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第12話 激戦の後

 

「……」


 水晶玉に吸い込まれた俺の意識は、現実世界に戻ってきた。

 真っ白い空間ではなく、紛れもない現実。

 どうやら俺はディルナーデとの戦いが終わり、自室に運ばれたらしい。


 身体を動かそうと思うがピクリとも動かない。

 重いっていうより、金縛りにあったように微動だにしない。


 金縛りあったことないからわからないけど。


 外傷も無くなっている。傷ついた内蔵も綺麗さっぱり。

 いつ死んでもおかしくない程の重症だったはずだが、おそらくコーデリアの最上位治癒スキルだろう。


 首を動かし鏡を見る。

 なんだこの髪の毛。前髪の一部と襟足が赤く染まってる?

 まぁ、それはいいとして。

 俺の体からはマナが一切感じられない。

 限界を超えて力を引き出した代償でしばらくはスキルは使えないだろうな。


 そういや、あの時なんであんなにマナが溢れてきたのだろうか。

 死んだと思ったのに、風前の灯だろうか、ディルナーデにトドメを指すときは力が溢れ出てきたのだ。


【ステータス】


 名前:エドラス


 体力:106 E

 筋力:135 E+

 敏捷:170 D

 器用:192 D+

 マナ:S


 スキル:雷元素Lv.4 神剣召喚Lv.-

 パッシブスキル:マナ感知A+ 精神異常耐性A 剣術 B 体術 B


 お、雷元素のレベルが上がってる。

 うーん。他にステータスの変化は特にないな。

 じゃあ、次は権能を調べてみよう。


【模倣の権能】

 覚醒:限界突破(リミットブレイク)


 ◆模倣しているスキル

 ・雷元素

 ・神剣召喚


 ん?覚醒?

 覚醒って確か、権能が更に強化される現象だよな。天界の神の中でもごく1部の神しか権能を覚醒させていないはず。


 まさかダメ神の俺が覚醒するとは……。


限界突破(リミットブレイク):限界を超えた力を引き出すことができる。

 限界を超えて引き出した力の量に応じて反動を受ける。

 今後模倣した権能やスキルは弱体化されなくなり、レベル上限を6▶︎10まで解放される】


 おいおい、まじか。


 限界を超えて力を引き出すのはなんとなくわかるが、スキルのレベル上限が解放されてる……!?


【模倣の権能】。権能を模倣し意のままに操る世界の理から逸脱した強大な権能。

 一見聞こえはいいが、この権能にはどうしても抗えない弱点があった。

 それは、ディルナーデに指摘された通り『模倣した権能またはスキルは弱体化される』というものだ。


 一般的にスキルの最大レベルは10。

 俺は権能でコピーしたことにより弱体化されて最大レベルは6だった。

 そのデメリットが無くなるということはつまり、オリジナルと同等の領域まで到達が可能ってことだ。

【模倣の権能の覚醒】は最大の弱点も克服しちまうってことなのか……。


 まぁ、結局はレベル上げなきゃいけないし、強くなるには地道な努力が必要なんだけどな。


「せっかくなら経験値ブーストとか付いて楽にレベル上げ出来たら良かったのに」


 ボーッと自分のステータスを確認していると、誰かが俺の部屋に入ってきた。

 メイドのようだ。


「はぁ……エドラス様はいつになったら目覚め……る?」


 バチッと俺と目が合う。

 メイドはまるで魚のように口をパクパクしている。面白い。


「だ、旦那様!!!奥様ぁあ!!!!」


 大慌てで部屋から出ていった。

 家族を呼びに行ってくれたんだろう。


 ……ん?なんか忘れているような?

 目が覚める前に何か見てたような気がしたんだが……。思い出せない。


 しばらくすると部屋の外からドタドタと複数人が走ってくる音が聞こえる。


 前にもこんな事あったなぁ。3年前神殿でぶっ倒れた時だっけ。


「「エド!!」」


 部屋に入ってくるなりルーピンとコーデリアは俺に抱きついてきた。


「エド……本当によかった……このまま二度と目覚めないんじゃないかって……」


 コーデリアが涙を流しながらそう言う。


「すまなかった……俺が不甲斐ないばかりに」


 そういうルーピンは悔しそうに唇を噛み締めている。


「大丈夫ですよ」


「無理しないで。今はゆっくり休みなさい」


 そういえば、こんな時に真っ先に駆けつけそうな幼馴染の姿がない。


 ふと頭に嫌なイメージが過ぎる。


「うっ……」


 頭痛がする。今のイメージは……?


