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第17話 魔族信仰団体:アビス

 

 ルーカディアアカデミー特待生試験当日。


 俺はジークの動向が気になり、あちこち調べてみた結果、わかったことがある。


『ジークはエアフリト家を勘当された』ということ。

 なんでも『常人では到底考えられないような危険思想を持っていた』という話だ。

 それに対し当主が激怒、考えを改めない限りエアフリト家の敷居は跨がせないとの事だ。


「あの様子だとまだ勘当されてんだろうなぁ。てことは危険思想も変わってないってことか」


 危険思想ねぇ……。


「ジークの話?いいじゃないほっとけば」


 隣で素振りをしているヒリスはそう言った。


「そういう訳にもいかない。あいつも『英雄の末裔』だ」


「そっ。なら、今日の試験でギャフンと言わしてやるわ!!」


「はぁ……今日の試験か……」


 ジークを改心させたいが……。

 問題はこれだ。

 今日の特待生試験。

 まさかの闘技場で1vs1のトーナメントというでは無いか。しかも観客付き。


「面白そうね!」


「面白くねぇよ……」


 アカデミー側の説明によると順位は関係なく戦闘能力が合格基準を満たしていたら、順位は低くとも合格できるそう。

 つまり、トーナメントはあくまで見世物って訳だ。

 だが……。


「なんで1回戦の相手がジークなんだよ……」


 運がないというかなんというか……。

 ルビウス領を抜けてからは不運続きだ。


「お祓いでもいこうかな」


「何言ってんのよ。強いヤツと戦えるなんてワクワクするじゃない!」


「お前はどこの戦闘民族だよ」


 ワクワクか。

 確かに、今の俺がジークにどれだけ通用するのかってのは気になる。


「神剣の力どのくらい使えるようになったの?」


「そうだなぁ……ディルナーデにボコされるぐらい」


「変わってないじゃない」


 そりゃ成長はしているが、正直周りが化け物ばっかすぎて自分がどの程度なのかイマイチわからないんだよな。


「もうそろそろ闘技場に行かないとな。準備はできてるか?」


「バッチリよ!慢心はしないわ。全力で叩き潰す!」


「はは……程々にな」


 こりゃヒリスと戦う人はご愁傷様だ。


「よし、行こう」


 俺達は王立闘技場へと向かった。


 ◇


 王立闘技場。

 約800年の歴史を誇るルーカディア王国最大の闘技場。

 元々はゲラード・ルーカディアの修練場として建造された建物が改築を重ね、ゲラード・ルーカディアの死後、闘技場になったのだとか。


「すっごい人ねぇ……。受付の時の比じゃないわ」


「特待生試験はお祭りみたいなものらしいぞ」


 試験をお祭りとはよく考えたものだ。

 世界の猛者達が受験に来てくれるおかげでこういった催しもできるんだろう。


「受験者の方々はエントランスに集まってくださーい!!」


 喧騒にも負けじと声を張る一人の女性。あの人は確か、受付してくれた人だったな。苦労してそうだ。


「「よろしくお願いします」」


「はい!エドラス・ルビウス様!ヒリス・アルノシア様!ご武運を!!」


 受付嬢の笑顔に見送られ、俺達は控え室へと向かった。


 ◇


「ジークバルト様ですね?」


「ああ、ほら」


 ジークは乱暴に受験票を見せる。


「は、はい!ご武運を」


 控え室へと向かいながら、ウラギ伯爵に言われたことを思い出す。


『ジークバルト。君とエドラスの戦いの時は武舞台に埋め込まれた治癒スキルのスキルアイテムは発動しないように細工をしておいた。だが、あまり時間はかけないように、わかるな?』


