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第4話 模倣の権能

 

「お前らに敬う心なんて微塵もないからな」


 目の前に現れた最高神ゼリオスに対して言い放つ。

 俺がそう言うとゼリオスはため息を吐きながら俺を見る。


「……息災か?エドラス」


 息災かだって?わかって言ってるくせに。


「白々しいぞ、ゼリオス。あんたには聞きたいことが山ほどある」


 ゼリオスを睨みつけるが、どこ吹く風だ。


「人間の生活はどうじゃ?」


「最高だよ。スキルは無いし、運動能力も皆無、それに公爵家の三男、挙句の果てにはザドラの子孫……嫌味か?」


「ふむ。お主がスキルを授けた最初で最後の人間である"あの3人"の血筋なら申し分ないと思ったんじゃがの」


 なにが血筋だ。なんなら平民くらいがちょうど良かった。


「そんなことはどうでもいいんだよ。この転生の理由を教えろ」


「理由もなにも、死んで転生した。それだけじゃ」


「そういうのはもういい!!」


 俺の怒声が響き渡る。

 俺の12年溜まったイライラが爆発する。


「なんなんだよ!!ルビウス家に転生するし!転生しても記憶があるし!スキルは無いし!!運動能力は成長しないし!!一体何がしたいんだ!!」


 怒気に押されるように異界にヒビが入り始めた。


「……やはり、時間が無い。手を出しなさい」


 ゼリオスはヒビが入り始めた異界を見回したあと、俺に手を伸ばすが俺はその手を叩き払った。


「答えろよ!!お前の目的はなんだ!!ゼリオス!!」


 現状への不満や焦りが自分の心を蝕んでいる。

 (スキル)も運動能力もない。

 こんなのただ、そこに生きているだけ。

 生き地獄とは正にこの事だろう。

 こんなことならいっそ……。


「エド。お前にそんな顔をさせてしまう儂を許してくれとは言わん。じゃが、必要なことだと言うのはわかってくれ」


「だったら理由くらい……」


「ふむ。お前の疑問全てに答えることはできんが……」


 ゼリオスはそう言うと生やした白髭に手ぐしを入れながら話し始めた。


「なぜお前が記憶を持って転生したのか、それは儂がお前のマナに転生の陣を組み込んだからじゃ」


 これは予想通りだ。

 こんな芸当ができるのは最高神であるゼリオスか輪廻を司る"生命の神リーティア"だけだから。


「それは何となく予想はついていた。だが、俺が聞きたいのは……」


 神エドラスとしての俺の生死……。


「ふむ」


 ゼリオスは察したように口を開く。


「神エドラスは生きておる」


 やっぱり。


「予想はしておるじゃろうが、生きておると言ってもその身体は仮死状態にあり、魂のない抜け殻じゃ」


「抜け殻って……それ、生きてるって言うのか?」


「神の死は肉体の崩壊をもって死とする。お前の魂を戻せば息を吹き返すじゃろうて」


 まじか。


「魂を戻すには?」


「わかっておるじゃろ?」


 ゼリオスはニヤリと笑い、言い放つ。


「再び神になれ」


 人間が神になる方法はある。

 それが、神域に到達すること。

 神域とは心·技·体全てにおいて高次元となり、 神に限りなく近い領域のことを意味する。正に人間の到達点だ。


 実際、人間から神になったやつはいる。

 それが三英雄だ。

 かつて世界を救った三英雄は共に神域に到達、死後は神となった。1人を除いて……。


「……」


 ようやく理解が追いついてきた。

 本当は俺はまだ生きていて、魂だけ抜かれた状態だと。

 ゼリオスが助けたのか。

 転生の陣も仕込んでいたらしいし。

 まだ死んでない……ってことは。


「俺の力は!?奪われたのか!?」


「それについては見た方が早い」


「?」


 ゼリオスは徐に右手で俺の腕を掴み、左手の人差し指を俺の腕に乗せマナを流し込む。


「っ!?」


 ゼリオスがマナを流し込んだ瞬間、俺の腕に唐草模様の文様が浮かび上がり、赤黒いマナが迸った。


「これは……」


「"模倣の権能"じゃ」


「は!?」


 俺の権能!?