「エド……?やっぱりまだどこか悪いんじゃ……」


「大丈夫ですよ。あの、ヒリスは?」


「ヒリスなら、あの戦いの後2、3日で回復した。重症ではあったが、エドほどじゃなかった」


 話によると、コーデリアの最上位治癒スキルで俺とヒリスは治してもらったらしい。

 俺は限界を超えた代償で眠り続け、ヒリスは重度のマナ枯渇で丸2日眠り続けたようだ。


「今は、魔族からザドラを防衛した褒美を王都で受け取っている」


「なるほど」


 ふとベッドの脇を見ると数個のプレゼントが置かれている。


「これは?」


「これは……」


「俺達からだ」


 部屋の外からそう言いながら入ってきたのはリックとシルアナだった。


「リックさん、シルアナさん」


「目が覚めてよかった……」


 そう言うといきなりリックとシルアナが俺に対して頭を下げる。


「ちょ、ちょっと!なんで!」


「本当にすまなかった……。お前達を……危うく死なせてしまう所だった……」


「リックさん達が謝ることでは」


「……」


 そう言っても頭を下げ続けている。

 困ったなぁ。


「……あの日、俺は王都のアカデミーから最上位モンスターの討伐を依頼された」


「はい、そう聞いています」


 リックはグッと唇を噛み締める。


「依頼された場所には……なにもいなかったんだ」


「え?」


 王都のアカデミーからの依頼。

 なるほど、罠だったわけだ。

 ディルナーデは少しでも俺達の戦力を削ぐ為に、リックを辺境へと飛ばしたのか。


「怪しい点はいくつかあったんだ……!だが、俺は安易にそれを受け、まんまと敵の罠に引っかかった……。これは俺の怠慢だ。今回エドやヒリス、そしてルーピンを命の危機に晒したのは俺と言っても過言では無い……」


 命の危機に晒した……か。


「それは違いますよ。魔族が1枚上手だっただけです」


「しかし……」


「それを言うなら魔族が潜伏していたことに気づかなかったアカデミーしかり、王都にも問題があります」


「……」


「リックさんは悪くありませんよ。現に俺達は生きてます。それでいいじゃないですか」


「……ありがとう」


 俺の言葉を噛み締め、リックは顔を上げた。


「エド」


 ルーピンが改めて真剣な顔で俺を見る。


「お前に聞きたいことが山ほどある」


 まぁ、そうくるよな。


 ディルナーデとの最後の戦いはしっかりヒリスに見られてたし、何よりも雷元素のスキルに神剣召喚も使ったわけだ。疑問に思うことはたくさんあるはず。


「まず聞きたいのは……スキルを持っているのか?」


「はい」


「いつから?」


「……3年前です」


「3年前……と言うと神殿での出来事の時か」


「はい。いきなりスキルを使えるようになるのは前例のないことですし、いつ打ち明けようか迷っていたらここまで……」


「そうか。スキルの名前は?」


 スキルの名前……どうしよう……。

 模倣の権能って言うわけにもいかないし……。


「【スキルイミテーション】模倣の神エドラス様から授かった模倣系統のスキルです」


「模倣系統!?まさかあのエドラス神が……これは凄い事だ。800年振りだぞ……」


 気まずい……。

 800年間ただサボってただけなのに、こんな大事になるなんて。


「それでヒリスの雷元素に、正体不明の神剣……アルフィの神剣召喚か」


 ベッドに立て掛けられてある大太刀を見てルーピンは首を傾げる。


「神剣名鑑には載っていないものだ……この神剣についてはなにかわかっているのか?」


「はい。エドラス神が創り出した世界で13本目の神剣だそうです」


 この神剣について少しだけ説明しよう。

 神剣は世界で12本しか存在しないとされていた。

 事実、俺の大太刀を除けば12本しかないからな。

 この大太刀は俺の魂の半分を移植し作成した俺しか扱えない神剣だ。

 だからこの大太刀の存在を下界で知っている人間はいないのだ。

 最も、800年前の戦いを見ている人がいればその人はもしかしたら知っているかもしれないけど。


 スキルについての話を一通り話終え、一息つくとルーピンは少し苦しそうな表情で口を開く。


「……ギドーの事は……本当か……?」


「はい。魔堕ちしたギドー兄さんは俺が殺しました」


「そうか……。疑う余地はない……。証人ならコーデリアとロータスがいる」


 よく見ると、ルーピンとコーデリアは弱冠窶れたか?

