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第6話 神託の儀式

 

 〔カンッ!!カンッ!!〕


 ルビウス邸の修練場では木剣がぶつかり合う音が鳴り響く。


「ほらっ!右脇ががら空きよ!」


 赤髪の少女、ヒリスは右脇目掛けて木剣を振る。


「釣りだよ」


「うわっ」


 俺は迫り来る木剣を振り払い、ガラ空きになったヒリスの右肩に木剣を振り下ろす。


 取った。


 っと思ったが、いつの間にかヒリスの周囲には雷の薄い網が展開されていた。


「おい、ずるいだろそれは」


「スキルなしとは言ってないわ」


 〔バチッ……〕


「いって!!」


 俺の握る木剣に雷が移り、瞬く間に炭となる。


「これで何本目だよ……」


「いいじゃない木剣くらい。さぁ、どうする?」


「はぁ……」


 俺は拳を握り、腰を落とし構える。


「体術?雷に対しては不利じゃない?次はエドが炭になるわよ?」


「俺にはこれしかないんでな」


 言葉を交わし、瞬時にヒリスへ肉薄する。

 振るう拳は雷を躱し、ヒリスの胴体へと接近する。


「あっぶな」


 しかし、すんでのところで木剣で受け止められてしまう。

 拳と木剣の応酬は次第に激しさを増す。


「痛っ」


「スキあり!!」


 〔ガンッ!!〕


 雷の痛みにたじろいだ隙を突かれ、見事脳天に一本とられてしまった。


「痛た……。なにも思いっきり殴るこたねぇだろ」


「こういう時こそ痛みを知るべきよ!」


 理不尽だ。


 エドラス神殿での出来事から3年の月日が経った。

 俺は今年で15歳。この世界では成人になる歳だ。

 模倣の権能を解放してからというもののほぼ毎日トレーニングに励んでいる。剣術に体術、そして隠れて雷元素のレベル上げ。

 その修練の結果がこれだ。


 名前:エドラス


 体力:69 F

 筋力:102 E

 敏捷:156 D

 器用:176 D+

 マナ:362 S


 スキル:雷元素Lv.3

 パッシブスキル:マナ感知A+ 精神異常耐性A 剣術 B 体術 B


 トレーニングの甲斐あってか、ステータスはだいぶマシになった。

 これでもまだ平均より下回ってるけど……。


「エドも随分強くなったわよね」


「……」


「な、なによ」


「あからさまに手を抜いてる奴に言われても嬉しくねぇよ」


 〔ギクッ〕


 ヒリスはともかく、ルビウス領に居る騎士や近衛兵達と比べたら天と地ほどの差がある。

 現に、ヒリスが全力だった場合俺は3秒も持たずにやられるだろう。


「で、でもほら!3年前まで全く成長しなかったのにさ!身長も!ほら!私より高い!」


 確かに、目に見えて成長はしているか。


「エドは成長期が遅かっただけだったのよ!これからもっと強くなるでしょ?だって、ルビウスの血を引いてるのだから!」


「……そうだな」


 正直俺は自分の身を自分で守れる程度には強くなっておきたいとは思っていた。

 それはもうすぐ達成できるだろう。

 これ以上強くなる必要も無い。

 だが、まだゼリオスの頼み事がなんなのか分かっていない。わざわざ転生してまでの頼み事だ、何があるか分からない。


「まぁ、俺にはスキルがないからヒリスみたいにはなれないけど」


「もう、またそうやって悲観して」


 別に悲観してる訳じゃないけど。

 この3年あーだこーだしているうちに雷元素をお披露目するタイミングを逃してしまった……。

 別に隠すつもりはなかったんだが、どうもタイミングが合わなかった。

 俺もスキルが発現したよ!みたいな感じでいきたいがなかなかどうして……。


「明後日は神託の儀式ね。どんなスキルを授かるかしら」


「神託の儀式か。まぁ、ヒリスなら雷元素の覚醒とかじゃないか?」


「どうでしょうね」


 神託の儀式。

 齢15になった人間が受ける成人の儀式だ。

 この儀式では同系統の2つ目のスキルを授かるか、所持スキルの覚醒を促してもらえるのだ。

 ただ、覚醒を促してもらうにはステータスの基準をクリアしていないといけない。


「それじゃ、私は帰るわ。おば様達によろしく」


「おう。またな」


 ヒリスは荷物を纏めそそくさと帰って行った。最近なにかと思い悩んでいるようだが、わざわざ俺が首を突っ込んで聞くこともないか。


 俺は修練場を後にし、家へと入る。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい、エド。また大きなたんこぶね」


