第21話 絶対絶命
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気力が完全に失せたので、20話以降の投稿は不定期更新です。
迫る神を名乗る女に腰から短刀を抜いたトマスは、姿勢を低くして構える。
形振り構っていられない。
何とかしてエンバーの元へ急がねば。
「ゲギャギャッ!」
奇声を上げて迫る女に彼は右手のナイフを突き出す―――が読んでいたのか身を翻し、ひらりと躱した。
伸ばした腕を掴んで大きく口を開く女に、トマスはすかさず左の正拳を叩き込む。
人の肌とは思えぬ金属のような感触に違和感を覚えるも、魔人は怯んだのか後ろ飛びした。
トマスも深追いはせずに、再度迎撃に備える。
彼に近接戦の心得があるのを悟った怪人は距離を取り、獲物の一瞬の油断を狙う野獣が如く、じりじりと間合いを詰めていく。
それを見て予想通りに事が運んだトマスは、ふっとほくそ笑む。
「結局、俺はただの吟遊詩人。皆に唄を聴かせるのが本分だ。敵だろうが関係ない、安らかに眠らせてやるよ」
主張すると襷掛けのリュートの弦に手を掛けた。
彼の得意とする魔法の唄はよほど遠くでなければ歌声が届き、曲に応じた効果をもたらす。
人語を解する点や後方へのジャンプから判断するに、人と相違ない知性があるのだろう。
二度も同じ手は通用しない。
ならば最も信頼する曲に、自らの命運を託そう。
魔力を秘めた唄に青年は、自らの作詞した言葉を紡ぐ。
「暗闇の安寧に 身を委ね
憤怒 憎悪 手放したのなら
現実と夢の 狭間 揺蕩い
碧天の海 宇宙を超え どこまでも
いけるさ 自由の世界に」
〝生きとし生ける者への揺籃歌〟
生物の睡魔を誘う曲で、ゆったりとした旋律が生物の子守唄となる。
だがしかし女は目を擦るような仕草すら見られず、トマスは首を傾げた。
いったいどういうことだ。
「馬鹿めぇ! 睡眠など必要としない私には、その唄は無意味だぁ!」
(眠らないだって?! まさかこいつ、人でも動物でもないのか!)
やっと気がついた彼は即座に唄を中断し、魔人に目を向けたまま後退りする。
けれども間近にまで接近した化け物には、無駄な抵抗でしかなかった。
怪物が地面を蹴り上げると頸へと噛みつかれ、トマスは絶叫する。
たった1つの失敗が、彼の生命を死の淵へと導こうとしていた。




