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「なぁ?金貸してくれ。貸してくれるよなあ?あ?」
「俺にも貸してくれよ、どうにもここじゃ足りないンだわー。」
「俺も、俺も、ダートウィン友達だろ?」
「いや、あの僕は…」
「ふう、やっと着いた。と思ったら。」
私は令嬢らしからぬ仕草で頭をポリポリ。
レベル上げの為に魔物の巣窟に出かけていたが場所が遠すぎた。慌てて飛行魔法で今日から入学の校舎まで飛んで来たのだ。現在レベル681だがまだ慢心したりしない。
私がレベル上げに没頭しているのには訳がある。
五歳の頃、母を失くしたショックで倒れた時、前世の記憶を見た。この世界はスマホアプリの乙女ゲームの世界の中だ。私は前世で山ほど乙女ゲームをしていて、特に推していたキャラが居るわけではないこのゲームのタイトルや攻略対象について覚えている事はない。ただ、ライバルの令嬢が斬首の刑に処され首の転がるシーンのスチルを見せられ、それだけを鮮明に覚えていた。その顔が母親の死に顔に重なる。一人を除き全ての攻略対象の終盤にそれは挟まれていた。それが、今の自分だと気付いた時には流石に泣いた。暫く落ち込んだがこの世界に魔法が存在していたので良策を求め、まずそれを学んだ。
我がビディポータル侯爵家は代々魔法を苦手としていたが、先祖はそれを打開しようと模索していたのだろう。魔導書は山ほど家にあった。
四大属性に加え光の魔法と闇の魔法そして無の魔法がある。それらを学び無の魔法の中に身体強化魔法を見つけた。この魔法が使いこなせたら私の首は護れるかもしれない。
そして、ゲームの様に『箪笥に仕舞う』が使えたのが大きい。ゲームの無料ガチャで貰った物が入っていた。特に気に入っていたわけではないこのゲームに課金した事はない。それでも無いよりましだ。なんせ、この『箪笥に仕舞う』は中が多いほどステータスが強くなる仕様だ。私は試しに中に適当な物を入れると少しステータスが上がった。高価な物を入れると大きく上がった。私は、家に有る物の殆どを『箪笥に仕舞う』した。そうしておき、私はレベル1になってしまった自分のステータスを上げる為、領地の田舎に引きこもり密かにレベル上げを繰返し行った。冒険者登録が出来る年齢に成れば直ぐ冒険者登録をし、お金を稼ぐようにもなった。箪笥に入れる物を買う為だ。
レベルが高くなっていくと魔力も上がり身体強化の魔法が使えるようになった。ゲームの仕様のお陰でレベルに上限がない。スマホアプリだ、課金させてなんぼ。上限なんてあったんじゃ一人のユーザーの落とす金額に上限を作るようなものなんだろう。お陰でやっと、まともにどの魔法も使えるようになった。
ゲームでは始める際にどの属性にするか選べるようなタイプのゲームだったように思う。選べると言うことはやろうと思えばどんな属性も使えるということなんだろう。だから魔導書にあった魔法なら全て使えるのだと理解することにしている。一般的には一人二属性くらいだという。
私は、まだまだレベル上げをしていたいが父に学校には行くよう求められた。父曰く不良娘の私だ。淑女教育も受けていない。こんな娘と結婚してくれる人を自分で探しなさいと入学を決められた。それでも、相手が見つかれば学校に行くのは止めてもいいと約束をとりつけた。
なので、今日からお相手探しなのだが、その辺の運命が既に乙女ゲームに引っ張られているようにも思える。結果、斬首刑不可避なのか?私の今のステータスでギロチンによりどの程度傷がつくのか、気になるところだ。
得意の飛行魔法でやって来たはいいが、どうもいじめの現場に降り立ったようだ。
「なぁ助けてくれるだろ?」
四人の男子生徒に壁まで追い込まれ、黒にライトブラウンのハイライトの混じった柔らかな髪の男子生徒は狼狽えている。
なんとなく、助けたくなった。
「何?お金貰えるの?私にも頂戴。」
片手を伸ばしグーパーして見せる。
いじめっ子達はしかめ面でいじめられている方は相変わらず狼狽えている。いじめっ子が増えたと思っているんだろう。
「あなた、皆にお金配ってるの?優しくてお金持ちなんだね!結婚して!」
「なんだ女、すっこんでろ!」
「俺達に勝手に話し掛けていいと思ってんのか!平民が!」
「…結婚。」
「は?何言ってんの?わたしは侯爵家の一人娘ですけど?あんたこそ誰なの?」
「侯爵家っ!」
「う、そつくなお前なんか何処でも見たことないぞ!」
私は確かに茶会もパーティーも一度も参加した事はない。それも父が不良扱いする原因だ。
「何だ、嘘か。びびらせんなよ。平民が貴族の振りをするなんて重罪だぞ!」
おや、いきなりギロチンフラグか?全く、嫌な世界に転生したものだ。
「いいえ、わたしはビディポータル侯爵家のハートニーです。で、そちらは?」
ちゃんと高位貴族家の者に名乗られ逃げることの出来なくなったいじめっ子達は渋々名乗るしかない。その辺り私よりちゃんと教育を受けてきたのだろう。
「オンオード家のセルゲイです。」
「フォレストガーデンのゼイルです。」
「トールマン家のベイメントです。」
「グリーンレイク伯爵家のペグウェルだ。」
爵位を名乗ったのは一人だけだ。全く勉強をしていない私には家名を聞いて爵位が分かるなんて事はない。全て初めましての名前ばかりである。まあ、どうでもいいか?