 そりゃそうか。街を襲撃されて、三男は死にかけて長男は魔堕ち、窶れないほうがおかしい。


「しかし……あんな身体の状態でよく生きていたもんだ」


「身体の状態?」


「ああ。まず内蔵はズタズタ。刺された胸部は心臓には刺さっていなかったが重症だ。無意識に避けたのだろう。骨は全身骨折してるし、なによりもマナ回路だ。スキルを使う俺達にとって生命線といわれる器官がズタズタに引き裂かれてたんだ」


 話聞くだけでゾッとしてくる。

 ほんと、よく生きてたな。


「母様のスキルがあればあっという間でしょう」


「私が治せるのは肉体的な傷だけよ。マナ回路は私でも治せないわ。それに、マナ回路が破壊された人は元に戻らないって聞いてるの」


「では、誰が?」


「さぁ……ヒリスも前後の記憶が飛んでいるらしいし、冒険者ギルドの御二方が運んでくださった頃にはもう修復が始まっていたんだ」


 マナ回路の修復……。

 人間には無理なんだな……。

 俺、できるけど。

 それに、マナ回路の修復ならあいつもできるはず。

 まさか……。


『その話については儂が説明しよう』


 突然、俺達の頭に老人の声が響く。


「ゼリオス様!?」


『ほっほ。しばらくぶりかのルーピン』


 呑気な様子で廊下から部屋に入ってきたのは天界の最高神、ゼリオスだった。


 ゼリオスは俺を見てパチンッとウインクする。

 やっぱりこいつか。

 てことは、まさか下界で力を……?


『エドラスの身体を治したのは儂じゃよ。ほれ、この腕を見てみなさい』


「っ!?」


「……」


 ゼリオスは真っ黒に変色した腕を俺達に見せてきた。もう使い物にならないのかだらんと脱力している。


「こ、この腕は……」


『下界で権能を行使してはならん。掟を破れば、神とて罰を受けるものじゃ』


「なんで……」


『既に赤化が始まっておっての、一刻を争う状態じゃった』


 赤化……。だから、俺の髪の毛がこんな事になってたのか。


「ゼリオス様、なぜそこまでして……」


『魔族が表に出始めた今、貴重な戦力を失う訳にはいかん。エドラスには大きな秘めたる才能がある。さすがは英雄の末裔、次代の勇者達は着実に育っておるぞ』


「そうですね」


 そう言いながらゼリオスはルーピンとリックを見る。

 俺とヒリスの事を言っているのだろうか。


『ちと、エドラスと2人きりにしてもらえるかの?』


「了解しました」


 言われるがままそそくさと4人は部屋から出て行った。


 2人きりの部屋には静寂が流れる。


『加減はどうじゃ?』


「見ての通りだ。少し無理をしすぎた」


『今回ばかりは仕方ないじゃろうて。回復には数週間かかる。これからどうするつもりじゃ?』


 これからどうするか、か。

 あんまり考えてなかったな。ステータスの向上にばかり力を入れてたから、俺自身の進路については何も考えてない。


「自分なりに強くなる方法を探すさ」


『ふむ。これからはより一層の用心するように。魔族がいつどこでなにをしているかわからん。それに、お前とヒリスはディルナーデを倒したことで目をつけられておる』


 ディルナーデを倒しただけで?


