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7.兄との別れ

「アリックス!」


「まぁ、お兄様。お久しぶりですわね」


 兄が私の屋敷に来るなど初めての事。

 こちらとしては大して仲の良いとは言えない兄に来られても面倒なだけだった。



「お前!一体どういうつもりだ!!」


「何をそんなに怒っているのですか?」


「これだ!これに見覚えがないとは言わさんぞ!!」


 顔を真っ赤にして怒り狂っている兄が手に持っているのは一冊の本。そう、私の小説。


「なんてことをしてくれたんだ!!こんなもののせいで私は、私は!」


 ああ、自分がモデルだと気付いたのか。


「大丈夫ですよ、それは飽く迄もフィクションですから」


「な、な……」


「そのように取り乱せば、自分がモデルの兄だと証明してしまっているのと同じですよ、お兄様」


 そんな私の言葉に兄はさらに顔を真っ赤に染め上げ、言葉も出ない様子。そんな兄の耳元で私は囁くように言葉をつづける


「…………ですがこれはあくまでフィクション……もし現実にこの小説のような兄妹がいたのならばどうでしょうかね?妹に暴言を繰り返し嫌味を垂れ流す。そんな兄を持つ妹がいるのだとすれば……」


「……は、あ」


「私は、そんな可哀想な少女が一人の人間として自立する本を書いただけのこと。ええ、飽く迄もフィクションの世界ですから」


「あ……あ……」


「ただ、こう言った精神攻撃を繰り返し、責任逃れをし、自分の方が妹よりも優秀だと固辞し続ける事を世間では『モラルハラスメント』と呼び、問題視してるようですね」


「……な……」


 兄の目は完全に光を失っていた。だがそんなことは関係ない。

 まぁ、兄が焦る気持ちも解る。ぼかしてはいるけれど、これはどう見ても私達兄妹の事だもの。常に妹に命令口調で妹を貶し続ける兄。ええ、兄の友人達は気付いているでしょうね。両親だって薄々気が付いている筈。だけど、それを公にすることはできない。一応、貴族としての体面があるから。


「お兄様さえ黙っていればバレませんよ」


「だ、だが……」


「ええ。確かにこれは『フィクション』……ですがお兄様にだって解るでしょう?もしこの話が本当に現実に起こった出来事だとすればそれは大問題になりますからね」


「……」


 私の言葉で完全に黙してしまった兄はフラフラとおぼつか無い足取りで私の横を通り過ぎて屋敷を出て行ってしまった。


 その後、時を置かずして兄は新妻を連れて領地に去って行きました。名目上は「子爵家の次期当主として、領地の経営を学び直す」という事になってはいるらしいですけれども。

 要は逃げたのです。この話を表沙汰にする事も出来ないし、両親に相談する事も出来ず。かと言って妻に相談する事はもっとできない。そんな事を相談すれば妻は離婚届にサインして実家に帰ってしまう事は目に見える。でも私の近くにいるのは怖い。なら領地へと引きこもろうといった心境だったようです。私は別に兄を嫌ってません。好きでもありませんけど。あれで好きという感情になる人間がいたら、それは悟りを開いた聖職者か、もしくは何かに目覚めてしまった人だけでしょう。



 




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