第17話 呪刻人(カースマーカー)現る
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「危ない、後ろだ!」
とっさに叫ぶトマスに、狩人は眉を顰めた。
急に何を言い出すのやら。
ぽかんと開いた口からは、セスの本音が漏れ出ていた。
吟遊詩人は一心不乱に駆け寄ると
「キャハハ!」
「え?」
後ろを向いた狩人はトマスの注意が真実だとわかるも、悲しいかな。
人の状況判断はタイムラグが生じる。
時間に換算すれば1、2秒にも満たない硬直も、戦場においては致命的だ。
絞殺魔がその隙を見逃しはしなかった。
「お、おおお、うぐ……」
「ヒッヒッヒ!」
首へロープを回し、兎面の狂人は一気に引っ張る。
すると呼吸が止まりかけたセスは、言葉にならない呻きを上げた。
縄と首の間に指を入れ、何とか抵抗を試みるも、苦悶の表情を浮かべたままだ。
充血した瞳で歯を食いしばり、セス青年はある目的の為に生へとしがみつく。
「おい、お前。セスを離せ! 何が目的だ!」
兎面の男は嘲るように体を揺らす。
こちらの呼び掛けは無駄のようだ。
どうすれば彼を助けられる、悩んでいる間にも彼は……
「よせ、トマス。あれに話は通じねぇだろう。そういう時はよ、こうすんだよッ!」
そういうとエンバーは剣を逆手に持ち―――そして投槍のように勢いよく足を踏み込み、大きく腕を振りかぶったのだ!
片腕の膂力とはいえ、巨人族の力は人間の比ではない。
「ギャッ!」
兎面の男が驚きの声を上げた直後、銃弾と見紛う速度の鉄塊はいとも容易く頭骨を砕いた。
透明な脳漿を撒き散らし息絶えた狂人を足蹴にし、エンバーは冷笑する。
「人殺しの末路にはお似合いだな」
「……ゲホッ、ゴホッ! お、お、お前なぁ。俺に当たったらどうすんだ、馬鹿ぁ!」
「助かったんだからいいじゃねぇか。バーカ」
取り乱すセスへ頬を膨らませ悪態をつき、それを眺めていたトマスは軽く笑む。
一時はどうなるかと思ったが、無事でよかった。
ほっと胸を撫で下ろすと
「あの部族からの注意喚起は真実か。樹海の住民が殺気立ち、蛮行に猛り狂っている。許すまじ、侵入者共!」
一行の前に顔中に黒の刻印が刻まれた男は、眉間に皺を寄せ、怒りを露にした。
唐突な来訪者にトマスが
「あ、貴方は?」
と漏らすと、彼は言い返す。
「俺はお前たちが呪刻人と呼び、忌み嫌い蔑んだ者だ」
呪刻人 カースマーカー
種族·人間
アライメント 混沌·中立
邪悪な黒魔術師により、体に呪いを刻まれた人物の総称。
呪刻、呪痣などと呼ばれる刻印は、怒りや悲しみの感情に呼応して浮かび上がり、カースマーカーの持つ呪術的な力を大幅に増幅させる。
不幸に見舞われたにも関わらず、周囲からは化物の如く扱われ、最悪の場合は邪悪な呪術師と同一視されてしまい、歴史中で迫害の対象となった。
意図せず人を傷つける体質となった彼らは、安息の地を求め、この船に流れ着いたのだろう。
調査隊へ敵意を剥き出しにする者もいれば、争いを好まない安寧を望む者もおり、月並な言葉だが人それぞれの反応を示す。
どちらにせよ共通するのは、彼らが共に助け合うことこそ唯一の救いという点だ。
「薬草師に携わる者として、彼らを救えないのが心苦しいね」
「あれ、ジェレミー衛生隊長。らしくないですね~。でも格好いいかも〜」
「……フッ。また1人、恋の沼に墜としてしまったか」




