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───ウォルディン侯爵視点───

「お父様。」

何故こんな所に居る?学校に行かなかったのか?いや、制服を着ている。学校には行ったのか。入学式の感想を話しにでも来たか?うちの娘が?そんな訳ない。昔は確かにそんな可愛らしいところもあったが今ではただ恐ろしいだけの娘だ。そんな娘だが領地では私より人気が有る。こんなに必死で仕事をしている私より評価が高いのだ。腹立たしくも鼻が高い、なんとも複雑な感情を教えてくれる。

「何だ?入学式ではなかったか?」

「えぇ、そうよ、そこで紹介したい人が出来たので連れてきたのよ。」

「なに?!」

まさか?早い!いや、そんな筈は無いだろう。

「お初にお目にかかります、侯爵様。スタリオン男爵家のダートウィンです。以後、お見知り置き下さい。」

スタリオン家は名馬を産出している田舎の男爵だが重視されている家だな。なかなか政治においても使える立ち位置にある。

「ビディポータル侯爵のウォルディンだ。さぁ、掛けなさい。」

挨拶を返したが、この者を紹介するとは?馬でもプレゼントしてくれるのか?娘は冒険者をしている。しかも領地の税収程の稼ぎがあるのだ。父の威厳などあったものではない。座るとお茶が用意される。

「下がってよい。」

「失礼致します。」

「お父様、ダーは私と結婚してくれるそうです。」

「なにっ?!」

私は確かに結婚相手を見つけて来いと言って学校に行かせたが、こんなに早い?まさかのまさかである。

「ハニー、僕から。」

ハニー?そう言った?

「ハニー?この不良娘が!!!」

どうやら娘はとんだアバズレなようだ。最悪だ。そっちの方面も強かったのか。

「面白い人でしょ?」

何を言うかと思えば、馬鹿にしよって!

「全く面白くないぞ、この不良娘め!」

どうする?これは参った。

「お嬢さんと結婚したいです。お願いします。」

と頭を下げた、ダートウィン殿。

「良かったね、お父様。お相手が見付かって。じゃあ明日から行かないからね、学校。」

「「え?」」

それは困る。何とか学校に通うよう取り付けたばかりなのに。

「約束でしょ?」

鋭い目つきに気圧され体が硬直するのを悟られぬよう紅茶を飲む。

今回、学校に行かせたのは陛下からの圧力によるものだ。直接命を出す訳ではないところが嫌らしい。会わせたいが選ぶのは殿下であると言いたげで頭を下げる様子も見せない。娘が強く美人であると噂を耳にした陛下は奔放な殿下の面倒をハートニーに任せるつもりか、娘と会わせる事に拘った。家が侯爵家であることも理由の一つだ。この分だと、まだ殿下と会ってはいないだろう。

「僕はハニーとの学校生活楽しみにしてたんだけど。」

そうだ、学校にさえ行けばそれで面目は保たれるだろう。なんせ、命が出された訳ではないのだ。

「おー!ダートウィン殿は良い事言う。二人の結婚を認めるから、後、一二ヶ月は学校に行きなさい。婚約が国に認められるまではそれくらい

は掛かるだろう。二人の思い出が有るのと無いのとでは結婚生活も違って来るだろう。」

「ありがとうございます!やったね、ハニー!」

ダートウィン殿が居てくれて助かった。これを娘が一人で報告に来ていたらどうする手段も無かった。なんせ、娘は私の話など聞きもしない。取り付く島も無いままに何処かへ行ってしまうだろう。

「わかった、その代わりさっさと申告申請済ませてね。でないと城を壊すわよ。」

城って領城か?王家の城か?そっちは逸そ一思いにやって欲しい気もする。

「あ、あぁ勿論だ。そうだ、なぁダートウィン殿夕飯を一緒に食べようじゃないか。」

高位貴族の婚姻を承諾するのは陛下である。問題無く申請できるだろうか?そんな事を娘が知ったら本当に王城を壊すかもしれん。なんせ、ハニーとダーである。私は冷や汗が止まらなかった。娘よ、城を壊して逃げる時は私も連れて行ってくれよ。



───マーリオ殿下視点───

学校など何故通わねばならんのか。陛下の意向によるものだと思っていたが、歴代の王家の者は皆通ったそうな。それ程に重要か?得るものがあるとは思えぬ。我々が欲する物など何でもいくらでも手に入るだろう。人との繋がりは大事だとは思うが城にも沢山の人がいる。彼らと交流すればいいものを。同年代の友人が必要だと言うのなら城に呼び付ければよいのだ。