「そう、大変だね。グリーンレイク家とトールマン家?それとウエストガーデン家?後何か。皆、貧乏なんだね。働かないとね?」
「フォレストガーデンだ!」
「家は貧乏ではない。」
「我が家もだ!酷い誤解だ!」
「お金が欲しいって言ってたじゃない!ねー?」
いじめられている男子に同意を求めるが、焦点が合っていないようだ。
本人がその調子なので逃げるチャンスと見たのか、
「これで失礼します。」
「あぁ、今日の事は忘れてくれ。」
いじめっ子達は去って行った。
残された男子生徒に向き直る。焦点の合わない目は眼鏡を忘れて来たかのようだ。しかし、それが小動物の様な見た目と相まって可愛らしい。
「あの、先程の申し出、謹んでお受け致します!」
彼は勢い良く頭を下げた。サラサラの髪も一緒に下がる。
「?何かしら?」
「あの、、、結婚のお話。」
彼は真っ赤になってそう言った。
あ~。あ?そんな事言った?う~ん、でも好都合です!学校に着いて直ぐお相手が決まるとは!ラッキー過ぎる!最早、こんな学校なんかに用は無い。
「そうだね。よろしく。」
私は逃がすまいと手を握る。捕まえた!
「わたしはハートニー。あなたは?」
彼は赤い顔で握られた手を見つめている。彼はそのまま応えた。
「ダートウィン、です。」
「そう、ダートウィン、ゆっくりお話しないとね!何処か良い場所はない?知ってる?」
「談話室があるそうですが、何処に在るか分かりません。ごめんなさい。」
「じゃあ、探そ!そんな事で謝らなくてもいいしね。」
二人で歩き探したが、見つけたのは談話室ではなく食堂だった。人が居ないので此処に決めた。適当な椅子に座る。
「あの、入学式があるんだけど。」
ダートウィンは言いにくそうにおずおずと発言した。
「私もだけど?いいのいいの!そんなのは、それよりダートウィンのお家の名前は?」
「これは失礼しました。スタリオン男爵家三男のダートウィンです。」
「そう、三男?正直、助かる。婿養子に入って貰わないと困るからね。」
「はい。ビディポータル家はご令嬢がお一人だと聞いています。」
「へー、そんな話何処で聞くの?」
「パーティーなどでですかね?」
「面白くなさそうだね。」
「まあ、確かに面白くはないです。」
ダートウィンは気まずい思いが顔に出ている。彼も貴族には向いていないのかもしれない。静かな広い空間はだれも居ない。
「直ぐにでも父に会って欲しいんだけどいい?王都に居るから今からでもいいわよ?」
「はい、それは勿論です。ご挨拶申し上げたく思います。」
「そんなに畏まらないでいいし、敬語も要らないから。もっと楽にして!」
私は出来る限りにこやかに言った。どうせ結婚するなら仲良くしたい。
「分かりました。」
私は業と口を尖らし全然分かってない事を無言で責める。
「わかった?」
確かに敬語ではない。疑問形だが、私は首肯してみせる。
「ダートウィンは勉強は得意?私は勉強する気はないって言うか、やる時間が無いって感じで、領主の仕事については全面的にダートウィンに任せたいの。」
「そうなんですか?僕は一緒に頑張っていきたいと思いますが。ハートニー様がそう望むなら頑張ります。それと僕のことはダーとお呼び下さい。」
なんですと?いきなりダーはハードル高いわね。でも、ダートウィンは周りにそう呼ばれているのかもしれない。それに領地経営の勉強は頑張ってくれると言っているのだ、自分の要求ばかり押し付けるのは良くない。結婚自体、高位の貴族からの申し出に断れなかっただけかもしれない。よし、そのくらい受け入れよう。
「わかった、ダーね。領地経営はよろしく。」
ダーは顔を赤く染め
「で、では僕はハニーと呼んでもいいですか?」
そう勢いに任せ言い放った。どうやら確信犯である。やられた。小動物のような彼は案外面白い人のようだ。
窓の下に広がる中庭に人々が放出され、皆何処へ向かっている。
「入学式が終わったようだね。僕たちも教室に向かおうか、ハニー。」
ダーはそう言うが顔を真っ赤にしている。恥ずかしいなら止せばいいのに、一体何でそこに拘ろうとしているのだろう?
