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夢の中では女の子  作者: イノタックス
2章 『急な出来事』
17/17

17話 どんよりとした放課後に

(うーん……)


放課後。今日は顧問の先生の都合で、軽音楽部はお休み。つまり見学もお休み。

──どこかどんよりとした空気。空もどんよりと、そのうち雨でも降るだろうな、という暗さをまとっている。

そんな中、僕は第二校舎の1階にある自販機まで飲み物を買いに来ていた。

動画で見た、新発売のジュースが自販機にあったと新庄から聞いて、薄暗い校舎の廊下を歩いてきたのだ。

無事に買えた。ペットボトルのジュースをカバンの中に入れて、雨が降る前に帰ろう、と渡り廊下のある2階に戻ることに。


(訊いてみる、……いや、訊かない方がいいよねぇ)


授業中も、合間の休み時間も、こうして一人でいるときも(新庄は家の用事で早く帰ってしまった)。

朝の一件がどこか心に引っかかっていた。


『篠宮君って、安喰君に似てるの』


高崎さんの言葉が、浮かんでは消えていく。

他人の内面のことを、気にしすぎてはいけないのはわかってはいるけれど、どうしても気になる。

最後に見せた、顔を(なぜか)真っ赤にしたのも気になっている。


──いや、なぜかもなにもないか。

ただ怒っていたのだろう。

僕みたいな──変なのに『似ている』なんて言われたから。


そんなことを考えていたからだろうか。

引き寄せたわけではないのだろうけど。



「あれ、変態じゃん」



最悪なタイミングで、最悪な奴と遭遇してしまった。



こんなことなら、一人で第二校舎に来るべきじゃなかった。

弱虫だなぁと自分でも思うけれど。

新庄はいないし、あの時かばおうとしてくれた道原さんや高崎さんもいない。

こいつ──的内を追い返してくれた篠宮君も、もちろんいない。


「なぁ」

「……っ」


恐怖で、身体がびくっ、と震える。

何年たっても、僕は変われていないらしい。


「そんな怯えんなってー。悪かったって思ってるからさぁ」

「……何の用?」


警戒は解かずに、訊いてみる。

薄ら笑いを解かずに、的内は言葉を続ける。


「俺さー、軽音部入りたいんだわ」

「……そう」

「そのためにさー、顧問のせんせーに説明してくれよ、『勘違いでした』ってさ」


──誰がそんなことをするもんか、バカ。

そんな乱暴な言葉が出かけたけど、必死に抑えて返答する。


「ごめん、それは、できない」



動悸と背中の冷や汗を悟られないように、たどたどしくも拒否の言葉を言えた。

ほんのちょっとだけ、だけど成長できた気がして、心の中でガッツポーズ。

さて、的内の反応は。


「──へぇ、そっか、そーっか」


ぶっきらぼうに、そんな感情ではないであろう口調で、納得を意味する感嘆詞を吐き出していた。

それから、ちょっと大き目な声で。


「殴っちゃおっかなー!」


周囲を見回しながら、小学校の時に何度も言われた言葉を発した。──僕ではなく、廊下、というか周りの空間へ。

これはまずい。これは──『確認』の言葉。

要するに、誰もいないことを確認するための言葉。


逃げよう、というところまで頭が回ったときには、すでに遅く。

的内は怒りの形相で、拳をぎゅっと固く握り、僕の顔の高さまで上げていた。

──パンチの予備動作。逃げられなさそうだから、せめて顔だけでも守ろうと、目をつむってカバンを顔の前に持ってくる。

間に合うか、間に合わないか。それくらいのタイミングだったと思う。


だけれども。

今回は、実際に殴られることはなかった。



パシャリ、と。

どこかで、カメラのシャッター音が聞こえた。




ゆっくりと、ゆっくりと、カバンをおろしながら目を開ける。

的内の拳が、すぐ目の前まできていた。


「誰だぁ!?」


拳を下ろし、しかし変わらぬ形相で怒鳴り散らす的内。

スマホのカメラのものらしきシャッター音は、階段があるほうから聞こえた気がするのだけれど、そこには──。


「やあ、的内君」

「……篠宮、てめぇ……!」

「おおっと、動かないでね的内君。……資料写真は多い方がいいでしょ?」

「てめぇ、撮りやがったな!」


篠宮君が、階段の陰から歩いてきた。

今度は篠宮君を殴るためだろうか、拳を固めたまま、篠宮君に向かって走り出そうとした──のだろうけど。


「ぐへっえ」


後ろから制服の首元を掴まれ、廊下に派手に背中を打ち付ける的内。

今度は一体誰が──と考える前に、その人の名前、というか役職が僕の口から飛び出していた。


「部長!?」



「やっほ、安喰君」

「部長、なんで……」

「呼ばれたからね。後輩のピンチを助けてこその先輩でしょ?」


ドヤ顔で、顎の下でピストルポーズでかっこつける部長。

実際かっこいいから、いいのだけれど。


「呼ばれた、って、一体誰に」

「ボクだよ」


篠宮君が口を開く。


「的内君が安喰君の後をつけていたから、部長たちに連絡してから、さらにその後を追ってきた、ってわけさ」

「びっくりしたわよ。後輩からいきなり呼び出されたんだもん。まさかこんなタイミングで告白!? キャー! ……なんてのは嘘だけど」

「あはは、いくらボクでも、さすがにそんなことはしませんよ」


軽く話しているけれど、その内容は──僕を助けるために篠宮君が色々してくれた、ということ。

まだ混乱しているけど、とりあえず。


「あ、ありがとう──ございます」


部長に対して、頭を下げた。


「気にしなくていいのよ。それと──『的内君』だったかしら?」

「っ、畜生──」


立ち上がり、篠宮君と部長の横を必死の形相で走り抜け、階段を上ろうとしたのだろうけど。


「残念、逃げられないよ」


篠宮君と一緒に隠れていたのだろうか。

部活の2年生──小平先輩が、階段の前で立ちふさがっていた。


「……っ、ちくしょう……」


心の底から悔しそうに。

呟いて、ついに的内は諦めたようだ。



「じゃあ、ウチと小平君でコイツを職員室まで届けるから。君たちも一緒に来てもらってもいい?」

「もちろんです、部長。安喰君が落ち着いたら、後から行きます」

「わかったわ。じゃあ、行くわよ的内君」

「……ウス」


的内はうなだれながら、先輩二人に両脇を囲まれて渡り廊下がある2階へ歩いて行った。


「し、篠宮君、僕はもう大丈夫だから──」

「本当に?」

「……ちょっと、だけ、まだ動悸が」

「ボクはこのあと用事ないし、家に帰ってすることもないから。だから、もうちょっと落ち着いてから、ね」


じゃあ、と篠宮君の言葉に甘えることにする。

カバンをとさっ、と廊下の床に置いて、床に座り込む。


「……ありがと、篠宮君」

「気にしないで」


どこか嬉し気な表情で、そう返してくれた。

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