序章 放逐の箱舟
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星屑が散りばめられた美しい夜に、〝それ〟は我々の元に訪れた。
最初の発見者はサピル・シヌス帝国の酒に溺れた冒険者が潮風に当たり、呆然と海を眺めていた時のこと。
闇を照らすように夜空で何かが瞬くと、周囲に閃光が走ったという。
肝心な冒険者はというと呑気なもので
「お〜、なんだぁ、お前らもこっちこ〜い!」
と、大笑しながら仲間へ呼びかける。
呂律の回らない話し方で、途切れ途切れに状況を説明するも、最初は酒呑みの戯言と切り捨てられた。
しかしあまりにしつこく云うものだから、指差す方を眺めてみると、確かに巨大な何かが海に漂っている。
まさか海賊ではないか、だとすれば一大事だ。
その場にいた冷静な人々がすぐさま憲兵に知らせ、民衆が不安を抱えつつ夜が明けると、一隻の木製の船が浮かんでいるではないか。
状況を考えれば灯台の光を頼りに、帝国に迷ったとみるのが妥当。
だが乗員らしき人物は誰もおらず、奇妙な船と形容する他なかった。
「昨日までにこんな船あったか?」
「いや、どうだか……こんなもの私らには手に負えないよ。冒険者や兵隊さまに何とかしてもらわないと」
顔を見合わせて語らう人々へ
「どきなさい。許可なく船へ立ち入らぬように」
「賊がいるやもしれません。ですがご安心ください。我々が来たからには必ずや悪党を成敗してみせましょう」
鎧を着込む兵士が叫ぶと、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
けれども話題は〝それ〟についてで持ち切りだ。
兵士がたむろしても、民衆の視線は船に釘付けになっていた。