第12話『和葉に手を出すな!!』(宗介視点)
(宗介視点)
嵐の様に全てを薙ぎ払いながら進んでゆく三人を見ながら、俺は呆れた様な声を漏らした。
「何とまぁ。随分と荒々しい連中だ」
「そうだねぇ」
「ま、あぁ言うのを見てるとバカが移るからな。こっちはアレを囮にしながら静かに行くとしようか」
俺は笑みを浮かべたまま静かに頷く和葉と、やや離れた場所から俺たちを見据える忍衆に言葉をかけて静かに霊刀山へと入る。
やはりというべきか。
時道たちが派手に暴れているおかげで、こちらに注意を向けてくる者達は居ないらしく、俺たちは殆ど戦闘らしい戦闘をしないまま霊刀山の奥まで向かう事が出来ているのだった。
そして、進んでゆく中で和葉と俺は奇妙な物を見つける。
「宗介君」
「ん? どうした?」
「これ、見て」
和葉が指さしたのは地面に付いた一つの跡。
何か重い物が這っていったかの様に薙ぎ倒された草花だった。
そしてその跡から考えるに、俺達が進んでゆく方向に、その何かは居るらしい。
「……和葉」
「うん。忍衆の皆さん。ひとまず正面からは私と宗介君で行きます。皆さんは迂回を」
「……承知した」
「いざという時の情報伝達はお願いします」
和葉の言葉に頷き、背後に居た忍衆の気配が消えた。
隠れながら進んでゆくという意思表示だろう。
俺は仕事の速い連中だと笑いながら、和葉に視線を向ける。
和葉は静かに笑うのだった。
「……」
「……」
音はなるべく立てない。
敵が既にこちらを察知しているのか、いないのか。
そもそも敵はどの様な姿なのか。
頭を働かせながら周囲の警戒をしつつ進んでいた俺は、その気配に気づき、急いで『秋月』を抜いた。
「和葉!!」
「『綾波』!」
そして、和葉もまた自らの神刀を抜き、木をなぎ倒しながら迫ってきた何かの攻撃をかわす。
それは確かに言われていた通り、奇妙な生き物だった。
全身が水で出来ているかの様に液体がそのまま動いている様な姿であり、手も足も口も耳も目も何も無い。
ただの水の塊だ。
俺は『秋月』の力で空を飛びながら、木を足場にして高速で動く和葉を見据える。
「和葉!!」
「えぇ。まずは仕掛けるわ!!」
和葉は『綾波』を構えたまま水の生命体に一瞬で近付き、その表面を切り裂いた。
が、その傷はすぐに水で塞がってしまう。
まるで池の水が常に一定で保たれている様に。
一部を削り取ろうと、すぐにその水で埋まってしまう様だった。
無傷。
ならば無敵の生命体かと思ったが、水の塊は、まるで和葉に恐怖を感じたとでも言うように、水の塊の様な体から細長い手の様な物を作り、それで和葉を追い詰める。
「っ!?」
「和葉!! お前!! 和葉に手を出すな!!」
俺は勢いよく空から飛び降りて水の手を切り裂きながら、和葉を守り、今度は俺に迫ってくる手を空に飛ぶことでかわしてゆく。
しかし水の塊が放つ手数が多く、俺は少しずつ追い詰められてしまうのだった。
「宗介君!!」
「助かった! 和葉!」
だが、ギリギリの所で地を掛けながら飛び込んできた和葉によって俺は救われ、和葉の腕を掴みながら俺は空へと避難する。
「あんまり効いている感じがしないな。どう思う? 和葉」
「同じ意見。このままじゃあどれだけ戦ってても意味が無いと思う」
「だよなぁ」
俺は和葉の意見に頷きながら、地面で蠢いている水の塊を見据えた。
水の塊は俺たちに攻撃出来ないことを察したのか、再び緩やかな移動を始めた。
その動きは緩慢で、何を目的としているのかは分からないが、頂上を目指して進んでいる様にも見える。
「俺らじゃあどうにも威力が足りないか」
「瞬君か時道君にお願いする?」
「正直嫌だが、それしか方法は無いかもなぁ」
「じゃあ、このまま監視しつつ、頂上に誘導する感じで良いかな」
「そうだな」
「分かったよ。じゃ、私は下から行くね」
