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第22話 混沌の高揚

作品に目を通していただき、ありがとうございます。

作者のモチベーションと、作品を継続するか否かに関わるため、よろしければ評価、ブックマーク登録、お気に入り等お願いします。

当初の目標は話数=総合評価(10話=総合評価10pt)でしたので、なるべくそれに近づけるよう、支持していただければ作者冥利に尽きます。


気力が完全に失せたので、20話以降の投稿は不定期更新です。

3/14、3/15に諸用があり、他にも短編小説に時間をかけていたので、1週間ほど投稿できませんでした。

誰にも読まれていないので、これからも投稿頻度は上げません。

動脈にまで達した一撃に視界が霞み、意識が次第に薄れゆく。

肘鉄を喰らわせるも突き刺さる針は、動くほどに奥深くに食い込んだ。

生命を守ろうと反射的に体が、逆に生命を脅かす。

全身から垂れ流された汗が蒸発したせいか肌寒さを覚え、死が足音を立てて迫るのを感じた。

ただ彼にも対抗手段がないわけではない。

……この唄だけには頼りたくはなかったが。

普段は自身と仲間の身を考えた安全思考で、無駄なリスクを取るのを避けてきた。

危険に晒す愚策に頼るにもいかず、実際に選択は正しかっただろう。

しかしエンバーもセスもいない今ならば。

痛みと出血で頭が回らないせいか、脳のリミッターが外れた彼は目を見開き、喉を枯らさんばかりに咆哮し


「……披露してやるよ……特等席の観客に……とっておきを……な……」


危機に瀕したトマスが不敵に微笑む。

すると怪物は絶対の優勢を手放し、彼から離れた。

血塗れの男が苦し紛れに、負け惜しみを言っただけとも取れる状況。

咳き込むと吐血し、口紅を塗ったかのようにトマスの唇が赤く染まり、瀕死なのは火を見るより明らかだ。

だが吟遊詩人の歌唱がただならぬ力を有するのは事実―――ただのハッタリではない!


「させるか!」


魔人は間髪入れず飛びかかる。

狙いはトマス自身―――ではなく、彼の持つリュートだ。

それさえ壊してしまえば、吟遊詩人としての力は発揮できない。

魔物の判断は理に適った最適解であり、だからこそ


「……有り難いね……乗り越えてきたんだ! こんな危機は何度もな!」


トマスはその行動を読んでいた! 

魔物に背を向けて、楽器を抱える丸まるよう屈む。

動物の自己防衛にも見られるように、人間にとっても首や顔などの守る為の有効な手段。

だか致命傷を負ってから、単純な時間稼ぎなど無意味だと?

勝利を確信した人形は侮蔑するように、口角を片方吊り上げた。

だがしかし振り返るトマスの瞳には、生命の灯がぎらぎらと燃え滾る。


「……あんま《コッチネラ・ディアボルス》の冒険者、舐めんなよ化け物!」


そういうと彼は魔物の両足を掴み、身体を捻んで、勢いのまま進行方向に向かって投げ飛ばす。

受け身が取れず負傷した怪物が地面に突っ伏すと、心の臓が刻むビートにも似た、血が沸騰するかの如き、アップテンポな曲が周囲に木霊した。

〝混沌の高揚〟。

メタモルフォシスの理そのものを表す、闘争と自然、個人の理念と多様性を尊重した、混沌に生きる冒険者の唄であった。


「果てなき空と 母なる大地 

人知拒む海洋も 暗黒の宇宙までも

総ては 混沌が育みし幼子なり


闘争なくして 歓びはありえぬ

血沸き肉躍る 究極にして 至高の一時に

己が魂は磨かれよう 己が産まれた意味を知ろう


汝の理 決して揺るがされること勿れ

万人が汝 侮慢(ぶまん)しようとも

無為なる生命 地に落とされず

故に全霊をもって 鼓動震わせよ 混沌の先導者


たとえ汝 永逝の常闇に 呼ばれても

魂は 我がかいなの元へ」


歌い終わると同時に立ち上がる人形。


「手負いの人間に、何ができるゥ!」


駆け寄った彼女へトマスが右手の短刀を一閃―――突き出された怪物の両の腕は、ぼろぼろと崩れ落ちていく。

どこだ、どこを壊せば完全に動きが止まる?

疑問符を浮かべた彼に


「神である私に善戦したのは褒めてやる。だがここまでだ! アッヒャヒャヒャ!!!」


首が胴体から分離され、再びトマスの弱点へ狙いを定めた次の瞬間


「やれやれ、トマス君。ずいぶん無茶をしますね」

「無様ですわねぇ、矮小な魔物にやられるなんて。弱っちい男にわたくし、興味はなくてよ。オーッホッホッホ!」


聞き慣れた低い響きと甲高い声に、トマスの表情は晴れやかになっていく。

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