第1話『こうなった以上は仕方ない。押し通るか』
本小説は
〖異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-死者の都-〗
の続編となります。
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歩くだけで汗が流れる様な暑い季節から、やや涼しい季節になり、私たちは快適な空の下でゆっくりのんびりな旅をしていた。
そして現在人類が生存できる東端であるセオストから南下し、ヤマト国へとたどり着いた私達だったが……。
「通行許可書を」
「えと……瞬さん?」
「そんな物は持っていない」
「おいおい。本気か? お前はどうやってヤマトを出たんだよ」
「夜の闇にまぎれて、だな」
「どうして自国を出るのに、そんな逃げる様な方法を……」
私とオーロさんはヤマト国へ入る為の門の前で頭を抱えながらため息を吐いた。
入国管理の人は怪しい者を見る様な目で私達を見ているし、瞬さんは胸を張りながら何もない事を誇っている。
最悪だ。
状況は限りなく最悪である。
「こうなった以上は仕方ない。押し通るか」
しかも瞬さんが過激な事を口走ったせいで、門番さんが腰に差した刀に手をかけ、こちらを睨みつけた。
「ま、待って下さい! こちらに交戦の意思は無いんです!」
「ならば正式な許可証を出せ」
「それは、今は持っていなくてですね。その、どちらで取得すれば良い物なのでしょうか」
「役場で申請すれば良い」
「その役場というのは……」
「ヤマトの集落ならどこにでもある」
「……ヤマトの集落に向かう為には?」
「通行許可書が必要だ」
私は頭を抱えて、叫び出したい気持ちを何とか飲み込んだ。
ヤマトが外の人間を拒絶しているという話は聞いたことがあるが、真実全てを拒絶していたとは!!
だって、これ、外の人間が中に入る事は不可能じゃないですかぁ!
このままじゃあ瞬さんの行動が正解になってしまう!
「ふむ。なるほどな」
「お、オーロさん! 何か名案が!?」
「瞬。右は任せた」
「良いだろう」
「いやいやいやいや。承知しないで下さい。武器を抜かないで下さい。穏便に! 穏便にいきましょう!」
私は腰から剣を抜いたオーロさんと、刀を抜いた瞬さんを止めようとするが、門番さんも刀を抜いていて、臨戦態勢だ。
これは酷い!
これまでいくつかの国を旅してきたけど、こんな早さで争いになる国なんて無かったよ!
「そ、そうだ! ヤマトの方! 見て下さい! 瞬さんが持っている刀を! これこそヤマトの秘宝ですよね!? つまりこれを持っているという事は!」
「我らヤマトから盗んだ可能性があるな」
「あー。そういう結論にたどり着いてしまうのですね。なんてこと」
「という訳だ。天霧瞬。ここを通りたくば、我らを倒してから進め!」
「え?」
「良いだろう」
「え? え? 今、名前呼びましたよね?」
「さて。何のことやら」
「気のせいだろう。ミラ」
「……いや、もうそれで良いのなら良いんですけど」
もはや止める事は出来ないかと、私は門番さん達と瞬さん、オーロさんの間から横に移動した。
特に門番さんも私をどうこうする気は無いらしく、移動を待ってくれる。
そして、私がちょっと離れた場所に移動した瞬間、瞬さんとオーロさんは門番さんとぶつかった。
その激しい衝突は、二人が刀をぶつけ合った瞬間に激しい暴風を生み出し、私は簡単に飛ばされてしまう。
「やー!」
「っと、大丈夫か? お嬢ちゃん」
「っ! た、助かりました。ありがとうございます」
「いやいや。気にしないでくれ。むしろウチの連中が悪いな」
「ウチの連中、ですか?」
「そ。戦うのが大好きなヤマトのバカ共さ」
暴風に飛ばされて、危うく空の旅を始めそうになっていた私は、空中でどなたかに受け止められて地面に再び帰還した。
そして、地上に戻ってきた私は、受け止めて下さった男の人を見上げて、なるほどと頷く。
瞬さんと同じ黒髪に黒い瞳。
