7話 月曜日の朝
翌日、月曜日の朝、ホームルーム前。
クラスの自分の席に着く。
「おはよー安喰」
「あ、おはよー新庄……」
「……? なんか元気ないな」
あとから入ってきた新庄に、すぐに気づかれた。
元気がないわけじゃなくて、少し──。
「指先が痛くて」
「ああ、昨日買ったベース、早速触ってみたのか」
「正解」
やっぱり、新庄はギターをやってるからかな。
『指先が痛い』という一言だけで伝わったみたいだ。
「で、どうだ?」
「どうって?」
「ベース、続けられそうか?」
──なんとも返答に困る質問だこと。
でもまあ、と正直に答える。
「楽しいな、っては思ったよ」
「そうか。なら大丈夫、続けられるだろうよ」
「そういうものなの?」
「そういうもんなの」
なるほど。
確かに、ベースを初日から(弾けているとはお世辞でも言えないとはいえ)楽しめているのだから、続けられるのだろう。
「ところで、新庄」
「なんだ?」
「入る予定の部活、変わってないよね……?」
「当ったり前だろ、軽音楽部に入るつもりだぜ」
よかった、と胸をなでおろす。
これで新庄が『別の部活に入る』とか言い出したら、知り合いのいない軽音楽部に一人で入部する、なんていう嫌すぎる事態になっていたところだから、すごく安心した。
「ああ、でも」
「え?」
で、『でも』?
まさか、他の部活に靡いているのでは。
すっごく不安なのだけど。
「部活見学をしてからだけどな。安喰に嫌な思い、してもらいたくないからな」
「あはは……」
小学校の時から変わらず、僕のことを考えてくれている。
とても嬉しいことなのだけど、一応伝えておかねば。
「自分の入りたい部活に入るのが一番だよ、新庄?」
「わかってるよ。安心しろ、軽音楽部以外は考えてねぇから」
「ならいいんだけど……」
昔みたいに、変な噂が立って僕だけじゃなくて新庄にまで迷惑をかけてしまっては申し訳ないから。
そこは本当に気を付けなければ。
「部活見学っていつから始まるの?」
「部活によって違うらしいけど、軽音楽部は早速今日から始めるらしいぜ」
「早くない……?」
部活見学って、普通は新年度のドタバタが落ち着いてから始まるのでは。
「他の部活と違って、バンドを組むところから始めるからじゃねぇの?」
「なるほど」
バンドを組まずにいきなり『練習!』って言われても、何をやればいいかわからないからかな。
「で、今日から始まる見学に、今日から行こうと思ってるわけだけど、それでいいか?」
「もちろん。僕は部活って初めてだし、どんな雰囲気か見てみたいし」
「よっしゃ、決まりだな」
会話を切り上げて、新庄は自分の席に向かった。
──ちょうどそのタイミングで、僕の席の右斜め前、教室前方の扉が開いて生徒が二人入ってきた。
そのうちの一人は、スラックスを履いた女子生徒。
(あ……)
おしゃべりしながら入ってきたのは、道原さんと高崎さん。
教室では声をかけない方がいいかな、と小学校からの癖でカバンから物を探すふりをする。
「あ、安喰君! おはよ!」
「あ、おはよう、高崎さん……」
高崎さんには無意味であった。
おずおずとカバンから視線を高崎さんたちに向けて、挨拶を返す。
「おはよ、安喰君」
「おはよ、道原さん」
道原さんにも返す。
──なんか、後ろから視線を感じる。
「ほー……」
ちらっと振り向き確認すると、新庄が感心していた。
小学校と中学校では、新庄以外の友達が皆無だったからか、この事態を物珍しそうに眺めていた。
しかしこっちにもう一度歩いてくる様子はない。
「それじゃ、また」
「あ、はい」
「えー、お話ししようよぉ」
「ホームルーム始まっちゃうって。またあとで話そう?」
駄々をこねる高崎さんを連れて、道原さんは自分の席へと歩いていった。
ホームルームがあと数分で始まるからか、新庄も自分の準備をしていて、僕に再び話しかけてくることはなかった。
(……まぁ)
新庄にからかわれたことなんてないけど、ちょっと緊張してしまっていた。
──小学校の頃のことを思い出しそうになって、胸にモヤがかかりかけた。
(……大丈夫)
あの頃のことを知っている人は、少なくともこのクラスには新庄以外いない。
大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせて、ホームルームが始まるのを待つ。
部活見学のことを考えて、気を紛らわせて。
ホームルームが始まるのを、待つ。