「ちょっとまて!今の俺は人間だぞ!権能を宿すなんて人間の身体が耐えられるわけないだろ!」


「何も今お前に宿した訳では無いぞ。"最初から"お前には模倣の権能が宿っておった。まぁ、そう仕向けたんじゃがな」


「は……?」


 ダメだ。やっぱり理解が追いつかん。


「でも……有り得ない。ただの人間が神の権能を保持できるはずがないだろ」


「その通りじゃな。過去に権能を保持したまま転生しようとした愚かな神がおったが、そやつは転生して僅か5年で息絶えた。

 理由は明白、人間の体が神の権能に耐えきれなかったからじゃ。人間には耐えれんから権能の劣化版であるスキルを与えているというのにのう」


「だったらなんで俺は生きてる。模倣の権能を保持したまま転生したんだろ?」


 ゼリオスは白く長い髭を触りながら振り返る。


「神が持つ権能は人間が持つスキルと同じで、持ち主の成長と共に権能も成長するのじゃ。じゃが、権能はスキルと違い成長スピードが段違いなのじゃ」


「だから、人間の身体が成熟する前に権能の力に耐えられなくなり、肉体が消滅する」


「左様」


「でも俺は12歳まで生きている……」


 "権能はスキルと同じで持ち主と共に成長する"

 そういう事か。

 俺のステータスや肉体が成長しずらかったのは……。


「うむ。お前の運動能力が同年代の者より成長しなかった理由は、人間の肉体に負担がかからぬ様、権能の成長を止める為に【成長阻害】の効果も転生の陣に組み込んでおったからじゃ」


「覚醒させるにはどうしたらいい」


「その為に、今儂がここにいるのじゃ」


「その為に?俺が今日ここに来るってわかってたのか?」


「はっはっ、天界には多種多様な神がいるのを知っておるじゃろ?この程度造作もない」


 そりゃそうだろ。スキルの根源である権能を操る神が集まる場所なんだから。

 ゼリオスのドヤ顔が妙に鼻につく。


「良いか、解放したからと言って初めから全力で扱える訳では無い」


「わかってる。今の権能は生まれた時と同じレベル0ってことだろ」


「うむ、それもあるがお前の肉体的な話でもある。12年の月日で器は成したが、それでもまだ不完全じゃ。模倣できる数も限られる。考えて使うように」


 匙加減を間違えれば肉体が壊れてしまうってことか。

 ゼリオスは腕に浮び上がる唐草模様をゆっくりなぞり、マナを送り込む。

 くすぐったい。


「お前に辛い思いをさせていること、本当に申し訳なく思っておる……」


 ゼリオスが少し落ち込んだような顔をしている。どうやら天界から俺の動向は見守っていたらしい。


「……なぁ、教えてくれよ。俺が転生した本当の理由、それと……」


 俺の脳裏に浮かぶ黒い人影。

 意識を失う寸前の記憶。


「俺を殺した神について」


 俺の問いに対してゼリオスは答えようとしない。

 だんまりを決め込んでる。


「なぁ!!」


「もう、本当に時間が無い。始めるぞ」


「っ!?異界が……」


 異界に生じたヒビは次第に大きくなり、裂け目となる。辺りはパリパリと裂け始め、見てわかるほど空間が不安定になっている。


「全ては話せないと言ったじゃろう」


 ゼリオスは更にマナを俺の右腕に流す。


『解』


 ゼリオスが放ったマナを受け、赤黒いマナはさらに勢いを増す。そして、唐草模様から出る黒い煙が俺を包み込み、視界が暗転する。


 そして、次第に視界が晴れていく。


「なにも変わらないが」


「元に戻ればわかる。解放の反動でしばらくは死ぬ思いをするじゃろうが……まぁ、頑張って耐えよ」


「は!?何言って……っ!?」


 異界の崩壊が始まった。裂け目は広がり、ゼリオスの背後に空間の歪みが生じる。


「よく聞くんじゃ、エド」


 ゼリオスは俺の頭に手を置き、優しく撫でてきた。


「やめろよ……気恥しい」


 俺が模倣の神としてこの世界に生まれ落ちてから約800年。5000年以上の年月を生きてきたゼリオスは人間で言う"親"のような存在だった。ゼリオスからしても子や孫のような感覚なのだろう。

 だから、ゼリオスは時々こうやって俺を甘やかす。


「この先、お前は数々の選択を迫られるじゃろう。全てを捨てるか、全てを背負うか……。だが、お前がどんな選択をしようと、儂らはお前の選択を尊重すると誓おう」


「意味わかんねぇよ……。まぁ、並々ならぬ事情があるってのはあんたの顔見てわかったよ」


「うむ。なぜ転生したのか、その理由はこの世界で生きていけば自ずとわかる。頼んだぞ」


 ゼリオスは空間の歪みへ吸い込まれるように姿を消した。

 崩壊する異界を眺めていると、俺の意識は深い暗闇に沈んでいった。


 ◇


「……ん…戻ってきたのか……」


 俺はエドラスの神殿の中で祈りの姿勢から目覚める。

 時間はまだ夕方、異界では時間が進まないから当たり前か。


『頼んだぞ』


 ゼリオスの言葉を思い出す。


「ったく、なにを頼まれてんのかもわかんねぇのに……」


 薄々感じてはいたが、おそらくゼリオスは俺になにか下界でして欲しいことがあるのだろう。


「まぁ、自ずとわかるって言ってたし気ままにやるか……ぐっ!?」


 立ち上がろうと体に力を込めたその瞬間、俺の身体中にとてつもない痛みが襲う。


「なんだ…これ……痛ぇ……なんてもんじゃ……」


 身体が、精神が、悲鳴を上げている。

 体の表面は焼けるように熱く、内面は引き裂かれるように激痛が走っている。


 これは、やばい……!!