腰に差した刀はヤマトの侍である瞬さんと同じ姿であった。
「うん。怪我はないみたいだな。安心したよ。もし怪我してたら聖女様をお呼びしないといけないからな」
「聖女様、ですか?」
「そう。君と同じ聖女様だ。ミラ・ジェリン・メイラー?」
「わ、私の名前」
「君たちの事はよく知っているよ。向こうで瞬のアホと一緒になってバカやってるのがオーロだろ? 君達と旅をする前は傭兵だった男だな。んで、ヤマトにも一度襲撃を仕掛けてる」
「あ、あわ、あわわ、えと! その! オーロさんはヤマトに敵対する意思は無くて! その!」
私は男の人がスッと目を細めながらオーロさんを見据えた事で、必死に言い訳を考えながら口を開く。
しかし、男の人はそんな私の言葉を遮る様に笑った。
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。ミラちゃん。巫女姫様はあの男を今すぐ殺せとは言わなかったからね」
「そ、そうですか……」
「まぁ、その代わりと言ってはなんだけど、ちょっと依頼したい事はあるみたいだけどね」
「依頼……」
私は男の人の言葉を繰り返しながら、その言葉の意味を考える。
オーロさんがヤマトで何をしたのか、具体的な話は聞いていないけれど、オーロさんが来た事でヤマトが大変な事になったとは聞いた。
その罪滅ぼしという事なら、壊れた建物を直すとか、けが人を治すとかだろうか。
うん。
それなら、私達三人で頑張れば何とかなりそうだ。
私は両手を握りしめながら、うんと頷くのだった。
「うんうん。納得して貰えたみたいで良かったよ。じゃあそろそろ向こうも止めようか」
男の人は笑顔を浮かべたまま私から離れて瞬さん達に近づくと、まるで日常の話でもするかの様に声を掛ける。
「もう話は終わったよ。ご苦労さん」
「っ! しょ、承知いたしました」
「はいっ!」
男の人が話しかけた瞬間、門番さんが瞬さん達から離れ、荒い呼吸をしながら門に寄りかかった。
酷く疲労している様子で、息を切らせている。
「宗介か」
「おう。久しぶりだな。瞬」
「そうだな」
瞬さんは宗介さんと呼ばれた方と話をしながら刀を鞘に納め、オーロさんにも戦闘が終わった事を告げた。
しかし、オーロさんは戦闘が終わったと聞いても、剣を握ったまま私の隣に立っている宗介さんを静かに見据える。
「どうやらヤマトは俺が思っていた以上に面倒な国みたいだな」
「オーロさん?」
「ふぅん?」
オーロさんの言葉にこの場に居た全員がジッとオーロさんを見つめたが、オーロさんはこちらに視線を向けて、私を呼び寄せた。
「ミラ。こっちに来い」
「え? あ、はい」
「おっと。それは困るな」
「っ!」
「宗介! どういうつもりだ!」
オーロさん達の元へ行こうとした私だったが、宗介さんにグッと肩を掴まれ、小さな刀を向けられた事で動けなくなってしまう。
「どうもこうも。見たままだよ。瞬。それともちゃんと口にした方が良いか? 動くな! ってよ」
「っ!」
「ど、どうして」
「悪いなぁ。ミラちゃん。巫女姫様はどうしても君達と話がしたいんだ。だから大人しくして貰うよ」
「ミラ!!」
刀を向けられて、動けなくなってしまった私にオーロさんが叫び、瞬さんが……。
って、あれ!? 瞬さんの姿が消えてしまった。
「っ!? ……この、バカ! 秋月ィ!」
「島風……!」
「え?」
私の体がふわりと浮き上がった次の瞬間、目の前に瞬さんが現れて、刀を抜いていた。
しかし、その刀は私が何度か見たソレとは大きく違い、空を切り裂く様な事はなく、宗介さんが持っていた刀を弾き飛ばして、宗介さんの首にピタリと当てている。
まだ切れていない。
切れていないが、ほんの少しでも宗介さんが動けば刺さってしまう様な位置だった。
「瞬……!」
「宗介。話してもらおうか。お前の知っている事情を全て」
「あぁ……ったく、どうしてこうなるのかね」
私は宗介さんのため息を聞きながら、解放され、瞬さんやオーロさんと共にヤマトの考えを聞く事にするのだった。