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第8話 魔堕ち人

 

 神殿から急いで邸宅に向かう途中、禍々しいマナを感じた。

 嫌な感じだ……あのフードの男と似たような。魂が拒絶する感じ。


「着いた」


 早くコーデリア達を避難させないと。


 〔バリンッ!!!〕


「なんだ……!?」


 あそこはギドーの自室?一体……。


「エドォォォォォオオ!!!!」


「ギドー兄さん!?」


 降り立ったギドーは俺に向かって勢いよく突進してきた。


「ぐっ……!!」


 なんとか受け止めたが、ギドーの様子がおかしい。


「貴様を殺して……父様達に認めてもらう……」


「何言って……」


 ブツブツとうわ言のように何かを言っている。

 ギドーに対する違和感。すぐに分かった。


「なんで……なんで兄さんが炎のスキルを……」


 ギドーの右腕にある紋様が目に入る。

 蛇柄の紋様……まさか……魔の刻印!?


「魔族に魂を売ったのか!!」


「うるせぇぇえ!!!」


 炎が勢いよく俺に目掛けて飛んでくる。


「くっ……」


「どこ見てんだぁ?」


 炎は躱したが、それに乗じてギドーが肉薄する。


「があっ……」


 迫る拳を躱しきれず、モロに食らってしまった。

 3年前、ギドーが神託の儀で新たに得たスキルは【身体強化:迅】敏捷を向上させるスキルだ。

 くそっ、魔の刻印の力でおそらくスキルが数段強化されている。


「クソみたいな条件のせいで長男なのにオレは当主にすらなれない……。だったらオレの力を認めさせればいい……。それに、条件である炎のスキルも手に入った!!!!」


「はぁ……はぁ……そんな事の為にこの街を襲ったのか……?」


「そんなこと……?そんなことだとぉぉお!?」


 激昂したギドーは拳に炎を纏わし、俺に殴打を繰り返す。


「俺にとっては最も重要なことだ!!!当主の資格があるアルフィにやる気があったなら諦めもついた!!だがあの女は俺がどれだけ欲しても手に入らない物が手に入るというのに興味すら示さない!!!父様と母様は無能で何も出来ない貴様ばかり愛している!!この不条理がオレをこうさせたのだ!!!!」