『はい。特待生試験を見に来た人の中には猛者がたくさんいますから。邪魔される前に、1突きで終わらします』


『よろしい。健闘を祈る』


 顔を上げ、鋭い視線を控え室で集中しているエドラスへと向けた。

 後戻りはできない。

 自分の貫くべき信念のために。


 〔受験番号28番ジークバルト・エアフリト、受験番号40番エドラス・ルビウス。武舞台へ上がってください〕


「……やるか」


 ジークは立ち上がり、確かな殺意を持って武舞台へ向かうのだった。


 ◇


「エド頑張って!私は観客席で見てるから!」


「ああ、やれるだけやってみるよ」


 呼び出しのアナウンスが控え室に流れ、俺はヒリスに見送られ控え室を後にする。


「そういや、陛下がVIP席用意してくれてるんだっけな」


 何から何までありがたい限りだ。

 それよりも、問題はジークだ。

 控え室にいる時も物凄く熱い視線を送ってきてた。俺の何があいつをあんなにさせるのかよくわからない。


 そんなことを考えていると、武舞台へと上がる出入口まで来ていた。

 そこにはジークの姿も。

 俺は少し距離を取り横に並ぶ。


「……」


「……」


 ……。

 気まず!!


「な、なぁ、ジーク」

「エドラス」


 被った……。


「お先にどうぞ」


「……エドラス。俺はお前を殺す。今日ここで」


「は?いやいや、試験だろ」


「……」


 明らかな殺意。どうやら本気のようだ。


「なぁ、何がお前をそうさせてるんだ?仕方なくやってんだろ?昔のお前は……」


「うるせぇ!!昔なんかどうでもいいんだよ!てめぇなら薄々わかってんだろ?」


 ジークが勘当された理由。

 危険思想。

 明らかな殺意。

 そんな気はしていた。そう思いたくなかった。

 重なるジークとギドーの姿、怒りと悲しみが込み上げてくる。


 ギリッと歯を食いしばり、気付くと身体が動いていた。


「なんでそっち側に付いた!!」


 俺はジークの胸ぐらを掴み壁に叩きつける。


「お前ならわかるはずだろ!魔族は悪意の塊だ!そっち側に付いたって殺されるのがオチだぞ!」


「はっ……珍しく感情的じゃねぇか英雄様?」


「てめぇ……!!」


 俺が拳を振り上げると、武舞台から実況の声が聞こえる。


「殴らねぇのか?」


「俺は……嫌なやつだがお前のことを認めていた。がっかりだ」


「どうせ人類は魔族には勝てねぇよ。やるだけ無駄だ。俺は自分の命が何よりも大切なんでな」


 ジークはジッと俺の瞳を見る。

 俺はその瞳の中に強い意志を見た。


「……そうか。なるほどな。だが、簡単には殺されねぇぞ」


「ほざけ」


 胸ぐらから手を離し、足を踏み出す。

 武舞台へと上がるととてつもない歓声が湧き上がる。

 だが、俺達にはそんな声は聞こえない。ただ、自分の敵を見据える。


 〔エドラス・ルビウス、ジークバルト・エアフリト!!その力を我々に見せてみよ!!〕


 おそらくアカデミーの偉い人が高らかに言う。


 〔それでは!!始め!!〕


 決戦のゴングが鳴り響いた。


【スキル:魔剣召喚】


 ジークは空を掴み出現したマナの塊から1本の魔剣を抜き取った。


【魔剣:エスドレイヤ】


 会場がざわつき始める。

 なぜなら、ジークが取り出した魔剣を知っている人間がいなかったからだ。もちろん、俺を除いて。


「お前、その魔剣……」


「いくぞおらぁ!!」


「っ!!」


 速い……!!

 俺を殴ってきた時の比じゃない!

