウに欠片の脅威も通さぬ様、話をして貰いたい」


瞬さんは言葉を最後まで紡ぐと、以上だと言ってまた椅子に座った。


その……どこか寂しそうな姿を見ながら、私は声を出そうとしたが、それよりも前に言葉を投げた人が居た。


そう。瞬さんのお友達である神藤時道さんだ。


「うむ。瞬の言う事は正しい。我らも今回ばかりは遊んでいられないからな」


「……まぁ、そうだな」


「確かに」


「一理ある」


「それに、だ! 諸君。何事も考え方次第だと俺は思う」


「どういう意味だ。時道」


「ふふふ。つまりはこういう事だ。完全なる作戦を構築した後の方が、より良い名が決められるのではないか!? という事だ」


「「「おぉぉお!!」」」


神藤時道さんの提案に、侍さんたちは皆さん喜んで……それからしばらくは話が出来なかった。




しかし、ようやく落ち着いた頃、私は改めて作戦について話す事にした。


「まず霊刀山から来る神刀についてですが、おそらく皆さんが想像している以上の力を持っていると考えた方が良いです」


「それほどか? 所詮は刀の持つ記憶だろう?」


「いえ」


私は確かな確信と共に言葉を続ける。


「おそらくは神刀の担い手であった方自身が攻めてくると考えた方が良いかと思います」


「っ!?」


「どういう意味か。聖女殿。まさか過去の人間が復活したとでも言うつもりか?」


「完全な復活ではないと思いますが、戦いという面に関してはご本人と変わらないと考えております」


「何故だ。セシル様でも人を復活させることは出来ないと言っていた」


「それは……少々専門的な話になるので、詳細は省きますが、魔術にはあるんです。限定的に人を蘇らせる物が」


「……っ!」


「本来蘇生の魔術は、魔術式から大きく離れる事が難しいのですが、彼はその構築式を霊刀山に刻む事で、霊刀山に渦巻く特殊で強大な魔力を使い、行動範囲を広げている物と思われます」


「彼とは誰だ。ミラ」


「天霧宗謙」


ハッキリと皆さんに告げたその名前に、皆さんの視線が強く怒りに満ちた物へ変わった。


「天霧宗謙。かの裏切り者か」


「まさかまたヤマトに戻ってくるとはな」


「しかし、天霧宗謙は天霧瞬が討ち取ったのだろう?」


「いや、俺は奴の片腕を落としただけだ」


「手負いとなり、手段を選ばなくなったか」


「愚かなモノだ」


「それで? 聖女殿。我らの狙いは天霧宗謙という事で良いのか?」


「いえ」


「む?」


「彼は既に国外へ脱出している可能性が高いです。あまり気にする必要は無いでしょう」


私はテーブルの上でペンを動かしながら皆さんにそう告げて、頷いた。


「ですから、私たちの最大目標は天霧蒼龍さんという事になります」


その後、話し合いは夜遅くまで続くのだった。

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