司会が新入生代表の名前を呼ぶので私は立つ。壇上に上がり用意された文を読みあげる。

(同年代の貴族はこの程度しかいないのか、思っていたより少ないな。新入生は六十人程いるがその半分が貴族子女。見知った顔もある。平民も半数居るが今年の入学試験は例年より難しいものだった。私にも分からないものが多々あった。合格した彼らは間違いなく優秀だ。そう思えば意味が無くもないか。)

「新入生代表 マーリオ▪ルシ▪ラピオス」

無難にこなしただろう。壇上を下り席に座る。代表のスピーチがあるため始めから一番前の席を用意されていた。後ろの生徒達が私を見てソワソワしているのを背中に感じる。これには優越感もあれば疎外感もある。慣れたものではあるが今は気分がいいものだった。貴族子女に優秀な者達からの羨望に重視。将来に向け何をするであってもこの私を取り込む程の近道などないだろう。そう言う意味では疎外感は全く無かった。元来、何でも首を突っ込む事が好きだ。巻き込まれていたい中心でいたい当事者でありたい。なんだ学校とはなかなかどうして楽しい場所ではないか。


講堂では入学式とは逆に一番後ろに座った。

「殿下、お隣よろしいでしょうか?」

「殿下の前になど座ってもよいのでしょうか?」

「あぁ、何も問題ないよ。是非、座って欲しい。それに私はマーリオだ。同じ学生だ、よろしく頼む。」

次々と群がっては捌ける様はパーティーの挨拶のようだ。さすが躾の行き届いた貴族クラスと言える。

配られた用紙に目を通す。教育など私は既に終えている。そのままを書き込み、後ろの者が集めろと言うので集めるが二つ前に座る令嬢の紙を見てギョッとした。白紙だ。教育を受けていないのか?見れば初めて見る顔だった。本当に貴族なのか?平民向けの試験があれ程難易度の高い物だった事を考えると、試験をパス出来なかった者達の方が優秀だったのではないかと思う。嫌悪感の様なものを抱いた。

放課後、周りに集まっている者達に訊ねる。

「私より二つ前に座っていた令嬢を誰か知らないか?」

殆どの者が首を振る中

「マーリオ様、私が知っているのは名前だけですが。」

手を上げる者がいた。

紙に名前が書いてあった筈だったが見ていなかったな。

「君は確か、グリーンレイク伯爵家の…」

「ペグウェルで御座います。」

「お~そうだった。これは失礼。それで?彼女は?」

ペグウェルは二回目の自己紹介をするが、そんな事を気にせず、かの令嬢について聞き出す。

「はい。ハートニー▪ビディポータル、侯爵家です。」

それを聞いた者達はざわざわし始めた。なんだ、有名なのか?私の知らないと言う態度に口を開く。

「ビディポータル侯爵家の一人娘でいらっしゃいますご令嬢は、何処のパーティーにも茶会にもご出席されたことがごさいません。」

教えてくれた令嬢は噂好きなのか、自信を持ってはっきりそう告げた。

「お母上殿を亡くされてからは領地に引き込もっておいでだったとか。」

「まぁ、お可哀想。」

その場に集まっている令嬢たちは優しい自分をアピールしている。

子息たちは逆に嫌らしい顔をしていた。

城に戻る為一つ上のクラスに通う、サンダルフォンと合流する。乳兄弟のサフはいずれは私の側近となる。気安いサフに何となく令嬢について訊いて見る。

「サフ、ビディポータル侯爵家のハートニーと言う令嬢を知っているか?」

「なんだ、入学早々恋ばなか?マー、手が早いな。」

「おい、私は何もしていないし、何も言ってないだろう。何でそんな話になる。」

「そりゃ、マーだからな。可愛いのか?」

そう訊かれ思い出してみた、確かに見目は良かった。彼女とは一度も目が合わなかったのでずっと見ていた。普通なら途中で何度も目が合い顔を反らされる、もしくはその度礼をされる。それが一度も無いので自然な彼女をずっと眺めていた。よく居眠りしていた。短い時間で何回寝るんだと思ったが思い出してみれば可愛いかもしれないな。

「そうだな、可愛いと言えば可愛いな。でも、バカだな。」




───サンダルフォン視点───

マーの様子が変だ。

マーが好む女性は市井の者で貴族令嬢に感心がない。城に出仕している女性や奉公の為出て来た様な女性に手を付け少々問題になっているが、女性に興味が無い訳ではない。ただ、マーリオの生母が元平民である為、婚姻は貴族令嬢でなければ王太子の座は従兄に譲る事になるだろう。陛下はそれを阻止したいようだが、本人は自分の興味を引かれる事に首を突っ込んではそれに夢中だ。王座に興味が無いとも言えるが。