 すんでのところで受け止める。

 ギリギリと鍔迫り合いを繰り広げるか、ステータスの差は歴然だ。


「おら!!」


「くっ」


 ガードを弾かれ、体勢を大きく崩してしまう。

 紫色に鈍く輝く剣身が襲いかかってくる。


「っぶね……」


 上体を逸らし致命傷を避けるが僅かに頬を掠ってしまう。


「ちょこまかと」


 真正面からぶつかるのは最前とは言えないな……。


【スキル:雷元素】


『エンチャント』


 マナを解放し、大太刀に雷を纏わせる。


「ヒリスの猿真似かよ」


「俺なりに研究してんだぜ?」


 俺は更にマナを解放する。

 俺のマナのステータスはSだ。ふんだんに使わせてもらうぞ。


雷纏らいてん


 マナの圧が辺りに吹き荒れる。

 俺は猛々しい稲妻を纏い、大太刀を構える。


「なんてマナ量だ……マナ切れになっても知らねぇぞ!!」


 ジークは再び俺に肉薄するが、今回はしっかり動きを追える。


 〔ガキンッ!!〕


「へぇ……やるじゃねぇか」


「まだまだこっからだろ」


 互いに更にギアを上げる。


「なんだあいつ!!あのエアフリト家の長男と互角に渡り合ってるぞ!!エドラスって言えば、落ちこぼれって話しじゃなかったか!?」

「これが、15歳になったばかりのレベル……?」


 観客席からは歓声が上がる。

 チラッと見たVIP席ではシルヴァ王とヒリスがドヤ顔で見ていた。

 なんであんたらがドヤ顔すんだよ……。


 〔ギンッ!ガンッ!ガキンッ!!〕


 激しくぶつかり合う両者、力は拮抗しているように見えたが……。


「随分しんどそうだなぁ?どうやら"それ"は消耗が激しいらしい」


「まあな」


 早いとこ決着を付けたいが……。

 さすがジークと言ったところか……。隙がない……。


『魔剣技:大覇斬』


 なんのつもりだ?

 ここからじゃだいぶ遠い……。


「っ!?」


 紫色の剣身は輝き、そして、その長さを変えた。

 この魔剣の真骨頂。

 伸縮自在の変速型魔剣。


「ぐあっ……」


 ジークの魔剣が俺の左肩を貫く。


「降参するか?まぁ、受け入れないがな」


「やけに饒舌だな?」


 俺は地面に手を置き、マナを流す。


「マナ感知がガバガバだぞ?」


「なっ!?」


『雷剣山』


 ジークの地面の両脇から雷で形成された2本の剣が突き出す。

 ギリギリで1本を回避するが、もう1本はしっかりジークの右肩を貫いた。


「ぐっ……」


「はぁ……はぁ……」


 息が上がる。

 俺の今の体力じゃここらへんが限界か。


 貫かれた右肩を抑えながらゆっくりとジークが近付いてくる。


「よくやってると思うぜ?エド。よくここまで成り上がったもんだ」


「うるせぇ……まだ、負けてねぇ……」


「楽にしてやる」


 ジークの足音が近くなってくる。

 だが、まだ負けてないと言ったはずだ!!


