11話 変わる夢
ひどーく、ぼんやりとした感覚。
日の光がまぶしいからだろうか。公園のベンチに腰掛けたまま、太陽に手をかざして──違和感。
かざした右手が透けている。
「──」
視線を左に座っている誰かに向ける。
そこには、僕の大切な──友達、制服姿の新庄が座っていた。
再び視線を移動させて、今度は正面で話している、黒い影を眺める。
ショートカットでスラックスを履いているのは、おそらく道原さん。
その横で元気そうに何かを話しているのは、たぶん高崎さん。
そこで、ようやく気付く。
(ああ、ここは──)
夢の中だ、と、
◆◆
いつも見ていた明晰夢。
意識が鮮明になっていくにつれ、いくつもの変化した点に目がいく。
隣に新庄が座っていて、僕の正面には道原さんと高崎さんが立っている。
何より──
「晴れてる……?」
今までは、いくつもの絵の具を混ぜ合わせたような、混沌とした色の空だった。
それが、太陽が確認できるくらい、雲一つない晴れ切った空へと変わっていた。
何が原因だろう。
この眩しい空は、間違いなく、僕の心境を表しているのだろうけど。
何が原因で、こんなに晴れやかな空間へと様変わりしたのだろう。
『きっと大丈夫だから』
──道原さんの言葉を思い出す。
あの一言だけで、夢がこんなに変わってしまうなんて。
変わってしまえるなんて。
晴れ渡った空を眺めながら、ふと、この『夢』について思いをはせる。
◆◆
明晰夢を見始めたのは、小学生の時から。
きっかけは──大方の見当はついている。
いじめられていた時期に見始めたのだけど、その時から僕は──女の子の服装を身にまとっていた。
襟や袖にフリルの着いた、真っ白のブラウス。
くるりと回れば、ひらりと宙に舞う、少しだけ長めのスカート。
靴下もフリル付き。靴はピンクのハートの模様があしらわれた、スニーカー。
髪の毛は肩にかかるくらいの、いわゆるロングボブ。
ザ・女の子、って感じの服装。
──だってのに。
最初から僕は、なんで女の子の服装を身にまとっているのか、分からなかった。
スカートなんて履いたことなかったから、夢の中でも違和感がすごかった。
ただ、こんな夢を見たってことをクラスメイトに知られたら、またいじめが酷くなるだろうから、誰にも言わないようにしよう、と心に決めたのを覚えている。
今だって、ちゃんとわかっているわけじゃない。
でも。
もしかしたらそうなのかも、という考えは中学生の頃から、心の中にずっとあった。
言葉にして、発してもいいのかもしれない。
そんな考えもありかもな、と晴れ渡った空を見上げながら、ぽつりと口から発する。
「僕は──」
◆◆
言い終えて、周囲を確認する。
相も変わらず、空から太陽の光が降り注いでいる。夢の中だというのに暑さを感じそうなほど。
道原さんと高崎さん、二人のぼんやりとした影は、まだおしゃべりをしている。言葉は聞こえないけれど、少なくとも、僕への敵意は感じない。
(わかってはいたけど……)
言葉にしたところで、何にもならないなぁ、なんて。
ベンチから立ち上がり、そんなことを思っていると、後ろから声。
「ようやく」
──え、『声』?
「言葉にできたね、かずみ」
振り返った僕の目を見つめて、──新庄が話していた。
僕の意思とは無関係に、新庄が語り掛けていた。
◆◆◆
「……っ!」
がばっ、と掛け布団をはねのけて上半身を起こす。
まだ真っ暗。窓の外からも光は入ってきていない。
心臓がバクバク言っている。
エアコンはまだ効いている。そのくらいの時間。
──ええい、落ち着け僕。
一旦落ち着いて、夢の内容を整理する。
今までとは、大幅に色々変わっていた。
新庄がいた。
道原さんがいた。
高崎さんがいた。
混沌色の空は、晴れ渡っていた。
夢の中で、新庄が──語り掛けてきた。
「……いや」
冷静になるにつれ、違和感が膨らんでくる。
確かに新庄の声だった。だけれども。
(──新庄じゃない)
抑揚とか、発音とか。
僕のことを名前で呼んだところとか。
色々違和感を覚えたけれど、とにかく──あれは、新庄じゃない。
だとしたら、あれは一体。
「……まあ、いっか」
明日も学校だから、寝よう。
横になり、掛け布団を掛けなおして、目を閉じる。
たぶん、もう今日は夢は見そうにない。
そう感じながら、また眠りに落ちていった。