和葉はそう言うと、俺の手を離して地面に降りていった。
先ほどまでの争いから時間が経っているためか、水の塊は和葉が地面に降りても何ら興味を示さず、緩やかに坂を登ってゆく。
その周囲にある物をなぎ倒しながら。
それが、その一途さに奇妙というか、気持ち悪さを覚えるが俺ではどうする事も出来ない。
その為、俺は水の塊の事は和葉に任せて先に頂上へ向かうのだった。
辿り着いた頂上では、まだ瞬達は着いておらず、巫女姫様と例のお嬢さん。それに雷蔵と、見知らぬ男がいた。
男は神刀が生み出す影と同じ様な姿をしていたが、その手に神刀はない。
何とも奇妙な存在であった。
「巫女姫様!」
「おぉ、宗介か! 待っていたぞ!」
「来るのが遅れて申し訳ございません。それで、こちらの男は?」
「天霧蒼龍。厄介ごとをヤマトに持ち込んだ者じゃ」
「ほー」
俺は声を上げながら天霧蒼龍とやらを見たが、男は何ら気にする様子はなく、薄ら笑いを浮かべたまま俺を見る。
『空を飛ぶことが出来るのか』
「まぁな」
『それは中々面白いが、他に出来る事は無いのか?』
「無くは無いが、それを教えてやる義理は無いな」
警戒しながら男との会話を重ねる。
先ほどから立ち姿にも、話す姿にも油断やゆるみが無いのだ。
恐ろしい程に、研ぎ澄まされた殺気を俺に向けていた。
「……雷蔵」
「残念だが俺は忙しい。他をあたれ」
「チッ、しょうがねぇな」
どの道、このまま睨み合っていてもしょうがない。
俺は『秋月』を抜いて空に飛んだ。
しかし、次の瞬間、全てを砕く様な暴風が男から吹き荒れる。
「なん、だ!?」
何が起きたのかも分からず、俺は『秋月』で空を切り裂いて、暴風を吹き飛ばすと、何とか体勢を立て直しながら、男を見据えた。
おそらく……だが、アレは天斬りだ。
威力は瞬のソレよりも遥かに大きいが、おそらく男が木の枝で放った為、俺を傷つける様な事にはならなかった。
「……冗談だろ?」
神刀ではなく、その辺に落ちている木の枝で危うく負ける所だった。
そして、瞬はこれをまともに受けて、負けた。
『おーい! どうしたー! 降りてこないのかー!? もう終わりか―!?』
下から叫んでいる男の姿を見ながら、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
その圧倒的な強さに。
おそらく俺では勝てない相手に。
どうしたものかと悩みながら、俺は考え続けていたのだが、頂上に和葉が来た事で状況が変わる。
「っ!? 巫女姫様!? それに、瞬君が探していた女の子!」
『お。なんだ良い女が居るじゃねぇか。お前も俺様の物にしてやるか』
「なんですか!? あなたは! 私は」
「和葉に障るなぁぁああ!!!」
俺は先ほどまでゴチャゴチャ考えていた事など全て投げ捨てて、空から地上に落ちながら『秋月』で男を切り裂こうとした。
しかし、その攻撃はかわされてしまい、男はニヤリと笑いながら俺達から距離を取る。
『お。なんだ。少しは面白い動きになったじゃねぇか。そいつはお前の女か?』
「俺の全てだ!」
『ほー。そいつは面白い。余計に俺様のモンにしたくなったぜ』
「……させるかよっ!」
俺は『秋月』を正面に構えながら、男を睨みつけた。
勝てるかどうかなんて関係ない。
ただ、和葉に近づけてはいけない。
そんな意思だけで強く地面を踏みしめる。
だが、俺は頭に血が上って肝心な事を忘れていたのだ。
「宗介君! それどころじゃないよ!」
「え?」
和葉の叫びと共に、崖下の木々が吹き飛び、水の塊が下から飛び出してきて、勢いよく頂上に着地したのだ。
和葉や巫女姫様、旅の少女を狙う男に、謎の目的で徘徊する水の塊。
最悪の面々が今、頂上に集まってしまった。
俺は、焦りの中でどう動くべきか周囲を見渡しながら、また考える事になるのだった。
考えるのは苦手だってのに!!