【神剣解放】


「こい!!」


 その瞬間、俺の手に持つ大太刀は赤黒く輝き、神剣特有の赤黒いマナを放出される。

 今の俺じゃ神剣を解放した所で一撃放つのが限界だ。

 だが、この一撃に賭ける。


『神雷覇閃』


 赤雷を纏う神剣の真っ向斬りまるで落雷のように荒れ狂い、確かにジークを捉えた。

 耳を覆いたくなる程のとてつもない轟音が闘技場に響き渡る。


「おいおい……死んだんじゃないか……?」


 観客はゴクリと息を呑む。


 立ち込める煙が晴れる。


「マジかよ……」


 しかし、ジークはしっかり意識を保ってそこに立っていた。



 確かにジークを捉えていた。

 しかし、ジークは寸前に魔剣の形状をバスターソードのように変形させ、防御の姿勢に入っていた。

 だが、ジークの右腕が赤雷によって焼けている。どうやら俺の赤雷は魔剣を貫通したようだ。


「こんな傷をおったのは……あの時以来だな」


「ジーク……」


 俺の耳にはあの日のジークの声が響く。


 ◆


『ぐあぁ……!!』

『な、なんだこいつら!まだ成人もしてないガキのくせに!!』


 首都:ザドラの周辺で悪さをしていた盗賊はしっぽを巻いて逃げていく。


『へっ、雑魚どもが』


 青髪の青年はペッと口に溜まった血を吐き捨てる。


『ジーク……危うく死ぬとこだったぞお前……』


『俺は、どんな逆境に立たされようと絶対に折れねぇ!自分の信念曲げるぐらいならこの命惜しくもねぇ!』


 青色の髪をした青年は、銀髪の青年の前に剣を突き立てる。

 2人の青年は見るからにボロボロで、今にも倒れてしまいそうなほどだ。


『誓え!!エドラス!!絶対に信念を曲げねぇと!!お前は嫌いだが!その信念に生きる姿勢は認めてんだ!!』


『ゲホッ……あぁ……俺はもっと強くなる。いつか、ジークをぶっ飛ばせるくらいにな』


 ジークは半笑いで俺を殴り、足を引こずりながら家路に着いて行った。

 その小さくも頼もしい背中を俺は忘れることは無いだろう。


 ◆


「はっ……昔の話だ」


「……そうかよ」


 ジークはゆっくりと俺に近付き、魔剣を構える。


「な、なぁ、なんかやばくね?」

「流石に大丈夫でしょ。回復のスキルアイテムもあるし」


 観客席がざわつき始める。


「ジーク?」


 ヒリスは身を乗り出し、その様子を見る。

 そして、その後に起こる悲劇を感じ取った。


「ジーク!!!やめて!!!」


「あばよ」


 〔グサッ……〕


 ジークの魔剣は膝を着き項垂れる俺の心臓を正確に突き刺した。

 とてつもない痛み。あまりの痛みに俺は意識は消失した。


「う、うそだろ?」

「おいおいおいおいおい!!!」


 〔キャー!!!!!!!〕


 特待生試験で起こった衝撃の事件に会場はパニックとなる。


「う、嘘よ……」


 ヒリスは信じられないと言わん表情で立ち上がる。そして、腰から剣を抜き飛び出そうとした瞬間。


「待ちなさい。ヒリス」


 ヒリスの肩を掴む女性がどこからともなく現れた。


「うるさい!!」


 ヒリスはその手を振り払おうとするが。


「なっ……痛っ!!」


「ヒーリースー?あなたいつから私にそんな口が聞けるようになったのかしら?」


「あ、あなたは……」


 華奢な体に見合わない大きなバスターソードを携えた女性がそこに立っていた。


『あーあー、聞こえるかな諸君』


 闘技場全体に1人の壮年の男性の声が響く。


『私の名はウラギ・バスマッタ。【アビス】の幹部である』


「……」


 シルヴァ王はその様子を退屈そうに見ている。


『我々【アビス】は魔神復活の為、魔族と協力し世界を統一する組織である。そして、この惨劇は見せしめだ。わかるかな?愚かにも魔族に楯突いた愚かな青年を葬り去ったのだ。新世界を受け入れよ。さもなくば、彼と同じ運命が待っているだろう』


 ウラギ伯爵の声明は終わった。


「はぁ……馬鹿な男よ」


 シルヴァ王はため息混じりにそう言うと、各々に指示を出し始める。


「警備隊。ジークを捕らえろ。エルド、最高級ポーションを用意しておけ」


「「はっ!!」」


「ヒリス、お前は私と来なさい」


 肩を落とすヒリスを抱え、シルヴァ王はVIP席を出ようとする。


「お前は手筈通りに」


「はーい」


 バスターソードを背負った女性は一瞬で消え、何かを追うようにその場を去った。


 一方武舞台では、力なく倒れるエドラスの横でジークが立ち尽くしていた。


「ジークバルト・エアフリト!!殺人未遂で貴様を拘束する」


 警備隊がジークを囲う。しかし、


『それはいけませんね』


 武舞台に禍々しいマナが出現する。

 すると、ジークの横に突如としてウラギ伯爵が出現した。


「な、なにを!!」


「彼は貴重な我々の戦力だ。あなた方に渡す訳にはいかない」


 そう言うとウラギ伯爵は再び禍々しいマナを解放し、煙幕のように放出する。


「くっ……!?やつは、どこに!」


 煙幕が晴れる頃にはジークとウラギ伯爵の姿が無くなっていた。


「逃げられたか……」

「だがウラギ伯爵のスキルは単純な身体強化では……?」

「逃げられたものは仕方ない!撤収するぞ!」


 残されたエドラスを抱え、警備隊はその場を後にするのだった。


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