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12話 『夢を見たんだ』

翌朝、木曜日。いつも通り、一人で高校へ登校中。

昨夜はあの後はやっぱり、夢を見なかった。ぐっすり眠れたみたいで、寝起きは快適の二文字だった。


ただ、昨日の夢をすっかり忘れるくらいまでの眠りではなかったようで。


「はぁ」


昨日の夢を思い出して、小さなため息をついていた。



『ようやく言葉にできたね、かずみ』



そう話す、新庄の顔が脳に焼き付いて離れない。


もちろん、あれはただの夢。明晰夢だとは言え、夢には違いない。

新庄じゃないし、新庄が話した言葉でもない。


だけど、引っかかる。あの話し方、どこかで──。



「お、安喰!」

「──~~!?」


──びっくりして、裏声みたいな変な声が出た。

思わず周囲をきょろきょろ。誰もいない。一人以外は。


「お、おはよう、新庄」

「おう、おはよう! どうかしたんかよ、そんな驚いて」

「いや、急だったから。ただそれだけだよ」

「ふぅん、ならいいんだけどよ」


スタスタと早歩き──やや小走りの域にも入っているような歩みで、肩にかけたカバンを揺らしながら、僕の右隣に新庄が来る。


「そういやあ、先輩から練習するように言われてたギターのフレーズ、できるようになったぜ!」

「……昨日の見学で言われたばっかじゃなかったっけ?」

「まあ、簡単なフレーズだったからな。普段の基礎練とそんなに変わらねぇよ」

「そうなんだ……」


ベース始めたての僕と比べるのも失礼だけど。

なんというか、まぁ。


「すごいね、新庄は」

「ふふん、そうだろうそうだろう。まあ、今までの練習が実を結び始めたって感じかねぇ」

「練習かぁ」


高校の校舎が見えて、他の生徒もちらほらと。

校門をくぐりながら、雑談は続く。


「僕も練習頑張ってるんだ。まだまだだけどね」

「……大丈夫だろ、お前なら」

「大丈夫って、何が──」


会話が繋がっていないような、と。

僕の右手をじっと見て、どうしたんだろう。


「今朝も練習したんだろ、ベース」

「え、なんでわかったの!?」


確かに、朝早く起きたから、小平先輩から言われてたベースの基礎練習をちょっとだけやったけど。

今までの雑談では、話していないよね。──なんで?


「右手の人差し指と中指、赤くなってるぜ。多分左手も赤くなってるだろ」

「……すごいね、さすがの観察眼だ」

「それだけの熱量があれば、きっと上達するぜ」

「そう言ってくれるだけで嬉しいよ」


本当に、新庄の言葉には不思議な力がある。

何度新庄に元気づけられたことか。


「そういえば、さ」

「なに?」


昇降口をくぐり、上履きに履き替えながら新庄が話す。


「夢を見たんだ」

「──、え?」


また、裏声みたいな変な声が。

今回は聞こえないくらい小さな声だったから、新庄は特に気に留めずに続ける。


「文化祭に出て、ステージの上でギターを弾きながら歌ってんだ。もちろん、俺が、だぜ?」

「あ、ああ、なるほど」


そりゃそうか。

僕が見た夢と、新庄が見た夢が同じなわけがない。

昨日の明晰夢については、ひとまず忘れよう。


上履きに履き替え終えて、教室に行くために階段を上りながら、会話は続く。


「バンドメンバーが俺以外に何人かいて、……まあ、夢だから顔はよく覚えていねぇんだけど、安喰がいたのだけは覚えてんだ。俺の隣でベース弾いてたんだぜ、お前」

「え、僕が……?」


なんでまた。

少し、いやかなり戸惑う。

軽音楽部に入るつもりがないからという理由で戸惑ったわけではない。

僕が新庄と同じバンドでベースを弾いている姿を、一度も想像したことがなかったから戸惑ったのだ。


「何、不思議そうな顔してんだよ。今見学に来てる1年の中じゃあ、ベースを弾けるのはお前だけじゃんか」

「いや、弾ける、というほどじゃないし……」

「そんな弱気でどうすんだよ」


まったく、と階段を先に上り終えた新庄が続ける。


「さっきも言ったけどさ。朝練をしてるくらいの熱量があるんだ。お前ならきっとすぐに上手くなる。俺が保証するよ」

「ま、まあ、そこまで言われたら……」


悪い気はしない。


「今日も放課後、部活見学行こうぜ、安喰」

「うん、新庄!」


教室に入った新庄に続き、僕も教室に入る。


(新庄と同じバンド、かぁ)


まだまだ想像できないけれど。

そう遠くない将来、そんな未来がやってきそうだ。


そう思った、朝だった。

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