マーが陛下の人形扱いされるのはおれとしては面白くない。もう少し様子を見ようか。陛下に報告するのはそれからでもいいだろう。

馬車の外を見るマーリオを見るといつも通りだ。


城に戻って貴族名鑑をめくる。

ビディポータル侯爵家を見ると最後の欄にハートニーの名前だけが記載されており姿絵は無かった。

(一人娘なのか。これはダメそうだな。)

貴族令嬢と結ばれたとしても相手が一人娘であることを理由にマー本人が王太子を止めそうだ。陛下も却下するだろう。本人達がそれを望むならおれはいいと思うがな。でも、そんな事になったらおれの将来見直しておかないとなぁ。

マーリオ本人が幸せならそれで構わないが従兄ネイヴァルのとこのスタルエ公爵家は狙ってそうだからなあ。スタルエ公爵の思惑通りってのも面白くはない結果になりそうだよな。スタルエ公爵のページを開きそう考えていた。あの野心漲る目を表現出来ていない。

「腕の悪い絵師雇ってるねー。いや?逆にいいのか?」

笑いを噛み殺しながら本を閉じた。



───ハートニー視点───

冒険者ギルドで仕事を受け、そこから飛行魔法でやって来た。

講堂の入り口前にダーが立って待っていた。

「おはよう、ハニー。」

ダーは、自分から言い出したにも拘わらずまた顔を赤くしている。

「おはよ、ダー。顔赤いよ!」

指摘すれば更に照れた。

「ちょっと暑くて。」

苦しいでしょそれ。それに、可愛すぎるから!何でそんな事に拘っているのかは分からないがちょっと照れるダーが楽しみでもあるので受け入れてしまう。二人並んで講堂に入る。

「今日はダーの実家に行こっか?」

「え?無理だよ、馬車で三日は掛かるよぅ!」

「大丈夫。余裕だよ。」

ダーの実家、スタリオン領は遠く西に三日行った所だ。王都に屋敷

を所有していない。だから、ダーは寮を借りている。我が家に住んでいいと言ったがダーは真っ赤になりその後変な顔をして遠慮した。何も無い部屋を思い出したのだろう。別に寝る時は取り出せばいいだけなのだが、まだそちらについては話していない。

「じゃあ、週末ならいい?」

「えぇ、週末も休みは一日だけだよね?帰って来るどころか辿り着かないよぅ。」

「大丈夫、私に任せて。」

「う~ん、うん。」

ダーは何とか頷いてくれた。渋々とも言うだろうが。

二人で隣同士に席に座ると私の方に令嬢達が集まって来た。

「ビディポータル侯爵令嬢様、私しスノーウェル公爵家のフロラリアです。仲良くいたしましょうね。」

「え?はい。よろしく。ハートニーです。」

公爵家のお嬢様のようだ。ふわふわで可愛らしい。それに、

「フロラリア様、とってもいい匂いがしてますね。」

女の子の香りだ。

「えぇ、新作を試してみたの良かったら差し上げましてよ?」

「いえいえ、そんないきなり人に物を貰ったり出来ません。」

出会って速攻で物を貰ったり出来ない。すぐプレゼントするタイプのお金持ちのようだ。

「それに、これはフロラリア様から香るからいんですよ!」

可愛らしいいい匂いのする女の子最高じゃないか!近づきたくなるよ。

「まぁ!ハートニー様ったら殿方の様な言い方をするのですね。」

フロラリアは頬を染めている。変態ぽかったかな?

「ビディポータル侯爵令嬢様、私は…」

他の令嬢達まで挨拶を始めてしまった。こんなに一気に覚えられない。これは困った。

「みなさん、席に着いて下さいね。」

挨拶の途中で、先生が入って来た。

助かった。しかし、蜘蛛の子を散らすようにはいかない。ご令嬢達は何ともゆっくり席に着いた。先生はそれを咎めたりなどしなかった。

腕をツンツンされダーを見ると紙を渡して来る。それを開くと、先程の令嬢達の名前が書いてあった。

え~感動!

