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9話 ちょっとした亀裂から

翌日、午後のホームルーム終わり、放課後。部室前。

つまり、部活見学2日目。


──の、はずだったのだけれど。


『ごめん、忘れ物したから、先に部室入ってて! これ部室の鍵ね!』


という蒲生部長の言葉で、僕と道原さん、高崎さん、それと──昨日はいなかった、前髪を伸ばした男子生徒(おそらく同級生)1人で部室の見学者用の椅子に座り、待つことに。

今日は新庄は家の用事で、学校が終わったらすぐに帰ってしまった。

だけど、道原さんと高崎さんがいるから、変に緊張することもなさそう。


「遅いねー、部長。他の先輩たちもー」

「先輩たちは普通に授業があるみたいだから、その後片付けとかじゃないかな」


という高崎さんと道原さんの会話を流し聞きしながら、誰も演奏していない部室を改めて見る。

昼間は音楽室として使われているから、まだドラムやキーボードはセッティングされてはいないのだけれど、昨日の風景が思い出されてワクワクしてくる。

あんなに息を合わせて音を出すことができるのか、と驚いた。


そんなことを考えていると、部室外の廊下で足音がした。

部長だろうか。それとも、他の先輩?


部室のドアがノックされ、ガラッと開く。

その瞬間、気づく。


そうだった。

この学校には、僕をいじめていた奴も入っていたんだ、と。



「あれー、変態じゃん」


開口一番それか、という呆れとともに、おかしいけど、若干の安堵も。

ここに新庄や他のクラスメートはいない。いるのは道原さんと高崎さんと、見知らぬ男子生徒1人だけ。──新庄に、僕の内面が知られることはない。それだけはよかった。

最悪なことに、僕が座っている椅子の前までわざわざやってきた、僕をいじめていたこいつは、僕の内面を少し知っている。

『新庄はいねーみたいだな』なんて言っている辺り、これからこいつが何を言うかなんて分かりきっている。


「なあ変態、俺さー、この部活入りたいからさー、出てってくんない? ……目障りなんだよ」

「いや、それは」

「誰が喋っていいって言った(つった)? ああ!?」

「っ……!」


結局、他人をいじめるような人間は、何年たっても変わらないらしい。

極力怒らせないように笑顔を繕ってみたけど、逆効果だったようでキレさせてしまった。


「……おい、なんてことを言ってるんだ、安喰君に対して」

「んだよ、てめぇ誰だよ」

「道原包美。安喰君の友達だよ」


僕の隣に座っていた道原さんが立ち上がり、僕といじめっ子の前に立ちふさがる。

嬉しい。けど──そんなことをしたら、ダメなんだ。道原さんまでいじめられてしまう。


──言葉にしたいのに、怖くて声が出ない。

結局、僕はあの頃から何にも変わっていない。


「変態の友達? やめといた方がいいぜ、変態が移っちまうぜ」

「……いい加減にしろ、安喰君を馬鹿にするな」

「ちっ……邪魔だ、消えろ」


肩を掴まれ、突き飛ばされる道原さん。

駆け寄って『大丈夫?』と高崎さんが言っている。

──全部、傍観しかできない。


怖くて、身体が動かない。


「なあ変態、前みたいに殴られたくなきゃあ……」

「いい加減にしなよ、的内(まとうち)君」

「あぁ?」


一番端っこに座っていた男子生徒が、急に口を開いた。

まとうち──って、いじめっ子の名前。

なんで知っているんだろう。


「あれ、篠宮じゃん。お前もこの学校入ってたんだな」


しのみや、と呼ばれたその男子生徒は、おもむろにポケットからスマホを取り出し、何か操作をし始めた。


「おーい、無視すんなよ篠宮。……あれ、もしかしてお前も変態の仲間だった?」

「小学校の頃から変わってないね、君は」


小学校の頃から──ってもしかして、僕と同じ小学校だったのかな。

新庄くらいしか友達がいなかったから、他の人のことはほとんど覚えてないからなぁ。


「なあ篠宮、俺バンド組んでみたくてさ、よけりゃあ一緒に──」

『なあ変態、俺さー』

「……は?」


しのみや君のスマホから流れたのは、さっきのいじめっ子の音声。

出てってくれない、とか目障り、とか、ちゃんと聞こえるように録音されている。


「なんの真似だよ、篠宮」

「目障りなのは君の方だ。他人をいじめることしか能がないのなら、君の方がこの部室から出ていくべきじゃないか?」

「……今すぐその録音したの、消せ」

「なんで君に命令されなきゃいけないのさ」


や、やばい。めちゃくちゃ怒ってる。

このままじゃ、しのみや君にも被害が──。


「え、ちょっと、何の騒ぎ!?」


──扉が開き、部長や小平先輩たちが入ってきた。

倒れている道原さんと、しのみや君のスマホから流れている音声を聞いて事態を把握したらしい。


「小平君、先生呼んできて」

「は、はい!」


◆◆◆


あの後、今日の部活は中止になり、僕らは帰ることとなった。


結果から言うと、いじめっ子──的内君は、部室出禁となった。

先生からも物凄く怒られ、退学こそないが、反省文を提出することになったらしい。


そんなことはどうでもいい。

僕が一番心配していたことが、起きてしまった。

部長たちに、僕が過去に『変態』と言われ、いじめられていたことを知られてしまった。


嗚呼。

明日から、部活見学、……どうしようかな。

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