思ひ出ラーメン
幼き日に母と食べたラーメン。
あの味をもう一度堪能したい。
そんな思いが最近頭をよぎる。
どこで食べたかはわかってはいるが、その店は既になくなっている。
近い味を求めなんとなく食べ歩いてはいるが、未だその味に出会ってはいない。
しかしそんなある日、とある商業施設のフードコートで頼んだ大衆向けのラーメン。
ラーメンと一緒に出された食器を見て驚いた。
スプーンにフォークを合体させたような特徴的な形状。
あの時、全く同じ食器を出された事をすぐ思い出した。
「じゃあ、これがあの時の・・・」
私は心して麺をすすり、スープを飲んだ。
「・・・。」
「・・・なんか違くない?」
確かに味は大体合っている。
ただ、味に立体感が出てあの時より美味しくなっているのだ。
これが思い出補正というやつか?てか、思い出劣化してないか?
少しの寂しさを感じつつ、私はラーメンを完食した。
あの味はもう存在しないのか・・・そもそも、初めから存在しなかったのかも知れない。
わずかに傷心気味な私だったが、そんな気持ちもすぐに忘れ、後日食事のため近所の町中華を訪れた。
メニューを手に取り選んだのは、豚骨ラーメンとチャーハンのセット。
こういった店のラーメンはいまいちだと言われるが、コスパが良く量も多いので私的には無問題だ。
そして、豚骨ラーメンが運ばれ一口麺をすする。
「・・・あれ?」
私は続けてもう一口麺をすすりスープも飲んだ。
「これだ・・・!」
平坦でマイルド過ぎる味・・・これはあの時の味その物だ。
なぜかはわからないが、あの味は町中華に存在していた。
喜びとともに豚骨ラーメンを平らげ、私は店を出た。
そしてその後、私は町中華で豚骨ラーメンを定期的に食べるようになったのであった。