 ルビウス家は炎系統のスキルを持ったものが当主となれる。

 アルフィのスキルは【神剣召喚】だが、召喚し契約した神剣が炎系統の剣だったため、ルビウスの次期当主となっている。


 それにしても被害妄想甚だしいな。

 ルーピンとコーデリアが俺ばかりを愛している?ふざけるな。あの2人は家族みんなを分け隔てなく愛していた。俺だけなんてことは絶対にない。


「もういい、ギドー兄さん。刻印を刻まれた人間は二度と普通の人間に戻ることは無い。兄さんは一生"人類の裏切り者"【魔堕ち人】として生きていくことになる」


「知ったことか。生き残ったやつが全てを決める」


 俺は腰から剣を抜き、ギドーに向けた。

 今までは兄弟の情として剣は抜かなかったが、魔に堕ちた人間に容赦はしない。


「無能の分際でぇええ!!!」


 肉薄するギドーの拳を剣で受け止める。

 護身用にルーピンに買ってもらったミスリル製の片手用直剣。ギドーの攻撃程度じゃ刃こぼれすらしない。


 剣と拳のぶつかり合いがその場に響く。


「はぁ……はぁ……クソがっ!!」


「どうした?息が上がってるよ、兄さん」


「だまれぇえ!!!」


 放出された炎を俺は容易に躱す。

 最初は虚を突かれて、躱すのに精一杯だったが、マナ感知を研ぎ澄ましていればこの位何とかなる。


「オラァァァ!!!」


「攻撃が単調すぎる」


「ぐあっ!?」


 拳を躱し、ギドーの胴体に切り傷を負わせる。


「くっ……身体強化:剛を使っているのに……!?」


「俺が毎日、誰を相手に訓練していると思っている」


 傷を負ったことで、隙が生じる。その隙を突き、俺は更に追撃する。


「ヒリスならこの程度用意に躱すだろうな」


「ぐあっ……!!」


 ダメージは与えた……。だが、致命傷にはなっていない。

 決定打が欲しいところだ。


「クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが!!!!!!!無能の癖にぃい!!!!」


「っ!?」


 ギドーのマナが肥大化する。

 おかしい。ギドーのマナの総量は一般人よりも少ないはず……。


「はぁ……はぁ……殺してやる……」


 ギドーの見た目がみるみる老けていっている。

 もうマナの残ってないギドーは俺を殺す為に、限界を超えてマナを絞り出している……。


「それ以上はやめろ!!」


 限界を迎えたはずのギドーのどこからマナが湧くのか。

 理由は1つ。己の命を燃やしているのだ。


 正直放っておいてもギドーは勝手に死ぬだろう。だが、放置している間に被害が拡大してしまう。


 なにより……魔堕ち人とは言え、肉親を失うのはくるものがある。


 だが……やらなければいけない。


「俺がお前を殺す。恨むなよ」


「ほざけ!!!!」


 再び剣と拳がぶつかり合う。だが、その威力と規模は比べ物にならない。


「くっ……」


 すごい気迫だ。押されてしまう。


「死ねぇ!!!」


 予想以上だ……。やっぱり使うしかないのか……。


 俺の体からマナが溢れる。

 グッと体に力を入れた。


 俺が雷元素を解放しようとした瞬間。


「エド!!何してるの!!」


 屋敷から出てきたコーデリアが叫ぶ。


「か、母様!?」


 避難したんじゃなかったのか!!

 まずい……。


「逃げてください!!」


「え……?」


「しまった……」


 コーデリアに気を取られた一瞬、その隙を突かれギドーの炎を纏った拳が俺の腹部に直撃した。


「がぁっ……!!」


「ギ、ギドー……なの?何をしているの……?それに、炎……?どうして……」


 コーデリアはその場で腰を抜かした。

 だが、ギドーはコーデリアには一切気を向けなかった。最早、眼中には俺しかいないらしい。


「く……そ……」


 体が思うように動かせない。


「グヒヒヒ、死ね、無能!!!!」


 炎の溢れるギドーの全力の拳が俺に迫る。


「クソっ……」


 死ぬ……。


 〔ヒュッ……〕


「なん……」


 〔ドォォオン!!!!〕


 強烈な突風と共に迫る拳は消え、ギドーが屋敷の壁まで吹き飛ばされた。


 一瞬の出来事だった。

 これは、風系統のスキル?