「別に此処でいいよ?」
「でも、僕はちゃんと勉強を頑張るつもりだから。」
そういう事か、なら行かないとね。私が頼んだんだし。
「そっか、じゃあ行こう、ダー。」
集団を追うように食堂を出た。
新入生は六十人程のようで二クラスである。人数のバランスが悪いように思うがダーと同じクラスのようである。
「よかった、同じクラスなんだね。」
「うん、クラスAは貴族クラスだよ。知らなかったの?」
「そう私何にも知らないんだよね。」
興味が無く事前に聞いておくような事も一切聞いていないのだ。まあ、今日限りでこんな所にはもう来ないし構わないだろう。ダーのおかげだよ、ホント。
講堂に入るとあのいじめっ子達も居た。全く、貴族に生まれたくせにつまらない事をしよってからに。しかしお陰で私は早々とお相手をゲットさせて貰った。なので今後変な事をしない限りは仲良くしてもいい。
講堂は大きめの机が均等に並んでおり部屋が広いからかお隣がそこそこ遠い。教科書を忘れたら地獄を見るレイアウトだ。私たちは隣に座り前を見た。入学式に出ていないので初めて見る顔ばかりだが、それはきっと私だけ。普通はパーティーやお茶会など親に付いて行きある程度は顔見知りなのだろう。小さいグループが出来ている。
前方の壇上に初老の華奢な女性と若く見目のよい男性が登りホームルームが始まる。男性は女性のアシスタントのようだ。あの女性が一人では思うように進められないのだろう。大変そうだ。配布物をアシスタントが列毎に分配した。列の先頭が後ろに配り歩く。机が遠く、後ろへ順に送るような事はしないようだ。
「ダー、これは何?」
紙をヒラヒラと隣に訊ねる。
「どれ?あ~家庭学習進捗状況だよ。」
「そんな事聞いてどうするの?」
「生徒会などの参加や欠席可能日数がこれで決められるんだ。」
「へー、私書くこと無いんですけど。」
全く教育を受けて来なかった私が書ける事は皆無である。
「え?侯爵家なのに?」
ダーは驚愕を隠さない。でも馬鹿にする風ではないのが好感が持てる。彼はただ素直なんだろう。
「うん、面目ない。」
ダーは素直に笑ってくれる。良い関係が築ける気がした。
ホームルームにオリエンテーションは自分に関係無いとばかりに話は右から左。飽きていたが、王都の冒険者ギルドに何かいい依頼があるかもしれないと思えば乗り越えられた。
ダーは真面目にやっている。真剣な眼差しはなかなかに男前である。
予定が終われば、今日は自由だ。直ぐダーを連れ実家へ帰った。久しぶりの家だ。脳裏に母の姿が蘇る。
「お嬢様、お帰りなさいませ。」
「ただいま。久しぶりだね、みんな元気?」
「私しどもは変わりありません、ハートニーお嬢様こそお元気ですか?」
迎え出た家令は気遣わし気にそう訊ねる。家の大半は私が母親を亡くし失意の上、領地に引きこもったと思っている。
「問題ないよ。それより、お父様居るかな?」
「はい。執務室においでです。」
「そう、じゃあ行こう、ダー。」
「お嬢様、こちらのお客さまも執務室に行かれるのですか?」
「うん、お茶をお願いね。」
「畏まりました。」
礼をするが私達が先に進むまでそこに控えているだろう。だから、とっとと行ってあげないとね!ダーの手を取り引っ張り歩く。ダーはしっかり自分の足で歩いており足取りが重いなんて事はないようだ。
「コンコン」
ノックをすれば
「入れ。」
短く返事があったので扉を開けた。
私に気付かず仕事に没頭しているが「お父様。」
呼び掛けると驚愕する。普通、娘に呼ばれただけで驚愕する父が居るだろうか?
