第12話 静寂破る悲鳴
作品に目を通していただき、ありがとうございます。
作者のモチベーションと、作品を継続するか否かに関わるため、よろしければ評価、ブックマーク登録、お気に入り等お願いします。
当初の目標は話数=総合評価(10話=総合評価10pt)でしたので、なるべくそれに近づけるよう、支持していただければ作者冥利に尽きます。
狼面の男が不吉な予言のようなものを、ライリーらに言い残すこと早数日。
青年は警戒を強めていたが別段何事もなく拍子抜けし、神経質な性根が眉を寄せた。
異界の口承、想念の姫。
何が何やらわからぬことだらけだ。
しかし狂人の戯言と切り捨てるには、狼面の男の発言はあまりにも理路整然としていた。
明確な殺意を向けた相手を、侮ってはいけない。
拠点の周囲の巡回を緩めた瞬間を、狙うのは充分あり得る。
「警備ごくろう。船の出入り口の扉に異常はないか?」
「はい、問題ありませんでした」
「うむ、休憩して明日の巡回に備えてくれたまえ。いつもありがとう」
部下へ感謝を告げたライリーは野営地に入るや否や、報告用の羊皮紙を睨み、羽根ペンで顛末を書き綴る。
・船の扉を開けた後、未知の樹海へと到着。
・樹海には数多の魔物がおり、我々調査隊に敵対。
・遭遇した狼面の男が、想念の姫と呼ばれる謎の存在に言及。実在は確認できず。
事実を列挙しているが、どうにも嘘臭さが拭えない。
これではまるで女子供が読む、冒険小説ではないか。
「実際に確認するまでは、絵空事と思われるだろうな」
連れられた上官の驚く樣を想像し、青年は一人笑みを零す。
すると突然、戸口が開かれた。
ジェレミーだ。
「貴様は礼節を欠いているな。ドアを叩くなりできんのか」
「いいじゃん、俺と大尉の仲だしさ〜。駄目?」
「私は忙しいのだ、世間話に構う暇はない。用がないなら……」
遮った青年に
「調査した樹海の植物なんだけど、有毒な種類ばかりだったね〜。茸に関しても、ほぼ一緒だった」
「植物はほぼ有毒か。塩漬けで毒抜きし食用にできる茸などもあるだろうが、如何せんリスキーだ。一から作物を植えるにも、時間を要する。暫くは手間のかからぬ魔物の肉を天日干しにし、主食にするのがよかろう。植物の可食部や食用の茸は、リストへまとめておくように」
報告を受けた青年は、口を尖らせて息を吐く。
疲れか、落胆か。
はたまた狼面の言葉が気掛かりなのか。
ジェレミーはライリーを励まそうと、腕を広げてジェスチャーを交える。
「落ち込まないでよ、大尉。毒は良薬になるっていうじゃんか。薬の心配はいらなそうだよ〜。俺ら裏方の働きに感謝してくれよな、ニシシッ」
「ああ、君たちのお陰で戦闘でも多少は無茶が効く」
青年の一言を耳にし、ジェレミーは頻りに瞬きした。
信じられない様子の彼に続けて
「……と、君の部下に伝えておいてくれ」
悪戯っぽく微笑した。
「素直に褒められないもんかね〜」
「普段の素行が悪いのだから、君は……」
ライリーが言い返そうとした時
「頼む、衛生班か回復魔法の使える者を呼んでくれ」
怒声にも似た叫び声がして、ジェレミーはすぐさまテントを飛び出す。
青年が追いかけると彼は
「大尉が2人?!」
と、ライリーと瓜二つの姿の男を交互に見遣った。
苦悶する緑の帽子の冒険者を抱きかかえた瓜二つの男は、青年を視界に入れたと同時に呟いた。
「……兄貴」
と。
語り継ぐ者 トマス・グレイ
職業·吟遊詩人
種族·人間
MBTI:INFP
アライメント 混沌·善
ライリー大尉の双子の弟で見た目が瓜二つな、冒険者側の主人公。
大陸の古参冒険者ギルド《コッチネラ・ディアボルス》で、日々忙しなく任務をこなす青年。
兄とは違い大人しく温厚だが、胸に理想を抱き、頑固な面は一緒。
兄と自身の体験した出来事から、ライリーの冒険者嫌いには理解を示すも、嫌味や小言に関してはしっかりと言い返す。
ちなみに彼のギルドは、山羊の角にコウモリの翼膜を生やした、非実在のテントウムシがシンボル。
しかし
《軍や自警団のように法に雁字搦めにならず、冒険者の立場で自由闊達に行動し、雇用主との契約に基づき、帝国に秩序をもらたす、悪魔に等しい存在》
というまっとうな意味合いがあり、混沌を総べる神メタモルフォシスの加護を受ける、混沌の属性を有した冒険者が数多く所属するようだ。




