第18話 災いあれ、呪いあれ
白肌に映える呪刻人の蛇を彷彿とさせる模様の呪痣は、地を這うが如く蠢く。
まるで生命を宿すかのような薄気味悪さに狩人は弓を構え、体を震わせた。
「それ以上近づくな、でないと俺はアンタを撃ち抜くぞ!」
「おい、セス。別に喧嘩腰にならなくたって……」
先ほど殺されかけたせいで、過敏になっているのだろう。
呪刻人の方も積もり積もった憎悪のせいか、腹を立てているのが見て取れた。
冷静に話し合うには、どちらかが鉾を収めなければならない。
トマスは狩人に言葉を尽くすも、聞き入れては貰えず
「……やはりお前たち人間は救い難いな。ならば致し方あるまい。敵意抱く者へ災いあれ、呪いあれ」
掌を突き出した呪刻人が呟くと、紫の瘴気が彼の呪刻から溢れ出す。
野生の獣に似た鋭く、冷たく、深い絶望を内に秘めた瞳に睨まれたセスは、突如として膝から崩れ落ちた。
彼の肌からも呪刻人と同様の呪痣が浮かぶと、体中から汗が噴き出す。
うつぶせに倒れた青年に、トマスは意識を繋ぎ止める為に必死に叫び続けた。
「おい、これはテメーの仕業か」
エンバーが問い詰めると
「貴様らと話すことなど何もない! 我々呪刻人が、どれだけお前たちへの憎悪を燃え滾らせているか! わかるまいな、加害者はすぐに忘れ、正当化するものだ。これはほんの警告。命が惜しくば樹海から失せろ」
「ずいぶん被害者ぶってるがお前、あの馬鹿に呪いをかけたな。今のお前は立派な加害者だ」
冷静に罪を指摘したエンバーの台詞にも悪びれず、呪刻人は平然としていた。
人間を嫌い憎むがあまり呪刻人自身が、憎むべき人間と同類になる。
まさに彼は憎悪の連鎖の象徴であった。
「ああ、そうだ。恨んで何が悪い。嫌って何が悪い。お前たちが先に我々に悪罵を浴びせた。排斥だけでは飽き足らず、我々の尊厳をも傷つけるのなら……ここで死ね、冒険者!」
「……そいつを連れて逃げろ、トマス。呪刻人は私が引き受ける」
「いや、俺も協力して……」
吟遊詩人が戦闘への参加を表明するも
「お前は足手まといだ! それに早くその馬鹿を拠点まで運ぶのが先決だろう。さっさといけ!」
「……任せた、エンバー!」
叱責されたトマスは、指示通りに狩人を背負う。
死と隣合わせの冒険者は軽鎧に鞄など、装備品やアイテムだげで結構な重量になる。
加えて彼の弓も運ばねばならないせいで足取りは重く、老人のような歩みで彼は進む。
襲われればひとたまりもないが、トマスはエンバーの方を振り返ることはない。
彼女ならきっと、この場を切り抜けてくれると。
「よほど仲間思いらしいな、巨人の冒険者」
「冗談だろう? お前を殺すのは私一人で充分。弱い奴らがいなくなって清々するぜ。来なよ」