「何だ?入学式ではなかったか?」
「えぇ、そうよ、そこで紹介したい人が出来たので連れてきたのよ。」
「なに?!」
私は一歩ずれダーを手で指した。「お初にお目にかかります、侯爵様。スタリオン男爵家のダートウィンです。以後、お見知り置き下さい。」
「ビディポータル侯爵のウォルディンだ。さぁ、掛けなさい。」
父は挨拶をされたので反射的に挨拶を返しただけでまだ驚愕から覚めていない様子だ。座るとお茶が用意される。
「下がってよい。」
「失礼致します。」
「お父様、ダーは私と結婚してくれるそうです。」
「なにっ?!」
婚約の話をハートニーから切り出した事がウォルディンの気に触ったのではないかと焦ったダートウィンはハートニーを制するように
「ハニー、僕から。」
そう言った。
「ハニー?この不良娘が!!!」
父はどうやら、自分の娘をアバズレ扱いのようだ。酷くご立腹である。
「面白い人でしょ?」
すっかり畏縮しているダーにそんなに重く捉える必要などないと和ませるつもりで言った。
「全く面白くないぞ、この不良娘め!」
本人が面白い必要なんかないと思ったがダートウィンが意を決し
「お嬢さんと結婚したいです。お願いします。」
と勢い良く言い放ち頭を下げた。「良かったね、お父様。お相手が見付かって。じゃあ明日から行かないからね、学校。」
「「え?」」
二人して私を見た。何を今更?その為に学校に行かせたんでしょうが?
「約束でしょ?」
父を睨め付ける。父は、私が強い事を知っている上、自分の言う事を聞かないと分かっているので必要以上に怯える。
「僕はハニーとの学校生活楽しみにしてたんだけど。」
ダーがそう呟くと父は態度をガラリと変えた。
「おー!ダートウィン殿は良い事言う。二人の結婚を認めるから、後、一二ヶ月は学校に行きなさい。婚約が国に認められるまではそれくらいは掛かるだろう。二人の思い出が有るのと無いのとでは結婚生活も違って来るだろう。」
「ありがとうございます!やったね、ハニー!」
父の態度は気になるがダーが喜んでいるし一二ヶ月ならまぁいいだろう。その間は、王都の近場で狩りをして学校では身体強化魔法の鍛練に費やすとするか。
「わかった、その代わりさっさと申告申請済ませてね。でないと城を壊すわよ。」
もう一度父を睨め付けておいた。父の様子がおかしいので脅しは必要だ。
「あ、あぁ勿論だ。そうだ、なぁダートウィン殿夕飯を一緒に食べようじゃないか。」
あからさまに話を反らしたような、ダーを手なずけようとしているような、ただ怯えているような。変な態度に絶対何か有ると思わずにはいられなかった。
───ダートウィン視点───
今日から入学式だと言うのに、朝から変なのが群がっていた。
「なぁ?金貸してくれ。貸してくれるよなあ?あ?」
「俺にも貸してくれよ、どうにもここじゃ足りないンだわー。」
「俺も、俺も、ダートウィン友達だろ?」
彼らのことは幼い頃から知っている。実家の家業と取引の有る家の次男三男。家で扱っている馬は高級で彼らの様な家を継がない者達が買える代物ではない。我が家の始まり事態王家に名馬を献上してから始まっており、我が家の馬は貴族の間では憧れである。だからといって、三男のいずれは平民になるしかない息子に小遣いをたんまり与えるなんて事はない。だいたい馬の育成には金が掛かる。高く売るがそれまでに大金が掛かるのだ。
「いや、あの僕は…」
お金なんて持っていないと口にしようとしたが、視界の端に女の子が見えた。赤茶色のたっぷりとした長い髪が緩やかなカーブを描き大人びて見える。新しげな制服に収まったのが奇跡と思える程、大きな胸は今にもはち切れそうだ。全く化粧っけの無い顔でこれ程目鼻立ちのはっきりしている人がいるのか?きっと男性に生まれていても男前だったに違いない。そんな美人を見て言葉に詰まった。
金を必要としているのは僕も同じ。彼らも僕も良縁を見つける為に、出来れば高位の貴族と縁を結び少しでも良い就職先を探す為だ。高位の貴族なら、女性であれ男性であれ付き合いには相応の金が掛かるだろう。
だからと言う訳では無くあの女性の前でお金がないと言いたくなかった。ただの見栄である。
「何?お金貰えるの?私にも頂戴。」
彼女は手を差し出す。
これはお願いしますって事かな?握ってもいいのか?そんな事を考えていると体が熱い。
「あなた、皆にお金配ってるの?優しくてお金持ちなんだね!結婚して!」
今、言ったよね?確かに、確かに言った、
「…結婚」
と。
いいのか?どこの誰だか分からないけど、彼女が凄い貧乏していたとしてもこんな美女が僕の奥さんだったらそれだけで僕は…。
「…わたしはビディポータル侯爵家のハートニーです。…」
侯爵家!こんな美女が更に侯爵令嬢とか、引く手数多に違いない。
と言う事は今を逃せば、僕にチャンスは二度と来ない。冷静に考えよう、いや無理だ、ますます混乱していく。彼女が他の人と一緒に居るそう思い浮かべるだけで頭が拒絶に割れてしまいそうだ。
「グリーンレイク伯爵家のペグウェルだ。」
何故名乗る、お前も彼女を狙っているのか?嫌だ、許さない。僕がこの人と結婚するんだ。
「あの、先程の申し出、謹んでお受け致します!」
なんとか、伝えた。これで上手くいけば。
「?何かしら?」
ダメか?