 俺を出迎えてくれたのはコーデリアだ。俺の頭にある大きなたんこぶを見て笑っている。


「ヒリスから1本取るのは100年かかっても無理そうです」


「ふふっ、諦めないことよ」


【癒しの波動】


 コーデリアが低級の治癒スキルでたんこぶを治してくれた。


 今この家には執事やメイドを除いて、ルーピンとコーデリアと俺だけしかいない。

 長男のギドーは3年前の神託の儀式を受けたあと、すぐに王都の学校で寮生活。

 ルーカスも同じく2年前から寮生活だ。

 2人がいなくなってからはなんとも快適な生活を送らせて貰っている。


「そうだ、神託の儀式なんだけど、形だけでも出席するようにってゼリオス様から通達があったわ」


「ゼリオス様と話したのですか?」


「ええ、お忙しい方だけど色々話を聞いてもらったわ」


 何を話したのかは聞かないでおこう……。


「スキルもない俺に神託の儀式って……。傍からしたら笑いものですよ」


「でも、ゼリオス様からの通達だから、守らないといけないの」


「わかってます。笑われるのには慣れてます」


 俺の言葉にコーデリアは少し困った顔をするが、仕方の無いことだ。


「神託の儀式は明後日よ。私達も一緒に行くから」


「はい、準備しておきますね」


 ルーピンとコーデリアも着いてくるのか。

 それもそうか。ルーピンはこの領地の領主だし。


 ◇


 数日後。神託の儀式当日。


 俺はほぼ新品の礼服に袖を通し、準備を終わらせる。

 神に祈ることがない俺だが、毎年新品の礼服が用意されている。これはマメなコーデリアがわざわざ用意してくれているのだ。

 使うことはほぼなかったけど。


 準備を終わらした俺は足早に家を出る。


「エド!」


 邸宅の門の前には見慣れた顔があった。


「ヒリス。先に行ってなかったのか?」


「護衛対象を置いていく訳ないでしょ」


「そうか」


 護衛対象ね。ヒリスとのこの関係性も色々考えなくちゃな。

 俺はともかく、ヒリスは将来大物になる人間だ。領主の末息子の護衛に留まらしとくのは世界の損失だろう。


「2人とも!行くぞ!」


「「はい」」


 ルーピンに声をかけられ、俺達は神託の儀式がある場所へと移動を始める。


 しかし、歩みを進めるその先に、久しく見てなかった、そして、最も見たくない顔がそこにあった。

 ルーピンによく似た顔立ちの黒髪の青年。


「お父様。お久しぶりです」


「ギドー?なぜこんな所にいるんだ?」


 俺を虐めていた主犯。長男のギドーだった。


「学校から少しお休みを頂きまして。家族の顔も見たくなり、帰省しました」


「そうか。すまないが、今からエドとヒリスの神託の儀式があるんだ」


「あ、今日は神託の儀式でしたか。私のことは気になさらず」


「うむ。それで、後ろのお方は?」


 ギドーの後ろにはフードを深く被った青年が立っている。


「私の学校での友人です。顔に酷い傷があり、あまり人に見せたくないらしく……。お父様達が戻られたら紹介します」


「わかった。メイド達には丁重にもてなすように指示しておいてくれ」


「はい」


 ギドーはチラリと俺を見ると、少し驚いたように目を見開いた。


「お前は……エドか?」


「ああ」


「随分大きくなったな」


「成長期がきたんだろ」


 俺の単調かつ冷たい返しに、ギドーは額に青筋を立てている。


「なんだその態度は……」


 ギドーは3年前の神殿の一件が起こったすぐに家を出たから俺の成長を知らないのだ。


「再教育が必要か!?」


 馬鹿か……親の前で……。

 こいつはガキのままか?もう18だろ。


 相変わらず短気だな……。