「アイツを倒しただけでか?魔族にとったら"子爵級"程度雑兵でしかないだろ」


 まぁ、今の俺達からしたら十分強敵なんだが。


『何を言っておる。ディルナーデは子爵級では無いぞ?800年前の魔人討滅戦争でも大暴れしていた魔族幹部の1人。"伯爵級"じゃ』


 伯爵級の幹部。

 だから、800年前の俺の事を知っていたのか。


「でも、あいつのスキルは4つのはずだろ?」


「おお、そうか、お前はずっと眠っとったんじゃったな」


 そう言うとゼリオスは懐から拳ほどの大きさの魔石を見せてきた。


 これは確か、ディルナーデの。


『魔族の核とも言える魔石からは当人のステータスを見ることができるのじゃ。鑑定師が鑑定した結果がこれじゃ』


 名前:ディルナーデ 種族:魔族


 体力:341 A+

 筋力:302 A

 敏捷:351 S

 器用:300 A

 マナ:406 SS


 スキル:気配遮断、ブラスター、分身、自動治癒、洗脳

 パッシブスキル:マナ感知S 精神異常耐性B 属性攻撃耐性 A 物理攻撃耐性 B 体術 S 挑発 空間支配 話術


「洗脳……」


『そう。おそらくそのスキルでこの街の結界師に結界を解除させたのじゃろう』


 なるほど。精神異常耐性を持っていない人間は特に洗脳にかかりやすいと聞く。

 ヒリスやルーピンはかからないだろうが、一般の結界師となれば話は別だ。


『本題に入ろう』


 今のが本題じゃなかったのかよ。


『ディルナーデとの戦いでお前は大きく成長したはずじゃ。新たに模倣できるスキルの数は……2つと言ったとこかの?』


「その通りだ……って、そういや【炎帝剣】と【身体強化:剛】が無くなってんだが」


『マナ回路を破壊した原因を残す訳なかろう。マナ回路の修復方法はわかっておるじゃろう』


「体内時間の巻き戻しか」


 最高神は一時的に他の神の権能を借りる事ができる。

 俺みたいに好き放題は使えないが、最高神って立場は便利だな。

 だが、その代償で腕を……。


『そんな顔をするなエド。必要な事じゃ』


「ああ……」


『話が逸れたな。2つのスキルをコピーできるんじゃろ?』


 ゼリオスの言う通り、今回の戦いで成長し俺は新たに2つのスキルを模倣できる。

 いきなり2つもコピーできるのは大進歩だ。それだけ、あの戦いが凄まじかったってことだな。


『ほれ、これを使え』


 そう言うとゼリオスは俺の前にディルナーデの魔石と見知らぬ魔石を置いた。


「おい、まさか」


『うむ。魔石からも模倣が可能じゃ』


「まじかよ」


 でもなぁ……。気が引けるなぁ……。


「呪われたりしない?」


『しない』


「ディルナーデの魂に取り憑かれたり」


『しない。そもそも魔族はこの世界にとってイレギュラーな存在じゃ。魂なぞ存在せん』


「まぁ、それなら……ありがたく使わせてもらうよ」


 俺は魔石を握り、自身の神のマナを解放しようとする。

 しかし、俺のマナは空っぽだ。

 どうするかと言うと……。


【限界突破】


 限界突破を発動し、少量のマナを絞り出した。


 さて、なんのスキルにするか。

 あんま目立つスキルはいらないな。雷元素と神剣で十分すぎるほど目立ってるし……。


 なら、これだな。


 スキルの欄に新しく"気配遮断"が追加された。

 正直、隠密は大して強いスキルではない。誰でも会得可能なパッシブスキルの中に【影身】というスキルがある。自身の気配を薄めるスキルだ。

 まぁ隠密は自身から発せられる音を完全に消してくれるから、そこらへんと差別化できる訳だ。


『それが無難じゃな』


「うっ……」


 神のマナを解放した事で酷い倦怠感と吐気が襲ってくる。

 この少量のマナを限界突破で得るだけでこの反動……。

 この能力の使い方は慎重に考えないとな。


『では、儂は帰るとするかの』


「おう。苦労かけたな。助かった」


『ほっほ、儂らはいつでも見守っておる。お前がこの世界を救ったその時、またお前を神として迎えに行こう』


「その言葉忘れんなよ」


 ゼリオスはニコッと笑い天界に帰っていった。


「ふぅ……」


 ダメだ。フラフラする。

 もう1回眠ろう……。

 ヒリスには、また起きたら色々話そう。


 そんなことを考えながら、俺はいつの間にか眠りについていた。


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