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8話 部活見学

「安喰、準備できたか?」

「うん、新庄」


午後2時。

(高校が始まってすぐだから、通常より早い時間の)帰りのホームルームが終わり、カバンを持ち上げたところに新庄が来た。

まだほとんどの部活は見学できないからか、クラスの他の人たちのほとんどは帰っていた。

──少し、気が楽だ。中学までの(新庄以外の)知り合いがいない教室っていうのは。


「じゃあ、部活見学、行くか!」

「うん!」


教室を出て、新庄の後をついていく。



軽音楽部の部室は、昼間は音楽室として使われている場所。

僕らのクラスがある第一校舎から渡り廊下を渡って、第二校舎の階段を上った先、4階にある。


「……あ」

「おお、聞こえてきたな」


4階に上がってすぐに、ベースとピアノ──キーボードだろうか、それら二つの音が聞こえてきた。

音楽室に近づくにつれて、その音は強く、大きくなっていく。


「ここだな」

「う、うん」


音が止んだタイミングを見計らい、新庄がノックをすると中から『はーい』と女の人の声。

うう、緊張してきた──なんて思う暇もなく、ガラガラッ、と音楽室の扉が開いた。


「あら、もしかして見学?」

「はい、可能なら見学したいのですが、大丈夫でしょうか?」

「もっちろん大丈夫よ! ささ、入って入って。あなたたちが一番乗りよ」


少し背の高い女子生徒──(おそらく3年生の)活発な先輩に促され、新庄と僕は音楽室──軽音楽部の部室に初めて入った。

扉を閉めようとしたところで、廊下で誰かが歩いてくる音。

僕らの他にも見学する人がいるらしい。部室から顔を出し、階段の方向を向くと。


「あ、安喰君!」

「高崎さん? それに、道原さんも」


見知った顔が二つも。

もしかして。いや、もしかしなくても。


「二人も見学に?」

「うん! あ、あたしたちも見学、いいですか!?」

「元気いいねー。もっちろん大歓迎! ささ、あなたたちも入って」

「失礼します!」

「失礼します」


本当に元気だな、高崎さん。

その後に入ってきた道原さん、どこかソワソワしている。


「あ、あの、質問いいでしょうか」

「ええ、いいわよ。……っとその前に、簡単に自己紹介しましょっか。クラスと名前くらいで大丈夫よ。あなたからお願い」

「あ、はい。1年1組、道原包美です」

「同じく1年1組の、高崎喜以子です!」


高崎さんたちに続き、僕らも名乗る。


「同じく1年1組、新庄樹です」

「僕も1年1組の、安喰和己です」

「はい、ありがとね。ウチはこの部の部長の──って、え、安喰?」

「……?」


僕の顔をじーっと見てくる、部長らしき先輩。

なんだろう、何かまずいこと言ったかな。──クラスと名前しか言ってないのだけど。


数秒ほど経って、はっ、と我に返る部長。


「ごめんごめん。ウチはこの部の部長をやってる、蒲生花(がもうはな)っていうの。担当パートはキーボード。よろしくね♪」

「はい、よろしくお願いします!」


高崎さんはさっきの部長の行動に何ら疑問を抱いていないようで、元気に返事をしていた。

なんだったんだろう、さっきの。

──あれ?


「……」


僕の方をじーっと見てくる人が、もう一人。

視線に気づいた僕が見つめ返すと、はっ、とした様子で、その男子の先輩が口を開く。


「えーっと、俺っちは小平大仁(こだいらおおひと)だよ。担当パートは見ての通り、ベース。よろしく」

「あ、はい、よろしくお願いします」


さっきの態度にこちらも戸惑いながら、挨拶を返す。


「そうだ、質問があるんだったわね。何かしら、道原さん」

「はい。その……まだ初めて間もない初心者なのですが、軽音楽部に入っても大丈夫でしょうか」

「もっちろん! ちなみにパートは?」

「一応、エレキギターを最近買ったので、それでいきたいです」


道原さんも初心者なのか、なんか親近感。


「自主練習ができる人なら大丈夫よ。部活だと、バンドで集まって曲を練習するのがメインだから、とにかく家とかで一人で練習するのが大事なの。初心者ならなおさらね。大丈夫そう?」

「はい! 頑張ります!」

「うん、よろしい。そっちの……高崎さんは、パートは?」


そうだ、道原さんと一緒に部活に来たってことは、何か楽器を──


「まだ決まってません!」

「あら、そうなのね」


──やってなかった。

道原さんについてきたのは、一緒にいたかったから、ってところだろうか。


「楽器を触ったことは?」

「うーんと……リコーダーと鍵盤ハーモニカくらいしかないです!」


元気よく言うことなのだろうか。

両方とも、小学校とかでやった程度だろう。


──昨日から楽器を始めた僕が言えることじゃないから、言わないでおくけど。


「それじゃあ、あなたは楽器決めからね。部室に備え付けのドラムとキーボードがあるから、それを触るところから。そっちの二人は?」

「俺はギターを少しやってました。なので、パートはギター希望です」

「僕はベースでお願いします。……まだ昨日始めたばかりなので、何にも弾けませんけど」


ここで『少し弾ける』なんて嘘をつく理由はない。

正直に初心者だと伝える。


「誰だって最初は初心者なんだから、気にしなくていいわよ。ベースなら……小平君、アドバイスとかしてあげてね」

「了解っス。よろしく」

「よろしくお願いします、小平先輩」

「……お、おう」


ちょっと照れてる。

小平先輩、感情表現が不器用なのかな。


「それじゃ、今日は思う存分、見学してってね。よーっし、ウチらの演奏、見せつけるよ、みんな!」


おー、と蒲生さんのバンドメンバーが腕を掲げて声を上げる。

わんつーすりー、から始まったのは、今流行りのガールズバンドの、何かの主題歌になった曲。


すごい迫力。

こんな演奏ができるようになるのだろうか。

いつか、僕にも。


そんなこんなで。

部活見学一日目は、思う存分、先輩たちの演奏を浴び続けたのだった。

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