『ありがと』

口パクで伝えて皆の名前を復習した。

(あの子が、キャニオラ様。あの子がレニカ様だ。サンドラ様は………あっあの方だったはず。)

また、先生の話は聞いていなかった。

「覚えられそう?」

講義が終わりダーは頭の悪い私を心配しているようだ。

「まあ、まあだね。」

自信が有るくせに勉強なんてしていない振りをするように答えた。

「そう?ハニーが間違えちゃいけないのはあの中じゃスノーウェル公爵令嬢くらいだけどね。」

「そうなんだ。フロラリア様は印象的な美少女だったから流石に覚えたね。」

「次の講義は男女別になるんだけど大丈夫?」

なんと、ダーはそれを見越してメモを作ってくれたのか。気が利く旦那様になりそうだ。

しかし、残念。ダーが一緒に居たいと言ったからまだ学校に通っているのだ。別々の講義など受ける道理はない。

「大丈夫。どうせブッチだからね!」

「え?ブッチ?」

「じゃ!私は行くね!」

「うん、僕も行くよ。」

ダーと別れ、窓を覗く。

(うん、誰も居ない。)

窓枠をヒョイと越え、

「フライ」「リープ」「アクセル」

飛行魔法は飛べるが遅い。そこで速く移動出来るよう、飛躍と加速を足して使う。

朝、依頼を受けた仕事に向かうのだ。王都の外だがたぶん一枠の内に帰って来られる。王都から近く街道からも見渡せる森に最近現れるミヤゴース。目撃例は、多いが犬と言うもの猫と言うものトカゲだと言うもの色々で苔色の体は森では判別も困難だ。

だが、私はもう何度も戦った経験があり、索敵の魔法も有るのですぐに終わるだろう。

「サーチ」

索敵の魔法はソナーのように広がるものではなく、十二本の魔法の糸がぐるぐると渦のように伸びて行く。

生き物を見つけると伸びるのを止めその場を示し続ける。この辺りではないようだ。

(もう少し進むか)

離れた場所で再度サーチを掛ける。

(見つけた!でもこちらは街道に近い。急がないと。)

現場まで駆け抜ける。

そこに居たのは通常の一▪五倍ほどのミヤゴース。面長の顔は犬に見えなくもない。三角にピンと立った耳と長い牙、短く揃った門歯はネコ科の肉食獣のそれである。細く短い尻尾は鼠の様だ。傍に人が倒れている。

(最悪だ、遅かった。)

直ぐ様ミヤゴースを拘束。

「バインド」

蔓が伸びミヤゴースの手足を、降り注ぐ光が重しの如く背を押し、地に張り付けた。そのまま剣で首を切り落とした。

「ウォールアクア」

返り血を壁で遮る。

魔法の属性を指定してやらないとさっきのバインドの様に使える属性が一度に発動してしまう。ただ、光と闇は同時には発動しない。

倒れている男性に一応治癒魔法を掛けてみようか。迷わず最上級の光魔法を選ぶ。

「ゼアフォース」

白い光が男を包む。光が男の体へと吸収されていく。光が全て入り込むと体自体が発光する。

光が消えると齧られ抉れていた腿がきれいに治っていた。良かった、まだ生きていたようだ。目は覚めないようなので左肩に担ぐ、右手でミヤゴースの後ろ足を掴む。

「フライ」「リープ」「アクセル」

大きな魔物から出血が続いているが血抜きをしながら移動していると思えば、時短の知恵に感じられる。

街の入り口に門番兵と衛兵が常駐している。彼らの中にこの人を見た者がいるかもしれない。私は入り口に下りた。

「すいません。」

「はい、なんでしょう。」

「これを倒す時にこの人が倒れてて保護して来ました。ずっと目を覚まさないし誰なのかも分からなくて。お預けしてもいいですか?」

「分かりました。こちらで保護致します。お疲れ様です。」

門番兵は、深く頭を下げる。

なんせ私のギルドタグはプラチナである。まあ、侯爵令嬢だと言っても同じだろうが。

「フライ」

引き摺るのが嫌なので少し飛ぶ。

獲物をギルドに届け新しい依頼を物色する。次は放課後なのでもう少し遠くても問題無い。報酬を受け取り、新しい依頼を受けた。

(急いで戻らないと!)