 そして、俺の前にはよく見なれた執事服の壮年の男性が立っていた。

 乱れた髪を整え、服に着いた誇りを払う。


「ロー……タス……」


「エド様、動けますか?」


 ロータスは纏う風を解除し、俺に肩を貸してくれた。


「エ、エド!!これは一体……」


「母様……時間がありません。簡潔に……。ロータスも聞いてくれ」


 俺は事の顛末をコーデリアとロータスに話した。


「そんな……ギドーが……。どうして……」


「母様、ここは安全ではありませんし何が起こるかわかりません。北の廃村へ避難を」


「ギドーはどうするの……?」


 子供達をみんな分け隔てなく愛していたコーデリアにはこんなこと言いたくなかった。


「"アレ"はもうギドー兄さんではありません……」


 コーデリアはポロポロと涙を流し始める。


「どうしてこんなことに……救う方法は……」


「ありません。強いて言うなら、すぐに楽にしてあげるのが唯一の救いです」


 ギュッと唇を噛み締め涙を拭いたコーデリアは俺を見た。


「博識なエドが言うならそうなのでしょう……。エド、不甲斐ない母親でごめんなさい」


 俺の額に優しくキスをする。


「頼むわね」


「はい」


 コーデリアに治癒スキルを掛けてもらい再び立ち上がる。


「エド様、加勢いたしますか?」


「いや、いい。ロータスが戦う方が確実だろうが……これは俺の戦いだ」


 俺の言葉に少し驚いたようにロータスは目を見開いた。

 そして、いじめられっ子だった昔の俺と姿を重ねているのか優しく微笑む。


「コーデリア様の安全はこのロータスが保証致します」


「ああ、頼んだ」


 ロータスはコーデリアを連れてこの場から去っていった。


 ガラガラと瓦礫が崩れる音が聞こえる。


「グルルルル……」


 ギドーが起き上がったようだ。


「もう、人間とは言えないな」


 白目を向き、牙を生やし、筋肉が隆起した上半身は正に異型。人よりもモンスターに近い存在となってしまった。


「グガァァア!!!」


 迫り来る拳を捌く。

 燃え盛る炎は俺の背後に回り込み攻撃してくる。


 炎の扱いが上手くなっている。

 マナを惜しみなく使っているから、多少強引な操作もできる訳だ。

 もう自分の命が尽きようと関係ないのだろう。


「マナ感知のお陰で死角からの攻撃は躱せるが……」


 一瞬の隙がほしい。

 このままじゃジリ貧だ。


「エェェェドォォオオオオ!!!!オマエバカリオマエバカリオマエバカリィィイ!!!」


「僅かだが、まだギドーとしての自我があるのか……」


 なら、仕方ない。


 使うか。


 俺はその場に立ち止まり、剣に手をかざす。


【雷元素:エンチャント】


 稲妻がバチバチと音を立てて俺の剣に宿る。


「ハ……?」


 "無能と思っていた弟がいつの間にか強力なスキルを得ていた"。

 その衝撃は思ったよりも大きかったのだろう。

 ギドーに大きな隙ができた。


「幼い頃は嫌という程虐められた」


 俺の言葉にギドーはやっと現実に気付く。

 しかし、俺の剣は既にギドーに迫っていた。


「別に恨んじゃいないさ。ただ、お前のその力を看過する訳にはいかない」


「神として」


 雷を纏った横薙ぎの一閃はギドーの胴体を容易に切り裂き、切り口から稲妻が体全体を駆け巡る。


「ギァァァアアア!!!!!」


「魔族は死ねば骨も残らず灰となり消える。魔に身を堕としたお前も例外じゃない」


「アアァァ……」


「愚かな道を選んだ自分を恨め」


 ギドーの身体は雷に焼かれ灰となり消えていく。


「じゃあな……兄さん……」


 残された灰は風に乗り宙を舞っていった。


「魔族……なぜ今になって……」


 灰が舞う空を見上げ考える。


 魔族は魔神を崇拝する種族で人類の敵だ。

 日本のラノベには良い魔族とかそういうのあったけど、この世界はそんな事は一切ない。

 魔族とは悪意の塊。この世界を支配することしか考えていない。


「魔族は800年前の魔神討滅戦争で滅んだはず……生き残りがいたのか……?」


 俺が人間として転生した理由がわかった気がする。

 800年前は3英雄がいた、だが今この世界には3英雄に匹敵する人間がいないのだ。

 彼らの領域に最も近いのはアルフィを含む世界で5人の滅級冒険者、ルーピンやリック辺りだろう。


 どっちにしろ、神として魔族の暴挙を許す訳には行かない。


「はぁ……元神だったな」


 魔族が出てきたってことは魔神と何かしら繋がりがあるはず。

 最悪なのは魔神が復活すること。


 なるほど、ゼリオスがなぜ転生させたのか理由が見えてきた。

 そして、俺を殺した神はこれらの件と深い繋がりがあるらしい。


「ゼリオスのやつ、面倒臭いこと押し付けやがって」


 まだモンスターは街には侵攻してないようだ、ルーピン達のお陰だろう。あっちは心配ない。


「それよりもあの男を探さないと」


 俺の勘が正しければ、あいつが魔族かもしれない。

 だとしたら大変な事だ。魔族は下っ端でも恐ろしく強い。今戦ったギドーなんて足元にも及ばない。


「この剣はもうダメか……」


 刃こぼれしたミスリルの剣にはヒビが入っていた。

 エンチャントの配分ミスったかな。もっと練習しとくべきだった。


 使い物にならなくなった剣を鞘に戻し、その場を立ち去ろうとした瞬間だった。


「……っ!?」


 ズンッと空気が重くなる感覚に襲われた。

 そして、身体中から冷や汗が溢れ出る。


 この禍々しいマナ……。

 ギドーと同じもの。

 つまり、あいつが魔族で間違いない。


「最悪だ……」


 この圧倒的な威圧感。口を覆いたくなるほどの不快なマナ。

 あの魔族は……強い。


「ん……?このマナは……ヒリス?」


 魔族のマナに向かって一直線に走っていくマナを感じる。これはヒリスのマナだ。

 まさかあの化け物と戦う気か?


  いくらなんでも、覚醒したばかりのヒリスじゃ無理だ!勝てない!

 せめてルーピンも……あれ……?


 なぜだ。

 ルーピンのマナが弱まっている……?


 最悪の展開に冷や汗が止まらない。

 俺は……俺はどうしたらいいんだ……。


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