「あの、、、結婚のお話。」
「そうだね。よろしく。」
やったのか?喜んでいいのか?
彼女の温かい手が僕を掴んで引っ張る。凄く強引で力強い。
こんな美女にこんなに強く求められるなんて。きっと彼女は僕の事ずっと好きだったんだ。だから助けてくれたし、結婚なんて言い出して。彼女の温度に色んな妄想が膨れ上がり談話室など正直探していなかった。彼女の思いに応えないと!男なんだから、女性の夢を叶えてあげなくちゃ!
「で、では僕はハニーと呼んでもいいですか?」
いつも叔母が叔父をダーと呼んでいた。初めは自分の事を呼んでいるのだと思っていたが、叔父はハニーと呼び僕の母が
「もう、子供の前で止めて頂戴!うちの息子があなた達みたいになったらどうするの!」
咎めていた。
「何よ、姉さん、自分が大事にされてないからって私に当たらないで!」
「なんですって!」
「あら、いつも言ってたじゃない、馬と私のどっちが大事なの!ってね。」
母と叔母のいつもの言い争いである。ハニーと呼ばれている女性の方が大切にされているのだ。そう僕は知った。父は確かに馬程の愛情を母に見せたことがないように感じていた。あぁ、なってはいけない。僕は、僕を選らんでくれた彼女を心から大切にしたいんだ。さっきの拗ねたような顔も可愛かったが、ハニーと呼べば笑ってくれる彼女も可愛いい。よし、これで正解だ!
「ハニー?この不良娘が!!!」
お義父様は怒ってしまった。どうしよう怖い。
「面白い人でしょ?」
ハニーはそれを面白いと言っている。面白いかなぁ?ハニーの感覚はちょっとずれてないだろうか。
「全く面白くないぞ、この不良娘め!」
そう、面白くない。お義父様は怖いがハニーより僕の感覚と近いのかもしれない。それならいつか仲良くなれるだろう。
「お嬢さんと結婚したいです。お願いします。」
と言って頭を下げた。
「良かったね、お父様。お相手が見付かって。じゃあ明日から行かないからね、学校。」
「「え?」」
なんだかお義父様のお相手のような言い方だ。しかも学校に行かないとは?
「約束でしょ?」
何か事前の取り決めがあったようだ。勉強は確かに嫌いなようだったが、同じ校舎講堂に居ればそれだけで楽しいと思う。こんな僕が恋人と学校生活を送れると思うだけで人生薔薇色だ。
「僕はハニーとの学校生活楽しみにしてたんだけど。」
僕がそう呟くと
「おー!ダートウィン殿は良い事言う。二人の結婚を認めるから、後、一二ヶ月は学校に行きなさい。婚約が国に認められるまではそれくらいは掛かるだろう。二人の思い出が有るのと無いのとでは結婚生活も違って来るだろう。」
お義父様はそう認めてくれた。
「ありがとうございます!やったね、ハニー!」
お義父様と早速仲良くなれそうだし、もう怖くない!
「わかった、その代わりさっさと申告申請済ませてね。でないと城を壊すわよ。」
ハニーも学校に通ってくれる。
城を壊すってなんだろうな?
「あ、あぁ勿論だ。そうだ、なぁダートウィン殿夕飯を一緒に食べようじゃないか。」
「はい。ご相伴に与ります。」
僕はすっかり家族の気分で
「ハニーの部屋を見てみたい!」
そう言った。言ってしまった。少々後悔したがしょうがない。
「私の部屋?何も無いよ?いいの?」
「うん、いんだ見てみたいだけだし。」
侯爵家の令嬢がどんな生活をしているのか、彼女がどんなものを好むのか知りたかった。
彼女の部屋は本当に何も無かった。