「ぐっ……」


 俺の内側に眠っていたマナが解放された反動で一気に体外へ放出される。

 放出されたマナは赤黒く変色し、まるで稲妻のように神殿内を迸る。


「がああっ!?……くそっ、これが…反動……!!」


 暴れ狂うマナが俺の体を侵食していく。

 まずいな……。

 俺の体もそうだが、なにより街にはマナの流れに敏感な戦闘狂が3人いる。

 ヒリスとリック、そしてルーピンはここでの異常を察知しているはずだ。


【ルビウス邸】


「……っ!?」


 ルーピンはズンっと空気が重くなる感覚に襲われた。


「なんだこれは……」


「お父様、どうされたんですか?」


 ギドーとルーカスは首を傾げルーピンを見る。

 まだマナを感知する技術を完全に習得していない2人にはこの空気の重み感じることはできなかった。


「位置は……森の廃村か……ん?」


 1時間ほど前のエドラスとの会話を思い出す。


「まずい……。今廃村にはエドが……」


 ルーピンは剣を腰に挿し、軽装備を身に纏う。


「ギドー!ルーカス!お前達はここでお母さんを守るんだ!わかったな!」


「え?ど、どうして……?」

「お父様?」


 問答をしている暇は無いと慌てて家を飛び出す。

 ルビウス邸の門の前には見慣れた顔が2つ。しかし、その2人の顔も深刻そうな顔をしている。


「リック、ヒリス。ちょうど良かった、着いてきてくれ」


「ルーピン!俺達だけでいくのか!?森の廃村まではそこそこ距離がある、準備を整えてからでも!」


「ダメだ!!それじゃ間に合わない」


「間に合わない?」


「今……廃村にはエドがいる……」


「うそだろ……」


 話を聞いたリックとヒリスは顔を青くする。


「あの尋常ではないマナ、とんでもない化け物がいるかもしれない。急ぐぞ」


「おう!」

「はい!」


 3人は森の廃村に走っていった。


【森の廃村:エドラスの神殿】


「ぐうぅ……止まれ……!止まれ……!!」


 俺の言葉とは裏腹に赤黒いマナは勢いよく放出される。


 マナの暴走。

 これを治すにはマナの感知に優れた人間に直接マナの流れを整えてもらうやり方が一般的だ。

 ルーピンやリックなら出来るだろう。

 だが、今のこの状況を見られる訳にはいかない。

 この赤黒いマナ……。これは普通のマナではない。


 マナとは、スキルを行使する為に使用する生体エネルギーの事だ。

 通常ではあればマナの色は半透明なのだが、例外的に赤黒いマナを扱う者達がいる。

 それが、神だ。

 神が権能を行使する時にのみ、マナは赤黒く変色するのだ。


「く……そ……!!」


 つまり、赤黒いマナを放出させている俺は人類で初めて神の権能を持った人間って訳だ。

 それが公になればどうなるかなんて目に見えている。

 俺のそれなりに生きるという目的が全てパーになってしまう。


「……ん?」


 廃村から2kmほど先、街の方面から3つのマナが一直線にここへ向かってきている。

 ルーピンにリックとヒリスか。

 権能を解放したお陰でマナ感知も使えるようになったみたいだ。これはありがたい。周囲の様子がよく分かる。


「抑えないと……!!」


 グッと力むが効果はない。

 マナのコントロール……。俺の得意分野のはずなのに、人間の体だと勝手が違いすぎる。


「落ち着け……こういう時こそ冷静に」


 フッと力を抜き、マナの流れに身を任せる。

 抑え込むず、吸収するように、ゆっくり……ゆっくり……。


「うっ……」


 痛みや苦しみは増すばかりだが、マナの暴走は収まっていく。


 ツーっと鼻から血が垂れているのがわかる。

 器は成したが、まだギリギリっていうのがよく分かる。

 暴走させると命に関わるな。


「ふぅ……収まった……」


 猛々しい赤黒いマナの奔流は、俺の体に収まった。

 だが、まだ俺の体の中で暴れているのが分かる。


「意識が……」


 視界が霞む。

 外傷はもちろん無いだろうが、恐らく膨大なマナを吸収したことで多大な負荷が掛かり身体と精神が悲鳴をあげているんだ。

 この果てのない痛みと苦しみ……いっその事死んでしまった方が楽だとも考えてしまう。


「くそ……」


 俺は形容しがたい痛みと苦しみに耐えながら、ゆっくりと意識を失った。


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