 ギドーは身体強化:剛を発動し、拳を俺に目掛けて振るう。


 スキル発動までの時間、拳の速度、身体の使い方……これはあまりにも……。


「お粗末だ」


「ぶへっ」


 迫る拳を受け流し、足を引っ掛けてギドーその場に転倒させた。

 スキルを発動してるからダメージにはならないだろうが、昔の俺じゃないと分からせることはできただろう。


「はぁ……ギドー兄さん。この3年間なにをしていたのですか?まるで、成長してないじゃないですか」


 精神的にも。


「き、貴様……!!」


 再び立ち上がり、ギドーは俺に迫ってくる。


「そこまでよ」


 迫り来るギドーの前にヒリスが立ち塞がり、ギトーに剣を向けた。

 このくらいどうってことないのになぁ。

 ヒリスは過保護すぎる。


「ヒリス貴様!アルノシアであるお前がこの俺に剣を向ける意味を分かっているのか!?」


「なにを言っているのかよくわからないけど、私の護衛対象はあなたじゃなくてエドよ?」


 キョトンとした顔でヒリスはそう答えた。


「な、なん……」


「はっはっは!!ヒリスにとってはルビウスという家名より、エドのほうがよっぽど大切なようだ!」


 ルーピンは腹を抱えて大笑いしている。


「べ、別にそういう訳では……仕事ですし……」


「ははっ、まぁそういう事にしておくか。ギドー、もう子供じゃないんだ、エドに突っかかるのはやめなさい。エドもだ、一々兄を挑発するな」


「「はい」」


 ペッと唾を吐き捨てギドーは俺の横を通り過ぎる。

 ガキかよ……。


「では……」


 そう一言残し、ギドーの友人も後に続く。

 すれ違いざま、その男と目が合った。


「っ!?」


 とてつもない違和感を感じ、思わず俺は後退りしてしまう。そんな姿にヒリスは首を傾げている。

 ヒリスは違和感を感じなかったのか……?


 これはなんだ?

 俺の魂があいつの存在そのものも否定しているような嫌悪感と、背筋が凍るような悪寒。

 あいつは一体……。


「エド!遅れるぞ!」


「は、はい!」


 嫌な予感がする。

 でも、家にはロータスもいる。きっと大丈夫だ。


 俺は一抹の不安を抱きながら神託の儀式に向かった。


 ◇◇◇


【神託の儀式:パーティ会場】


 神託の儀式に来たはずなのに、なぜか俺達はパーティ会場の扉の前にいる。

 中では煌びやかな装飾に豪勢な食事。おそらく、ルビウス領の今年で15になる子供達がこの会場に居るのだろう。

 ざっと100人は超えている。


「お父様、神託の儀式は……」


「ん?知らなかったのか?神殿で儀式を執り行う前に祝いとして宴会が開かれるんだ」


「そ、そうですか……」


 下界の行事についてもう少し関心を持つべきだった。

 言わばこれは社交の場所ってことだな。

 子供達の他に保護者と明らかに保護者とは関係ない人達がいる。


「なるほど。優秀な人材を探しているのか」


 成人すれば2つの道が選べる。

 就職か進学だ。

 優秀な者であれば、大手の企業からスカウトを受けたり、名門から進学の誘いが来たりするらしい。


 ここら辺で1番の名門は王都にある『ルーカディアアカデミー』だ。

 ギドーやルーカスもそこに通っているが、スカウトではなく貴族推薦ってやつだがな。


「あの人達は……」


 一際体格の良いスキンヘッドの男と、スラッとしていて、長い青髪をひとつにくぐったダンディな男がいる。

 只者ではないオーラをビンビンに感じる。


「外でボーッとしてても意味ないし、私達も中に入ろう」


「はい」


 煌びやかな会場へと足を踏み入れた。



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