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選択肢

どうせ人はいつか死ぬ。

人の定義が「絶対に死ぬ生物である。」というものであれば、私は人間に分類されるであろう。

しかし、生あるものはいずれ朽ち果てて、土に還り、天に召されるか地獄に堕ちるか迫られる。

生きていていても数多の選択肢を抱え、毎日様々な事象を選びながら生きているというのに、死んでからも自分の果てを選ばなければならないというのは神とやらはひどいことをする。

死んでから選択肢を与えられてそう思う。


私が生を受けたのは、ほんの22年前。

ほんのというのは、地球から見て私なんぞ瞬きする1往復にも満たないわずかな時間という意味で。

2002年の平成育ち、ピチピチの22歳になったばかり。未来は明るく輝いているものだと思った。

全力を出したことがあるとすれば、小学生のときに気になる異性に恋していることを伝える時くらいか。


過ごしてきた人生を門番とやらに振り返させられると、ただただ平凡で空虚で面白みもなくて生産性もなく、無味無臭で、でも消費期限はちゃんとあって客観的に見てもこの人生はなんだったのか。

誇れることがあるとすれば、ゴールド免許で犯罪を犯すことがなかったことくらいか。

しかし22年も生きてきて、親にも孝行できず、逆に看取られるとは恩を仇で返上、親不孝極まれり。恥ずかしい。大手企業に入れずとも、毎月20万程度もらって生活し、親を看取るくらいのことはできただろうに。

日本は国民の三大義務に「親を看取ること」も追加したほうがいいのではないかと一主権者としては提案したい。まあもう死んでしまったが。


音成芯作おとなりしんさくさんこちらへどうぞ~。ちょっと待ってね今頭に情報いれるから。』


男女の区別がつかない人のような形はしているが、雰囲気がただものではないのは確かで、私の物差しでは到底計り知れない存在が眼前でこめかみ近くをとんとんと指で小突いている。

刑事かお前は。


『享年23歳。若いね~。死因は電車に轢かれたことによる失血死か。ここ20年くらいの中ではまぁポピュラーになってきた死因だね。遺体の損壊も激しかったみたいだけど、なんでまた?」


知っている。棺桶の蓋が固く閉じられていたことを。


「なんというか、生きるのに疲れてしまって。」


某スポーツメーカーのロゴのようなシャープな曲線を描く鼻頭を、猫の頭を撫でるようにさすりながらその人は言った。


『嘘が好きかい?それとも会話が面倒なのかな。お天道様はちゃんと見てんだよ~。もちろん雨の日もね(微笑)。その嘘でこれまでどれだけ音成さんが苦労してきたか理解していないことはないよね。』


あぁ、この人が神か。直感で理解した。嘘つけない。母親に説教されている時に手のひらで次の出方まで掌握されている感覚を死んでからも味わうとは。


「すみませんでした。」


『そういうこと。正確に言えば、私は門番みたいなものだから考えているような神とやらではないよ。

ここですることは、あなたの意思を聞き、次の生を決めなければならない。それが私の役目。

今はどんどん次世待者じせたいしゃが来ちゃうからあまり時間かけられないけどね。』


門番といえば確かに背後はるか後方に小さい門が見える。

門番にしてはかなり離れているが大丈夫なのか。


「意思とはなんですか?転生ということですか?」


『転生といえばそうだけど、その前に人間であったことをどう思う?』


なるほど、次は別の生物になれるかどうか選べるシステムか。


「特になにもないですよ。普通に小学校から大学まで出て、少し社会人を経験した程度の人生で主体性はなく、その時その時で選んできましたから。」


そりゃそうだろ。自分がしたいことをしようとすると杭は打たれるのだから。


『いや、そのくすぶる気持ちがあるのなら、君は天国へは行かせられないね。』


「てかさっきから心読むのやめてもらっていいですか?不法侵入ですよ。領海侵犯ですよ。」


『そ。門番になる試験では必須だよ?というかこの先にいるのはもっとすごいよ~?』


階段の踊り場のようなスペースで胡座をかいて地べたに座る。死んでも疲れるんだな。


『本題を話そうか。まず君に選択肢を2つ与える。一つは天国。残りは地獄。そのどちらかを選んでもらうよ。君は人として死んだ。でも人生という定義が、”人の生き様”だとしたら、君はまだ死んではいない。でも、どちらかを選ぶと君は死ぬ。どちらかに()()はある。その選択肢を選んだ時、君は本当の意味で君は死ぬ。これはとても重要な選択だ。お店でおにぎりの具を選ぶのと同じくらいにね。』


こいつ現代知りすぎだろ。この次元にコンビニでもあるのか?


「どっちにしても、これから自分は天国か地獄かを選ばないといけないんですよね?なんとなくわかりました。」


『ちなみに音成くんはおにぎりの具は何が好き?』


「そうですね、シーチキン、ですかね。」


『無難だね。まぁこれからもう少し詳しく話すから。』


そう言うと、おもむろに立ち上がり胸のあたりをさすりながら何やら言葉を唱えている。

ダンっと床を踏みしめると、踊り場だと思っていた床が一面映像が出力された。


「そういえばお名前はなんと?」


『門番だから、もんさんって呼んでよ。』

『それとこの映像は君が生まれてからの行動記録なんだけど、分析して次に繋げないと人は成長しないよね。君の()()につながるから、しっかり向き合ってもらうよ~?』


不安は大いにあるが、第二の人生が始まる気がして少しワクワクしている自分がいる。

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