次は、お昼休みを挟むので授業には余裕だが、ダーとお昼を食べる約束だ。

食堂に入ると昨日の様子と打って変わって人でいっぱいだった。何処に居るのか分からない。

「ハニー、居た!」

ダーが先に見つけてくれた。

「ごめん、待った?」

「大丈夫だよ。何食べる?」

注文を済ませトレーを手にカウンター席の様な窓際の席に座った。

「さっきの講義はどうだった?」

「?ん?だらかブッチしたよ?」

「ブッチって何?」

意味を理解していなかったようだね。

「サボりってこと。」

「え?じゃあどうしてたの?」

ダーはとても不安気だが辞める予定なので成績も出席も気にしない。

「仕事。」

モグモグと行儀悪く話す。

「仕事?何の?」

「?ハンターギルドだよ?」

言わなかったかな?プラチナのタグを見せる。

「ぷ…プラチナ!」

私は頷いてニッと笑う。

タグを仕舞い、指を立てしーとすると食事を続けた。貴族の多いこの場所では私が強いことは内緒だ。ギロチン以外の処刑法にされれば対処が難しくなるかもしれない。

それにしても流石貴族の多い学校なだけあって学食とは思えない美味しさだ。久しぶりの実家の食事も美味しかったが負けていないと思う。しかも、一人前無料だ。貴族は払えても一般クラスの生徒に払えるかは分からない。分けて作ったり支払いの事を考えても無料にした方が人件費を削減出来る。その分、貴族家の入学費は高いのではないだろうか?

「このキノコのキッシュも美味しいよ?た、食べる?」

赤い顔をしてダーはフォークを差し出す。小さくされたキッシュが乗っている。恥ずかしいなら止めればいいのに毎度果敢に挑むダーは可愛らしい。そのカワイイに免じて私は口を開けた。

「うん、美味しいね。魚介類で出汁がとってある。凝ってるね。」

更に真っ赤のダーは頷くだけである。固まっているのでツンツンしてみる。反応がない。

「大丈夫?」

「え? ………なんか凄いね。」

「何が?」

「色々…」

「食べよ?」

「うん。」

ダーはフォークを暫く見つめ、何も乗っていないそれを食べた。

おい!


午後の講義は歴史だとそれを聞いただけで眠ってしまいそうだ。始まるまでまだ時間があるので講堂内に人は疎らだ。

机は離れているが椅子をくっ付け座る。

ダーが小声にして話す。

「ねぇ、ハニーはいつからハンターなの?」

「十歳からだね。登録出来る様になったらすぐに登録したよ。」

「それでもたった六年でプラチナ?」

「そうだよ~凄いでしょ~。」

ダーは頷き更に質問した。

「どうして内緒なの?」

「それは、」周りを見て

「今は内緒。」と答えた。

人が居るからだと気づいたダーはウンウン首を縦に振った。

案の定、講義は眠っていた。



───マーリオ視点───

今朝も昨日と同じ席に座る。

「おはようございます、お隣失礼してもよろしいでしょうか?マーリオ殿下。」

「おはようございます、マーリオ様。」

挨拶や、隣にやって来る面々は先日と変わりない。というのは面識の無い下級貴族が話し掛ける事は礼儀上あり得ないからだ。私から声を掛けられる事を待つ他無い。

「あぁ、おはよう、気にせず座ってくれ。」

講義の開始目前に入室して来る者が居る。件の侯爵令嬢だ。彼女は昨日とは違う席に着く。少し遠いな。

彼女は瞬く間に女性達に囲まれ見え無くなる。そして初めて自分がずっと彼女を見ていた事に気づいた。そんな自分の行動に少し恥ずかしさを覚えた。敢えて見ない様に意識して姿勢を正す。

講師が現れ令嬢の壁がゆっくり消える。見ない様に意識していたが、講義中に周りをキョロキョロと見ている彼女は愛らしくまた自然と視線は彼女に向かった。あちらこちらに目を向ける彼女は何かを探しているようだ。

(そうか!私か!)

彼女もまた声を掛けられるのを待っている一人なのだ。それなら次の講義が始まる前に挨拶させてやろう。私は優しいからな。

「マーリオ様、次は乗馬だそうです!一緒に参りましょう。」

「マーリオ様の馬術の腕前は評判ですから拝見するのが楽しみです。」

彼女に近づく前に周りの者に囲まれてしまった。

そんな事をやっている内に、彼女も移動を開始し、居なくなってしまう。しょうがない、昼にでも声を掛けてやるか。

昼休みに食堂に移動するが人が多く彼女を見つける事は出来ない。

どこに居る?ハートニー嬢。

「なんだ?マー何か探してんのか?」

「いや、何でもない。」

サフに問われ、また自分の行動を恥じた。

やっと見つけた彼女はいつも隣に居る男とトレイを手に歩いている。

(そうか、いつもあいつが邪魔しているのかもしれん!)

午後の講義では、彼女は机に突っ伏し堂々と寝ている。

そんな無防備な彼女を見ていて気が付く。他の男共も彼女を見ていた。

なんとも気分が悪かった。

しかし放課後になれば今度こそ話せるだろう。

「マーリオ殿下お話がございます。少々残って下さいませ。」

教員に呼ばれ話している間にハートニー嬢の姿は消えていた。



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